「オープン」なメタバースの作り方 | 後編
オープンメタバースのエコシステム、オープンなスタンダードとプロトコル、新世代のVtuber「CodeMiko」、人間を超える未来を考えているFacebook
はじめに
前回の記事ではオープンとクローズドの違いやオープンメタバースを作る上での障壁について説明しました。今回はオープンメタバースの作り方について解説します。
オープンメタバースのキーワードは、相互運用性(interoperability)、クロスプラットフォーム、アイデンティティ、分散型な社会。最初におさらいとして、オープンメタバースとは何か?、そこを作る上でのコアなインフラ、デジタルとフィジカルな世界の繋ぎ込み、インフラを作っているサービス紹介、人気になるまでの課題、そして最後には面白いユースケースなど話をしたいと思います。
今回の記事は、数少ないオープンメタバースの第一人者のCrucibleのCEOであるライアン・ギルさんとの実際の会話や彼がVenture Partnerとして所属していたOutlier Venturesの考えを元にしています。
オープンメタバースとは何か?
そもそもメタバースの初期定義は、フィジカルとデジタル世界の差がなくなること、いわゆるARとVRが融合されてMixed Realityが主流になることだった。今では多くのメタバースっぽい体験はデジタルオンリーで行われているが、Web 2.0時代では混合する体験は多い。例えばEC体験はオンラインでの購入体験とリアルの配送やフィジカルの商品を提供している。ここで重要なのは、メタバースというものは突然現れるものではなく、徐々に進化していくもの。
その中で前回の記事でも話したように、クローズドなメタバースとオープンなメタバースを作ろうとしている会社がいる。今現在のクローズド・オープンとLo-Fi・Hi-Fi(参加するための必要なハードウェアやデバイスのクオリティ)の会社を見ると、以下のようになる。
オープンメタバースとは誰もがどんなデジタルやフィジカルな体験・世界に行くことができ、各エコシステムで作ったアセットや購入したものが他の世界にも持って行けて、それが世界を作った会社やプロバイダーのものではなく本当に個人が所有する環境だと思っている。今のデジタル世界だとプラットフォーム間で同じアバターで移動や情報・アセットの持ち運びが難しい。Facebookでアップロードした写真をFortniteの世界に持って行けないのは今のWeb 2.0のクローズドプラットフォームの世界があるから。ただ、裏ではインターネットのスタンダードやオープンプロトコルによってFacebookもFortniteも読み込めるJPGという画像フォーマットがある。オープンメタバースはJPGを読み込むだけではなく、どんなプラットフォームでも自分のアセットを持ち込める世界を作ることになる。
そしてインターネットと同じように、オープンにすることによって、より多くのユーザーが入り込み、どのクローズドメタバースよりも大きい経済を作れると思っている。
どうやってオープンメタバースを作るのか?
オープンメタバースを作る上では、いくつかのコアなインフラが必要になってくると思われる。Web3の分散化されたエコシステムが大元となるが、どの国や会社を超えるには出来るだけ分散型なシステムが必要となってくる。そうすると自然とブロックチェーンの話とかになる。
今回の記事では、多くのブロックチェーン技術やサービスについて解説するが、正直すべてを理解しきれてない部分もあるかもしれなく、その点ご了承ください。
そんな中、個人的には以下のインフラがオープンメタバースを作る上ではまず必要と思っている:
ここからは各インフラの部分を詳細に説明します。
アイデンティティと所有権を持てるデジタルアセット
FortniteやRobloxがメタバースっぽいと言われている一つ大きな理由は、各ゲームの中心には自分のキャラクター・アバターがいるから。Fortniteがマーベルとコラボした時にはアイアンマンにはなれないが、アイアンマンのスーツを着用することができるかもしれない。それはディズニーランドに行ってもプリンセスのコスプレができてもプリンセスではなく、自分のアイデンティティを保つことと同じ。実はこれはメタバースを作る上では必要になってくる。世界中の人間が一人一人違うように、メタバースでも「自分」というアイデンティティを作れないといけない。これは元々アバターという概念で出来上がっていると思ってたため、GeniesやBitmojiみたいなアバター企業がメタバースのインフラになると思ってた。ただ、今回オープンメタバースと今までのインターネットを考えると、これは間違いだったかもしれない。
昔は人は自分のリアルの世界のキャラや性格、プロフィールをWeb 2.0の世界、特にSNSでそのまま表現していた。ただ、今はその流れも変わってきている。色んなプラットフォームが出てきて、各プラットフォームに集まるユーザーと求めるものが変わってくる中、Z世代や若者たちは各プラットフォームで自己表現や自己アピールの仕方を変えている。日本でもTwitterだけでも複数のアカウント・プロフィールを作る。リアルな世界でも人によっては友達の前での性格と仕事での性格が変わる。デジタルの世界ではより自由な自己表現ができるようになり、本当に考えられなかった世界を作れるようになる。それを考えると、一つのアバターだけでメタバース内の全ての世界を体験することは間違い。アバターは各プラットフォーム上のプロフィールであり、それの裏に紐付けるメールアドレス、電話番号、何かしら共通するアイデンティティが必要となる。
これを実行しようとしているのが「Crucible」。彼らはオープンメタバースで必要なコンセプト「Direct-to-Avatar」技術を作っている。各デジタル世界がCrucibleのSDKを導入すると、ゲーム内でプレーヤーがCrucibleの画面をオーバーレイとして表示が出来るようになっている。まず、一つのアバターで複数の世界に行けるようにしている。彼らはGenies、Unity、Unreal EngineのMetahumansなどと既に連携している。
さらにCrucibleは一つのアバターでユーザーは満足しないことを理解しているため、複数のアバターを一つのアイデンティティに紐付けて、ユーザーがデジタル世界の出入りをする際にその世界に合わせたアバターを選ぶ、保存する、もしくは作ることが可能になる。
さらにCrucibleでは個人のセキュリティー面の管理も行っているので、マイナンバー的な役割としても使える。それが行えることによって、アバターを個人と紐付けるだけではなく、ウォレットを紐付けて経済取引を行ったり、物・デジタルアセットを紐づくことも可能となる。
今現在はFortniteでスキンを購入しても、Robloxでは使えないし、Fortniteがシャットダウンすればゲーム内のデジタルアセットが全て失われる。オープンメタバースの中では、デジタルアセットが自由に動き回れる世界を作らなければいけないのと、それが個人が所有した時には個人の物にならなければいけない。ここで出てくるのがやはりNFTで、NFT技術がなければこのオープンメタバースに繋がらない。NFTとは何か、そして今現在どういうふうに活用されているかについては過去に記事を書いているので、そちらをご覧ください。ただ、重要なのはNFTは所有権を表すことなので、メタバース内のデジタル世界間でデジタルアセットを移管するための裏のインフラとなる。そしてもう一つ重要なのはアイデンティティとデジタルアセットの紐付け。例えデジタルアセットを購入した世界が無くなったとしても、そのデジタルアセットを購入した以上、自分の物にならなければいけない。リアルな世界だと例えばナイキが倒産しても、ナイキの商品を購入した人たちのナイキブランドの物が急になくならないことと同じ。それをデジタルの世界でも再現しなければいけない。
このデジタルアセットの流動性を作ろうとしているのはCrucible以外に、デジタルスニーカーの「RTFKT」がいる。彼らがやろうとしているのは、どのデジタルアセットもいろんな世界で使えるようにすること。それを行うために彼らはCrucibleと連携したり、それ以外に様々なゲームプラットフォームやSNSと連携し始めている。
Crucibleはアバターではなくアイデンティティのレイヤーを開発しているため、本当にメタバースでは根本なインフラになりそう。彼らのUIを見ると、一つのゲームを遊んでいても他のデジタル世界でも使えるウォレット、デジタルアセット(Gear)、そして連絡先やコミュニケーションが行えるようになる。
オープンなスタンダードとプロトコル
今まで話したアイデンティティレイヤー、ウォレット、デジタルアセットの流動性などを行うためには裏にオープンなスタンダードやプロトコルが必要となっている。他のインフラでも関わる話で全てを説明するとキリがないので、いくつか事例を説明します。まずはどの会社もコントロールできないオープンソースのウォレットソフトウェアが必要となる。ユーザーが本当に自分だけでコントロールできる資産管理する物があると、会社や組織に頼るリスクが削減される。もちろんオープンソースではなく、クローズドなウォレットを提供する会社もあっても良いと思うが、誰でも使えるウォレットはあるべき。
さらにメタバースでは分散型のクラウドが必要となる。今だとAmazon、Google、Microsoftが66%のクラウド市場をコントロールしているため、その三社のルールに従わなければいけないため、Parlerのような事件になりうる。今後は一つの会社ではなく、人々のスマホやメタバースに参加するためのハードウェアを通してこれが避けられる時代が来るかもしれない。そして後ほどガバナンスの話でもするが、より高いハードウェアを活用する人にはより負担してもらう代わりに、トークンの取得やメタバースの経済圏・ガバナンスに関われる形が取られるかもしれない。
そして最後に必要なのは、デジタルの世界とフィジカルの世界の繋ぎ込みが出来るプロトコル。これはいわゆるフィジカルなプロダクトでもメタバース内で流動性がある形にするプロトコルとなるが、今現在それに一番近しいものが「Boson Protocol」。Boson Protocolは、リアルなプロダクトやサービスをトークン化してくれる。Boson Protocolではフィジカルな商品をNFT化して、それをデジタルの世界で売買が出来る仕組みとなる。
もちろん逆のユースケース(デジタルからフィジカル)でも活用できる。例えばメタバースでブランドがクーポンをもらったり、ゲームでの賞金をフィジカルな世界の物に出来る。そしてもちろんそうするとフィジカルで作ったアセットのデジタル版のアセットと紐付けることも可能になる。具体的にBoson Protocolについて知りたい方はBoston Protofolのホワイトペーパーをご覧ください。
分散型のガバナンス
メタバースはインターネットと同じく、国の支配の元には置けない、分散型なエコシステムでなければいけない。ただ、そうすると根本的なインフラが進化する際にメタバースのアップデートや新しい開発の判断は誰がすれば良いのだろうか?これを複数社に任せるのは良くない。メタバースは一元化された政府ではなく、分散型のガバナンス方法を取るべきだと思っている。これを行うためには2013年ぐらいからコンセプトとしてあったDAO(自律分散型組織)を使う必要がある。実はシリコンバレーでは少し前に流行っていたNFTの次に今盛り上がっている単語・バズワードがDAOとなっている。過去のポッドキャストで話した「ソーシャルトークン」もこの一環とも言えるもの。このDAOを活用してよりオープンにアイデアの提案をしあって投票ができる仕組み、そしてブロックチェーン上で全ての取引や行動が可視化できるため、悪質な行為が行えなくなる可能性があります。
DAOとは何か
まずDAOとは何かを説明します。今回はより具体的にガバナンスの話などを行うので、そのほかのユースケースなどを知りたい方はこちらをご覧ください。Hedge Guideによると、DAOは特定の管理者や主体を持たない分散型の組織で、組織内の階層構造もなく、構成員一人一人によって自律的に運営されているのが特徴です。DAOには管理者がいないため、組織としてのあらゆる意思決定や実行、ガバナンスは構成員の合意によりあらかじめ定められたルールに従って執行されます。
DAOが可能になっているのは、イーサリアムのおかげ。イーサリアムでは、スマートコントラクト技術を併用して契約を自動化することによって、あらゆる契約の仲介者を不在にするプラットフォームの構築を目指している。NFTが一つのデジタルコンテンツ・アセットを示していれば、DAOはメディア企業や組織となる。企業だと取締役や経営陣が会社の方向性を決めるが、その判断は可視化されてなく、数名が決めることとなっている。
DAOではトークンを保有している人たちが全員会社の方向性や提案に対して投票ができる。トークンの発行の仕方も、定期的にある数を発行する形もあれば、プラットフォームにどれだけエンゲージ・参加するかによってトークンがもらえたり、組織によってルールを決められる。
過去にThe DAOやUniswapなどDAOの事例があるが、まとめるとあらかじめ決めるルールをコード化して、それに基づいて自動的にDAO内のプラットフォームが運用される仕組みとなっている。よく使われるDAOの事例は自動運転組織。自動運転サービスがDAO上で出来ていれば、いろんなルールをまずコード化する。例えば、ユーザーに最も近い車がユーザーを向かいに行き、ユーザーが乗り終えたらガソリンが必要かどうか確認し、必要であればトークンなどを使って燃料を補給させるルール。もしルールを変更したければ、トークンを持っているユーザーが新しい案を出してそれについて投票を行う形となる。
もちろん初期段階では複数人が集まってメタバースを作るべきだが、メタバースがスケールできる段階ではユーザーが所有権・議決権を持つべきである。今まではプラットフォームが成長しても特定の人たちしか儲からなかった(プラットフォームの株主)。最初はプラットフォームは大体オープンになっていて、その影響で多くのユーザーや開発者が集まるが、スケールすると利益を出すためにユーザーからバリューを取るケースが多い。
DAOでは参加者全員が株主でありユーザーになるので、プラットフォームが成長するとユーザーが保有するトークンの価値も上がる。コミュニティオーナーシップモデルは今までなかったのは、それを実現する技術が今までなかったから。DAOを上手く運営すると、プラットフォームとユーザーのインセンティブが統一され続ける。
今のところ4つぐらいのDAOが考えられる。
クリエイターDAO
以前ポッドキャストで話したような形で、クリエイターがファンと一緒にレベルアップできる形。クリエイターのスーパーファンが応援するために初期投資して、コンテンツ制作のアイデアやプロモーションをしてくれる。
トークンコミュニティ
こちらがソーシャルトークンの事例となる。Rollなど最近ハックされて炎上しているが、トークンを持っていれば特典をもらえる課金型コミュニティの一環。
投資家DAO
元々のDAOの使われ方で、投資家がDAOにお金をプールして、投資先をいろんな人が提案して投票で通れば自動的に投資する仕組み。
プロトコルDAO
メタバースで必要なDAO。ガバナンストークンを発行して、プロトコル政治家や一般ユーザーがルール変更などを提案、それを投票する形となる。
今Twitterが分散化されたSNSを作っていると聞くと、もしかしたらDAOみたいな分散化されたガバナンスを可能とする機能を入れるかもしれない。
グローバルで流動性のある経済・通貨
メタバースの一つの重要要素は国がコントロールする通貨に影響されない経済圏を保つこと。今ではRobloxでも他のゲーム内通貨の交換が難しい。大体円やドルなどの法定通貨からゲーム内通貨への返還は可能だが、逆は難しい。さらにFortniteの通貨をRobloxの通貨に変えるのはさらに難しい。そしてFortniteやRobloxの通貨を大量に持っていても、それを活用して借入ができないし、リアルな世界と紐付けない。そうするとメタバースの通貨が必要となる。もちろん各世界では別々の通貨があるかもしれないが、何かベースとなれる通貨システムが必要となり、しかもそれが国がコントロールできない形にしなければいけない。そこでやはり出てくるのはビットコインやイーサリアムみたいなブロックチェーンベースの通貨。
さらに必要なのはお金だけではなく、数社がコントロールできない金融システム。そこで出てくるのがDeFi、いわゆるイーサリアム特有のスマートコントラクトを活用して銀行やミドルマンを取り除くアプリケーション。具体的に説明すると長くなるが、流動性のある、分散化された通貨や金融システムが必要。DeFiの説明や活用方法はまたどこかで別の記事として書くことを検討します。
メタバース内の世界とその間のブリッジ
ベースのレイヤーは今まで話してきた4つのインフラとなるが、各世界には世界のアセット、そして世界のルールが存在する。この設計は自由に行えるが、根本としてはアセットとしてはフィジカル・デジタルアセット、経済圏、コンテンツがあり、世界のルールとしてはユーザーのアイデンティティ、遊び方などある。
各世界は完全オープンであったり、クローズドになったり、制限されるケースもある。これはリアルの世界でも特定の人しか入れない仕事場やクラブもあれば、公園など誰でも行ける場所も存在したり、お金が入れないとアクセスできないディズニーランドもあってもおかしくない。ただ、そんな中で一つの世界から違う世界へ行く時に必要なのが相互運用性。デジタル世界から違うデジタル世界に行く際にはユーザーの認証(本人確認)、その人が出て行った世界で持ち歩いていたデジタルアセットを一旦保管して、次のデジタル世界でのアバターや持ち物を準備しなければいけない。そしてデジタル世界で使った通貨をメタバースで活用しているウォレットと連動させなければいけない。
同じくデジタルとフィジカルの世界でも様々な転換が必要となる。新しく購入したフィジカルな物をトークン化して、場合によってはデジタル化して自分のアセットとして反映させなければいけない。一部のアセットがクローズドでもオープンな要素をちゃんとブリッジするインフラが必要となる。
ただ、メタバースでは世界をブリッジするための技術が必要となる。まずはもちろんメタバースをアクセスさせるハードウェアが必要。これはスマホやパソコンと同じように様々な価格でインターネット接続ができるデバイスが作られる。そして次にメタバースへアクセスするためのブラウザーが必要になる。ここはWebGLやWebXRを活用しているブラウザーが増えているが、まだまだ技術的に足りていない。そして最後にコミュニケーションのレイヤーが必要となる。メタバース内で一つの世界を体験していても、別の世界での友達とのやりとりできるようにしなければいけない。
オープンメタバースのコミュニケーションレイヤーに今現在当てはまるのはDiscordとなる。そもそもDiscordはNFT、仮想通貨、そしてデジタル世界が好きなゲーマーコミュニティの多くのユーザーが既に活用しているので、メタバースの初期コミュニティとなり得る。そしてDiscordはメタバースと同じように、League of Legends、Overwatch、Fortnite、Robloxみたいなクローズドなプラットフォームの繋ぎ込みができるクロスプラットフォームなコミュニケーションツールだった。それを考えると、Microsoftが何故Discordを買収したいのか、そしてDiscordが年間$130Mの売上しかないのに$10B以上の時価総額で売却を検討しているのかが分かる。
オープンメタバースのエコシステム
このように、メタバースのインフラと世界のルールやアセットの繋ぎ込み、そしてそれを無限の世界と連動させなければいけない大規模なエコシステムが必要となる。今回は今まで話した内容をまとめて、一つの図にしてみました。
エコシステム・インフラの作り手
オープンメタバースのビジョンを信じて、それに向けて開発している会社・サービスはたくさんある。
・本人確認:Crucible、Evernym、KILT Protocol
・分散型ガバナンス:DAOStack、Aragon、Snapshot
・NFTマーケットプレイス:Opensea、Rarible、SuperRare、Cargo、AtomicAssets
・NFTストレージ:Filecoin、Siacoin、Storj、Arweave
・データマーケットプレイス:Stream、Ocean Protocol
・デジタル ⇄ フィジカルのブリッジ:Boson Protocol、Physical Swag NFT、Kred NFT
・分散Shopping何型データベース:BigchainDB、GUN、OrbitDB
「Empty World(誰もいない世界)」の課題
オープンメタバースのインフラが開発されても、オープンメタバースを作るには大きな課題がまだ残っている。それが「Empty World Problem」、つまりメタバースにアクセスしても体験できる世界が少ないという課題。ただ場所を提供してもユーザーは集まらない。何か集まるユースケースを作り、そこにユーザーが集まってネットワーク効果が作られ、そしてクリエイターに経済的チャンスを与える仕組みが必要となる。そういう意味ではFortniteやRobloxなど今多くのユーザーを抱えている、メタバースっぽいプラットフォームが重要な立場にいる。
Fortniteのティム・スウィーニーさんはメタバースが作られた際にはEpic Gamesは他の会社と似たように、メタバース内の体験を提供するクリエイターとして存在すると語っている。ただ、彼がFortniteがどれだけ重要なポジションにいるかも理解している。今現在はFortniteはクローズドなプラットフォームで、ユーザーがコンテンツや体験を作れる場所と機能は限られているが、そこを徐々にオープン化すると誓っている。ただ、それをやると同時に既存で人気なバトルロワイヤルゲームを無くしてしまうと、ユーザーが一気に減ってメタバースの準備が出来た際にはユースケースになれないため、慎重にFortniteの既存ゲームとメタバース化をバランスしている。
Fortniteは素晴らしいゲームとストーリーテリング、そしてそれに合わせて様々なIPを混ぜ合わせることによってユーザーを引き寄せている。マーベルとDCコミックのキャラクターが一緒にプラットフォームに存在できる場所はかなり少ないが、Fortniteの規模感であれば許される。Epic GamesのChief Creative Officerは、Fortniteのこのストーリーテリングと色んなIPを一つの場所に集めるのはメタバースを作るためと宣言している。
今だとFortnite以上にRobloxがメタバースを作る上でのエコシステムを作り上げている。今はどうしても人気ゲーム開発エンジンのUnityやUnreal Engineは一般の人は使えない。Robloxは子供でも自分のデジタル世界を作れるツールを用意している。RobloxやManticore Gamesみたいな会社は次世代のデジタル世界を作る世代を育成しているとも言える。
さらに最近ではNFTの爆発により、デジタルアートやデジタルアセット、NBA Top Shotでのデジタルコレクタブルが人気になっている。デジタルアセットの慣れ具合もメタバースへ近づく大きなステップとなる。ただ、それ以上に重要なのはクリエイターエコノミー、特にヒップホップやエンタメ業界がどれだけ早くこのオープンメタバースに乗ってくれるかが肝となる。既にヒップホップ文化は仮想通貨、ビットコイン、そしてNFTに興味関心を持っているし、大きなオーディエンスを持っている。文化の先端を走っている人たちほど新しい挑戦をしている。Fortniteもメタバーストして認識されはじめたのはMarshmelloやトラビス・スコットがコンサートを開催してゲーマー以外のオーディエンスをFortniteに連れ込んだからとも言える。
そしてこの「Empty World Problem」を解決するにはUnityやUnreal Engineのゲーム開発エンジン、そして3Dマッピング技術を持つGoogleやSnapchatが重要となる。彼らの技術を活用すると誰でも簡単にリアルの世界を再現したり、デジタルアセットをメタバースに読み込むことが可能になる。さらにGPT-3など新しいAIモデルなどを活用してどれだけクリエイターが簡単にデジタル世界を作れるかがメタバースを作る上では重要なポイントとなりそうだ。
新世代のVtuber、CodeMiko
まだメタバースに辿り着くまでは遠いが、最近はどんどんリアルの世界とデジタルの世界が一緒になる事例が増えていて、その影響で新しい可能性が見えてきている。今回はその中で特に気になった面白い事例を紹介します。
日本ではアニメや声優文化があるからこそキズナアイなどバーチャルタレントやVtuberが数年前から流行っていたが、アメリカはようやく追いついている。FacemojiやGeniesのバーチャルアバター技術を提供する会社もあるからこそゲーム配信をするVtuberが流行っている。2020年で有名になったのは、Corpse Husband。彼の声とAmong UsをPokimaneなど有名Twitch配信者と一緒にコラボしたおかげで今では710万人のYouTube登録者がいる。
Pokimaneも普段は自分の顔を見せているが、彼女もVtube化したことがある。
そんな中で特に面白いVtuberがCodeMiko。2020年3月では400人以下のTwitchフォロワーしかいなかったのが、今ではTwitchで61.9万人のフォロワー、YouTubeでは26万人いる。
なぜCodeMkoをメタバース関連で注目しているクリエイターというと、CodeMikoのビジョンとデジタルとリアルの世界のハイブリッドクリエイターであるから。Vtuberは自分の顔を見せることを基本的には嫌うが、CodeMikoは自分の顔を定期的に見せる。
あえてリアルとデジタルの自分を見せる配信も行っている。
そもそもなぜCodeMikoは自分の顔を見せているのかというと、クリエイターで重要な「Authenticity(信頼できること、ありのままであること)」、本来の自分を見せるため。しかもCodeMikoはリアルの自分を「The Technician」というキャラとして名付けていて、デジタルのCodeMikoをどう開発したなどを解説する。その中で3Dモデルを作るためのソフトウェア、リアルタイムで自分のフィジカルの体とデジタルの体を統一させる特殊スーツ、そして表情をトラッキングするためのアプリを紹介している。
ちゃんとバックストーリーまで作っている。デジタルキャラのMikoは人気ゲームのキャラクターとして選ばれる予定だったが、システムにバグがあって色んなゲーム世界を彷徨うこととなった。実際にTwitchプロフィールにもそのようなことが書かれている。
そんなストーリーがあるからこそMikoは色んなことが出来て、逆にデジタルキャラクターという自覚があるからこそ、勝手に自分を配信中に変えることもできる。
CodeMikoはインタビュー配信をするケースが多いが、インタビューをする場所、Mikoがいる場所も一つのデジタル空間となっている。以下動画はMikoが配信しているデジタル空間のツアーをしてくれるもの。
このデジタル空間も全て個人で作っているため、インタビューする際にはゲストと関連するアイテムやイースターエッグを隠すことが多い。PokimaneとのインタビューではPokimaneのコレクタブルグッズをデジタル化してデスクに置いてた。
CodeMikoはデジタルな空間を作っているため、完全にコントロールが出来て、それを自分だけではなく、ファンにコントロールする権利も与えている。ファンに投票や投げ銭の額に応じてリアルタイムでアニメーションを発生させたり、Mikoの頭のサイズを変えられるように作っている。それによってファンがMikoの配信の視聴者だけではなく、一緒にコンテンツを作っているように感じる。
こんな面白いデジタルとリアルを融合させたコンテンツを作るためにはそれなりのソフトウェアとハードウェアを活用している。Mikoの3DモデルはMayaというソフトウェアで作っていて、空間やアニメーションはUnreal Engineを活用している。いわゆるゲームを作っているのと同じレベルのクオリティとなっている。さらに体のモーションキャプチャーができるXsensスーツを購入した。彼女は開発者として半額で購入できたが、ディスカウント無しだと300万円以上する。
しかも同時に自分のアパートをデジタル空間と同じセットアップにしているため、スーツを活用するときはよりリアリティーを持って動き回れる。
CodeMikoはメタバースの体験で必要なインフラを複数既に使っている。一つは自分のデジタル世界を作っていて、さらに一つのアイデンティティを保ちながらリアルとデジタルでアバターがある。そしてCodeMikoのプロフィールに書いてあるように、今後は色んなゲーム世界に入り込んだり、色んなリアルの人と話したりインタビューすると発言している。CodeMikoはメタバースの将来のクリエイターになり得そう。
人間を超える未来を考えているFacebook
FacebookはOculusやCTRL-labsなどを通してメタバースの世界への投資を行なっている。2021年にARメガネをローンチする話やVRヘッドセットを販売している中で、2021年3月に面白いコンセプト動画とデモを発表した。ただ、ARメガネやVRヘッドセットがあっても、そこから見えるデジタルの物とどう接するのが一番良いのかが明確ではなかった。VRヘッドセットだとコントローラーを使うのが多いが、それは現実的ではない。音声でのコントロールは悪くはないが、全シナリオをカバー出来ない。それを解決するためにFacebookのCTRL-labsは手首に付けるデバイスを開発して脳からの神経信号を読み取るAR操作用ニューラルリストバンドのコンセプトを公開した。
この手首のデバイスを周りのコンテキストと読み取るAIおよびニューラルインプットや感触フィードバック技術を混ぜ合わせた未来を考えているのが明らか。複数のニューラルインプットを使うことでキーボードの利用とかも可能になったり、感触フィードバックでAR・VR上で行なったアクションの感触も体験できるようにしている。実際にFacebookの手首のデバイスの動画を見たい方は以下をご覧ください。
このニューラルインプットと感触フィードバックの話が特に面白い。FacebookのAR/VR担当副社長のアンドリュー・ボスワース(通称「ボズ」)さんが語るには、『レディ・プレイヤー1』のような感触フィードバックスーツを作るにはかなり遠い世界となる。ただ、そういう技術がCodeMikoも使うXsensスーツや一般の服に組み込まれるようになれば、フィジカルな世界でもデジタル上の人たちと話したり、握手が出来たり、本当にリアルとデジタルが融合された世界が生まれそう。
そしてそれ以上にニューラルインプットの話が面白い。マーク・ザッカーバーグさんもボズさんも別途このニューラルインプットの可能性のヒントを出していたが、人間は実は運動神経細胞には使っている以上のキャパシティーがあると語っていた。それを活用して今まで存在しなかったものをコントロールすることが可能になる。例えば、ARメガネをかけると手に5本の指ではなく、6本の指があったとすると、トレーニングをすればその6本目の指も自然と動かせるようになる。それを考えると、リアルの世界ではロボットを活用しない限り、人間はフィジカルの体しかなかったため、何かしら制限が生じた。同じく、デジタルの世界でもキーボードやコントローラーで操作をしていたため、基本的には限られた動きのキャラクターやアバターしか操作出来なかった。ただ、メタバースでは動物や複数の腕のある体や人間ではない姿など色んなアバターになれる可能性があると考えると、ニューラルインプットがあればその操作が簡単になるかもしれない。
最後に
世界はメタバースへ進んでいる。ただ、インターネットを作った時とはかなり状況が変わっていて、今では利益目的の会社がメタバースを作ろうとしている。そのため、クローズドなメタバースになりがちだが、重要なのはインターネットと同じようにオープンなメタバースを作ること。それを行う上では統一されたアイデンティティと所有権をもているデジタルアセット、オープンなスタンダードやプロトコル、分散型のガバナンス、そしてグローバルで流動性のある経済・通貨が必要となる。それを行うとインターネットと同じように多くの人がメタバースに参加して、ネットワーク効果が生まれて、全当事者が大きな利益を生むことが出来る世界が描けるはず。
そして既にこの道を切り開いている会社やクリエイターがいる。Epic Games、Robox、Facebook、Crucibleの他のにも個人ではCodeMikoなどが次のメタバースのクリエイターにもなり得る存在となっている。いつこのシフトが起こるか分からないし、恐らく一気に起きるよりは進化していくと思われるが、引き続きオープンメタバースの可能性と未来を楽しみにしています。
Written by Tetsuro (@tmiyatake1) | Edited by Miki (@mikikusano)