オープンメタバースの必要性|前半
Robloxはメタバースではなく、「マイクロバース」、オープンメタバースの定義と必要性、Appleのクローズドエコシステム、Epic Games vs Apple:アプリストアと決済の制限とエコノミクス
はじめに
どの大手テック企業のCEOが注目しているトピックがある、それは「メタバース」。次世代インターネットと言われているメタバースに関わることは、未来の経済に参加することに等しい。特に最近では、フォートナイトがゲーム領域以外でも人気になり、Robloxの上場によって「メタバース」という単語が飛び交うようになった。下記のグラフは、Pulsarによる2020年1月〜11月までに「メタバース」についての言及数。
最初に訂正しておくと、バズワードになり始めている「メタバース」は使われ方が間違っているケースが多くなっている。説明しづらいものだからこそ、フワッと使われるケースが多く、「〇〇がメタバースだ」みたいな発言も多く見る。実際はほとんどの「メタバース」の単語が使われる時はメタバースではなく、ビデオゲームやオンラインの体験の話にしか過ぎない。それはFacebook、Google、iPhoneがインターネットだと説明しているのと同じ。
1950年代から1990年代が「インターネット」の説明や想像を一部しかできなかったと同じように、今メタバースの具体的な定義は難しい。インターネットが存在する前にはリアルタイムでのコミュニケーションや資料やデータの送信は想定していたが、SNS、フェイクニュース、ブロックチェーンみたいな概念は誰も思いついていなかった。メタバースも同じ状況で、幾つか特徴は考えられるものの、明確な定義やユースケースを想定するのは非常に難しい。定義が難しいのは確かだが、メタバース的な世の中を作ろうとしている会社がどんどん増えている。今回はメタバースを作ろうとしている会社たちに深堀ながら、全体的に二つのメタバースの方向性があることについて解説していきます。その二つの方向性とは「クローズド」と「オープン」なメタバースであり、私はオープンメタバースの方向性に期待している。
今回は前半・後半に分けて記事を届けたいと思います。前半では多くの会社が目指してそうなクローズドメタバースの説明、そのリスク、そしてオープンメタバースを作りたい会社の壁となっているプレーヤーについて紹介したいと思います。
メタバースとは何か?
過去の記事で紹介した説明を引用すると、
メタバース(Metaverse)とは、SF作家のニール・スティーヴンスン著『スノウ・クラッシュ』の作中で登場するインターネット上の仮想世界に由来する。「メタ」はギリシャ語で「beyond(超える)」と言う意味から、インターネット2.0と言われている。
記事で記載したメタバースの特徴をまず見てみましょう。
終わらない
オフラインやインターネットの世界みたいに、「オフボタン」はなく、常にあり続けること。常にライブで同期されている
今までの人生と同じく予定されたイベントなどは実在するが、メタバース自体が全ての人に取ってリアルタイムで体験できるものとなる。誰でも参加できるアクセス人数は無制限
誰でもメタバースに参加ができ、一緒にイベントや場所、アクティビティーに参加しながら、個性を表現する場所でもあること。自社経済を持つこと
個人や企業がメタバース上で物やサービスの開発、売買、投資、保有、そして作った物などについて報酬をもらえる経済ができること。オフラインとオンラインやオープンとクローズドで体験を提供
デジタル世界だけではなく、何かしらの形でリアルな世界とも繋がっていて、ライルな世界と同じように全体的に出入りが自由なものの、人の出入りが制限された場所なども存在する。データ、デジタルアセット、コンテンツなどで過去ないレベルの相互運用生が可能に
他のゲームでのスキンが別のゲームでも使えるようになったり、Facebookで共有できるようになるのが重要になる。様々な人々が作るコンテンツや体験があること
個人、小さいグループや会社がコンテンツや体験を作れて提供できるようになる。
Robloxはメタバースではなく、「マイクロバース」
Robloxは3,260万人が毎日遊んでいる、誰でも簡単にゲームを作って遊べる体験プラットフォーム。2020年では合計306億時間遊ばれて、2,000万以上の体験を提供した。そして重要なのはRobloxが自社開発した体験ではなく、800万人のクリエイターが作り上げた世界・体験となっている。
Robloxとフォートナイトの1番の違いはUGCの力。フォートナイトも直近ではクリエイティブモードなどユーザーが簡単にフォートナイト上で体験を作る機能を出しているが、まだそこまで人気ではない。フォートナイトのメインのアセットはEpic Gamesが開発したバトルロワイヤルゲーム。もちろん方向性としてはそれ以上のものへ進化しているが、今現在見るとRobloxの方がメタバースっぽい、UGCベースのプラットフォームとなっている。
一つのアバターで2,000万以上の体験を経験できる、しかも体験する際に他のRobloxゲームで購入したスキンやデジタルアセットを利用できるのはまさにメタバース。それができるからこそ、Robloxでは『レディ・プレーヤー1』の再現ができる。実際に2018年にこの映画のプロモーション企画としてRobloxでも似たようなゲームを行なった。その企画ではこの作品のストーリーと同じように特殊な鍵を見つけなければいけない。その鍵がどのRoblox世界・ゲームに隠されているかは特設ページに書かれている情報を手がかりとして探さなければいけない。
ただ、これはメタバースなのか?Robloxの話をする前に、『レディ・プレーヤー1』のストーリーを見て考えてみよう。
時代は2045年。人々は、荒廃した現実世界とは別にVRの世界「オアシス」を人生を楽しんでいた。ある日、オアシス創業者の死去により遺言が発表される。そこには、「オアシスに隠された3つの鍵を見つけたものには、この世界の支配権と大金を授ける」というものだったーーー。
「オアシス」自体がよくメタバースとして見られがちだが、具体的に言うとこれは「クローズドメタバース」の代表例と言っても良い。クローズドなメタバースとは一社もしくは限られた会社がメタバースの支配権を持つこと。
Robloxは素晴らしい会社で、何百万とユーザーが作った体験を経験することが出来るプラットフォームだが、結果としてはRoblox外にはいけない。もちろんそれは悪いことではない。一つの会社がプラットフォームをコントロールしているからこそプラットフォーム内でのゲーム開発が楽になったり、色んなアプリの連携など手間とコストがかかることもない。ただ、結局Roblox以外の体験と連携していないため、これは本当にメタバースなのかと疑問が残る。そうするとRobloxがメタバースであり、フォートナイトは別のメタバースであり、Facebookがもしこの領域に入ってくればFacebookも別のメタバースを提供していることになる。これは果たしてメタバースなのかというと、個人的には違うと感じている。今のRobloxや他のクローズドなメタバースを提供している会社はオンライン版ディズニーランドとなっている。各社面白い体験をしているが、プラットフォーム間で壁を作っている。これはメタバースではなく、「マイクロバース」に近いだろう。
もしRobloxがマイクロバースからメタバースに進化したければ、二択があると思っている。一つは次の記事で説明するオープンメタバースへ進化すること、そしてもう一つはレディ・プレーヤー1のオアシスと同じ規模感になること。つまり、一社もしくは限られた会社が次のインターネットを支配することとなる。
クローズドで独占したメタバースの危険性
当たり前の話だが、一社がメタバースをコントロールするのはかなり危険なことである。インターネットが一つの会社がコントロールしていることと同じことなので、もしそれに成功した会社がいればどの国や政府よりも強い立場にいることになる。
Robloxがこの世界を目指しているかは正直分からない。おそらく違うと思うが、今のまま進むと、マイクロバースもしくはクローズドなメタバースになる。ただ、個人的にはRoblox以上にクローズドメタバースを狙っている会社があると思っている。
それがFacebook。Facebookの買収履歴を見ると、明らかにメタバースを意識しているのが分かる。2014年のOculus、脳によるコンピューター操作に取り組むCTRL-labsの買収、そして買収交渉や買収検討をしたウェアラブルのFitbitやゲーム開発エンジンのUnity。これは全て1〜5年後のための投資ではなく、次の50年先を見ている。今現在最もメタバースに投資しているのがFacebookでもあり、毎年$15Bぐらいこの領域にお金を出している。
今現在のFacebookのCTRL-labsの取り組みを気になっている方は、以下スレッドをご覧ください。
マーク・ザッカーバーグさんがOculusが買収したときの発言:
「戦略的にモバイルの次のメジャーなコンピューティングプラットフォームを開発したい。次にコンピューティングプラットフォームになり得る選択肢は少ないが、Oculusはコンピューティングの将来の長期的な賭けだ」—MIT Technology Review
過去の記事でも書いたが、Facebookはどの会社よりもメタバースの構築に入り込まないといけない。SNSより超えるメタバースはFacebookのアプリを意味なくする可能性もある。Facebookは今までハードウェアやスマホのOSの開発を行っていたが、ハードウェアはまだニッチな領域でOSはボツになっている。大手テック企業の中で唯一アプリ・サービスレイヤーに止まっているFacebookがメタバースを通して初めてインフラレイヤーに入り込めるチャンスでもある。Facebookの目的はOculusの力を使ってメタバースで次のAndroid/iOS/iPhone、そしてそこをコントロールできればバーチャルグッズの売買でAmazonになること。
Facebookの現段階の優位性は圧倒的なユーザー数、利用時間、そしてどのプラットフォームよりもユーザー生成コンテンツを持っていること。さらに多大なるキャッシュ、優秀なエンジニア、そして多数の議決権を持っていてこのビジョンをやり遂げたい創業者がいること。マークさんも、メタバースに投資する経済的メリットを理解している。
「歴史を見ると次のプラットフォームが来るのは間違えない。それを作って定義づけをできるものが未来を設計してその利益を取れる。」—MIT Technology Review
ただ、今までのFacebookの歴史、買収、行動、組織体制などを考えると、オープンなメタバースを作らないと感じている。SNSプラットフォームとしてもかなりアグレッシブで他のプラットフォームとはそこまで協力せずに競合を買収して一つのエコシステムに入れ込もうとしている姿を見ると、Facebookがもしメタバースを作るようであればクローズドなものを想定しても良さそう。
クローズドメタバースが発生してしまうと、本当に今までのSF映画が実現される。メタバースをコントロールしている会社のルールに違反する人たちを潰し、誰も逆らえない状況となる。今の世界が一つの会社や国が支配すると同じことになるので、それはなんとでも避けたい話だと感じている。
それに対抗するのがオープンメタバース。この概念を最もリードして発言しているのはEpic Games創業者のティム・スウィーニーさんだ。
オープンメタバースの定義と必要性
「オープンメタバース」とは様々な体験、プラットフォーム、世界を相互運用性があるメタバースのこと。すごく簡単に説明すると、一つのアイデンティティーで全く違うオンライン・オフライン世界へ障壁なく移動出来ること。フォートナイト、Roblox、Oculusを同じアバターやデジタルアセットを活用できる世界のこと。
ティムさんが語るには、オープンメタバースの方が全体的に経済効果があると同時に、大手プレーヤーたち(Epic Games含め)が全員金銭的にもメリットできるものだと思っている。結局オープンメタバースで必要なのは全世界が従えるプロトコルやスタンダードである。オープンメタバース内にクローズドな体験や世界が存在することは間違い無いですし、大手テック企業が押し出される形にはならないはず。
そして会社によってはこの概念に賛同できそうな雰囲気も既にある。2001年に当時Microsoft CEOだったスティーブ・バルマーさんがオープンソースを癌と比較していたのを、今ではその発言・方向性が間違っていたと話している。現CEOのサティア・ナデラさんの元ではオープンソースに対してより賛同する方向性になっているため、実はオープンメタバースの作り手のダークホースでもある。同時にAmazonはインフラが変わってもものを買う場所として生き残るのは間違えなさそう。既にTwitchでも売っているので、色んなタイプのインフラ(ブラウザー、アプリ、ゲームエンジン内)で売ることに対して抵抗感はないはず。オープンなメタバースに賛同してもおかしくない。それ以外にもゲーム開発エンジンのUnityなどもオープンなメタバースを望んでもおかしくない(体験を開発するツールとして存在するため)。
ここで気づいたかもしれないが、あの大手テック企業2社についてまだ話をしていない。GoogleとAppleが何故オープンメタバースを否定するかは既存のビジネスに非常に影響するからである。
オープンメタバースの壁
Googleは正直オープンメタバースについてどう考えているかは分からない。メタバースはインターネット以上にデータ量が発生する。そういうデータをマネタイズしたい会社はGoogle。現在オンラインとオフラインのインデックスを一番お金かけているのはGoogle。オフラインのGoogle Map用に1万人以上の協力者がいる。中国外では世界一のデジタルソフトウェアとサービス企業である。Googleは世界で一番使われているOSであるAndroidを提供しているし、一番オープンなクラウドコンピューティングプラットフォームも提供している。ただ、そのAndroidが大きなゲートキーパーとして存在しているのも間違いないので、オープンメタバースに賛同してなさそうな感じではある。
最もオープンメタバースに反対しそうなのはAppleであり、今までの行動を見るとその体制は変わらなそう。非常に不思議なのはAppleはオープンメタバースの概念である自由市場に一部のビジネス(iPhone)で素晴らしいパフォーマンスを出しながら、それとは逆方向にあるクローズドなエコシステムを作っているサービス(アプリストア)を共同運営している。
Appleの話をする前に、オープンメタバースがインターネットと同じようにオープンなプロトコルで作りにくい話をまず説明したいと思います。
ここから一部の話はマシュー・ボールさんの記事「Apple, Its Control Over the iPhone, The Internet, And The Metaverse」やティム・スウィーニーさんの過去の発言(文末に引用欄にリストしてます)などを元にして書いたり、一部翻訳なので、より詳細を知りたい方は是非彼の記事をご覧ください。
インターネットの歴史から紐解くとオープン性
メタバースを作る人たちとインターネットを作った人たちを比べると、何故メタバースを作るハードルの方が高いかが分かる。インターネットの土台は1960年代から1990年代に政府の研究所、公立大学、そして数名の技術者によって作られた。ほとんどは利益を求めてない人たちで、将来のアイデア、プロジェクト、技術のコラボレーションを簡単にするためにサーバー間での情報共有のための共通スタンダードやプロトコルを開発した。今のインターネットはこのスタンダードがベースとしてあり、そのおかげで誰でもインターネット上で情報のアクセス、ユーザーとのコミュニケーション、そしてコンテンツを作ることができる。インターネットを支配する人がいないため、毎回許可を取る必要もない。
逆にインターネットのオープンスタンダードやプロトコルが無ければ、どうなるだろう。複数社がコントロールを持っていれば、インターネットの各アクションがコストがかかったかもしれない。JPG画像をダウンロードするのにお金がかかり、より画質の良いPNGをダウンロードするにはよりコストがかかったかもしれない。サイトもChromeやSafariだけしか対応できなく、毎年アクセスするためにサブスク費用がかかったかもしれない。結果的にオープンじゃなかった場合はインターネット比率や利用率が今と同じレベルではないだろう。
今の大手テック企業はオープンAPIや共通スタンダードがインターネットを普及させた大きな要因であり、自分たちのビジネスを成り立たせたことを理解している。ただ、会社として全体の市場より自分たちの市場価値を気にしているのか、新しいプラットフォームやインフラをコントロールしたい。プラットフォーマーとしては競合が立ち上がるよりもちろん自社のエコシステムで育つサービスや会社を応援したがる。その影響でオープンなインターネットのおかげで育った会社でも次のインターネットでは同じオープンなプラットフォームに賛同できなくなってしまう。
オフラインの世界では自由市場があるおかげで多くの競合が市場に入り込み、良いプロダクト(質と値段)によって消費者が勝者を選ぶ形となっている。一社が強くなり過ぎて商品の値段を高めたり質を下げても、競合が出てきて市場の調整が行われる仕組みとなっている。ただ、オンラインでは自由市場が少しずつ無くなっている現状でもある。特にネットワーク効果が強いプラットフォームが莫大なシェアをとり、消費者やクリエイターがミドルマンとして使わなければいけない状況を作っている。それによってプラットフォーム側が市場のルールを決められるようになった。これは一部政府側の問題でもある。インターネットが発展していく際に誰もその経済規模を理解していなかったので、テック企業にかなりの権力を与えてしまった。
明らかにどの領域もオンライン化されて、バーチャルスペースが普通になってきている。これによって新しいインターネット、メタバースの開発が必要であり、それに応じて新しい、大きな経済圏が生まれるのは間違いない。ただ、初期インターネットと同じ形での開発は正直厳しくなった。誰もインターネットの経済圏を理解していなかったのと比べて、メタバースは違う。どの会社、特に大手テック企業はメタバースの経済圏の理解とそれを開発する世界トップのエンジニアを抱えているので、どうしても大手テック企業に頼るしかない。
そんな中でオープンメタバースの1番の壁がApple。iPhoneの開発によってインターネット時代をどの会社よりも加速させたと言えるAppleは今では次のインターネットをブロックする方向性に向かっている。不思議なのはAppleはこの自由市場で勝ち取ったビジネス(スマホ)があるのに、それと同時に自由市場とは真逆な行動もとっている。これはオープンメタバースを捨ててAppleの自社利益のための動きだと思われる。
Appleのクローズドエコシステム
Appleは世界でトップビジネスを運営しているが、特に切実に行った事業はスマホ事業。Appleは他社とは違ってユーザーのデータを使わず、監視機能とかも入れてない。本当に良いスマホを提供していて、それが評価されて巨大なビジネスを作れた。Android vs Appleを比較すると全体的にiPhoneの方が好かれる。それは完全にAppleのエンジニア、ハードウェアメーカー、サプライヤーの力なので、この自由市場に最も従っているビジネスとも言える。
ただ、Appleはそれと真逆なコンセプトを他の事業で提供している。主にアプリストアだが、それと加えて他の事業でも同じ傾向が見えてきている。まずはアプリストアの話からすると、Appleは何故かスマホに関しては判断者の立場をとった。これはもしかしたらAppleはパソコン市場ではマーケットリーダーになれなかったかもしれないが、スマホでは消費者や開発者に何を提供するべきかを決めているのは事実である。主に決めているのは三つのこと:
1) アプリのディストリビューション制限
全てのアプリはAppleのアプリストア経由で配信されなければいけなく、アプリ開発者から直接もしくは第三者のアプリストアからのダウンロードは許されないこと。
2) アプリの許可
iPhoneに存在する全てのアプリはAppleが承認しなければいけないこと。
3) Appleの決済ポリシー
Appleのアプリストアで配信されるアプリは全てアプリストアの決済・請求ポリシーに従わなければいけないため、結果としてAppleがiOSアプリの独自決済プロバイダーとなること。
OSを運用しているのとアプリ配信手段や決済手段は別々のはず。Appleはそれを一つのクローズドのエコシステムにしているおかげで、このルールに基づかないといけない。スティーブ・ジョブズは元々アプリストアを第三者に広げたくなく、Apple全体のエコシステムをクローズドにしたいのは有名。もちろんそのおかげでAppleは世界トップクラスのスマホ体験を提供できているのも事実である。その成功を証明する実績はスマホの市場シェア率。アメリカではiPhoneのシェアは66%、アメリカのアプリストア売上全体の75%はApple、そしてスマホ上でのインターネット滞在時間の80%がAppleデバイスから来ている。しかもこのリードはさらに広がるのが見えている。アメリカの10代の8割はiPhoneユーザーである。
この自由経済で勝ち抜いたハードウェアとクローズドエコシステムのアプリストアで競合を入れさせないアプローチがApple社としては経済的メリットがあったものの、同時にオープンメタバースを作る上では偉大な課題になってしまった。Appleはクローズドなエコシステムを世界中のハードウェアにばらまいているため、インターネットのゲートキーパーになったのと同然の権力を持つことになった。法律を平気に無視してグロースさせるUberでさえ、Appleの指示に従っている。昔は削除してもユーザーの身元確認が出来る仕組みをUberアプリに盛り込んでいたのがApple CEOのティム・クックさんが直接当時Uber CEOのトラビス・カラニックさんとMTGして同じようなことを続けるとUberアプリをアプリストアから削除すると言った際に、Uberはその取り組みを辞めた。直近のIDFA変更でもAppleの判断でFacebookとGoogleは$15B〜$20Bの損失が発生するとも予想されている。
クラウドゲーム業界を止めている
今では音声(特に音楽)と動画市場の多くの売上はストリーミング配信からきている。実はゲーム業界では同じ現象が起きていない。実際にGoogle StadiaやMicrosoft xCloudなどサービスが立ち上がったいるものの、普及されていない。普及率が低い理由はAppleアプリストアでアプリ利用が禁止されているから。Google StadiaやMicrosoft xCloudの初期版は承認されたが、それはゲームを遊べないデモルームを提供していたからだけ。結果としてGoogle StadiaのiOSアプリはStadiaに含まれるゲームを見せることだけ出来て、遊ぶことや購入自体は許されなかった。
Appleとしてはブラウザは自由に使えるものなので、アプリではなくブラウザでサービス提供をできると言うかもしれない。実際にSafariは動画配信をサポートしているので、クラウドゲーミング自体は使える。ただもちろんブラウザなのでUI/UXが悪かったり、より頻繁にクラッシュする。NetflixやYouTubeをスマホのブラウザではなくアプリで見るのは圧倒的にアプリの体験の方が良いからと同じく、クラウドゲームも本当はアプリの方が使われるはず。しかもSafariはブラウザ通知が使いにくいため、招待の通知設定とか変更がしにくい。結果としてゲーム版Netflixであるクラウドゲームサービスは使われない。
Appleがクラウドゲームサービスを承認しない理由はユーザーを守るためと言っているが、恐らくそれは違う。Appleが言うにはクオリティやコンテンツの確認のために一つ一つのゲームタイトルを見る必要があると語るが、動画のバンドルサービス(例:Netflix)ではこれをやっていない。
それでは何故Appleはゲームバンドルアプリを拒否しているのか?まずアプリストアの売上を見てみよう。
・2009年:$769M
・2010年:$2B
・2011年:$3B
・2012年:$5B
・2013年:$10B
・2014年:$15B
・2015年:$20B
・2016年:$29B
・2017年:$39B
・2018年:$47B
・2019年:$56B
・2020年:$72B
実は2020年の$72Bの売上のうち、66%はゲームからきている。ゲームをバンドルするクラウドゲームはAppleの大きな収入源に影響するのが分かる。しかもゲーム開発者はAppleではなく、MicrosoftやGoogleと話し合ってゲーム開発を行うので、重要なゲーム開発者との関係性も途切れてしまう。実はAppleはこのような痛みを一度見届けたことがあった。2012年ではiTunes経由でデジタル音楽販売の70%のシェアと30%のマージンを持っていたAppleだったが、音楽ストリーミングが入ってきたことによってApple Musicをリリースした。今現在Apple Musicは全体のシェアの3分の1以下で、赤字事業。しかもSpotifyはiTunes経由で販売をしておらず、Amazon Music UnlimitedもPrime会員が使っているのでAppleに全く売上が入ってこない。
さらにAppleとして怖いのはクラウドゲームが彼らのハードウェアビジネスに影響を及ぼすこと。クラウドゲームに一つの優位性は古いデバイスでも最新のスペックのゲームを遊べること。そうすると新しいiPhoneやiPadを購入する意味がなくなってしまう。これはAppleにとって非常に危機的なサービスと見てもおかしくない。
最終的にはAppleはGoogle StadiaとMicrosoft xCloudのアプリ申請の許可を出したが、それでも圧倒的に不利な条件を要求してきた。まずバンドルに入っている全てのゲームをAppleがレビューすること、そしてそのゲームを必ずアプリストアで別アプリとして出すこと。しかも最終的にはStadiaアプリ経由ではそのゲームをプレーできなく、各ゲームの専用Stadiaアプリをユーザーがダウンロードしなければいけないようになっている。例えば、Netflixが『Stranger Thingsを』見るために「Stranger Things Netflixアプリ」のダウンロードを要求すると同じこと。結果としてAppleのアプリストアで提供していることとなる。
さらにAppleはゲーム配信サービスはアプリストア経由での販売を必須にした。後ほど話すAppleの「税金」の30%手数料を避けるためにSpotifyやNetflixはiOSアプリを提供しているものの、基本的に決済はブラウザなどで行なっている。ゲーム配信サービスだとそれが出来ないとAppleが判断した。結果としてどのゲームクラウドサービスはアプリストアでサービスを提供していない。Appleはこの業界を自分の利益のために完全封鎖している。
不思議と唯一このルールに影響がないのがRoblox。Robloxは誰でもゲームを開発してRobloxプラットフォームでプレーできるので、いわゆるUGC版のゲーム配信サービス。なのに何故かAppleはRobloxの存在を許している。Robloxを承認して、他のゲーム配信サービスを許さないのは少し矛盾している気もする。
これが何故重要なのか?まずはAppleが完全にコントロールをしているので、いくつもの業界が苦しんでいること。そして特にクラウドゲーム領域は今後のデジタル体験やメタバースでは重要な要素となるので、そこの発展がないとメタバースの実現性が落ちてしまうこと。複数のゲームやデジタル体験をシームレスに使えるエコシステム作りがメタバースでは必要になってくるが、それがアメリカのスマホ市場の60%以上がアクセスできなくなっている(Robloxを除いて)。
Appleに対抗出来るサービスは少ない。iOSアプリを提供しているほとんどの会社はほとんどのユーザーはアプリ経由なため、Appleのルールに従わないといけない。その中で2020年は数社Appleに対抗する会社が出ていて、特に注目されたのがEpic Games。
Epic Games vs Apple:アプリストアと決済の制限とエコノミクス
2020年8月にFortnite内でApp Store経由で払うかEpic Gamesに直接払うオプションを提示。Appleの30%の手数料がなくなるため、Epicは20%低い値段で同じゲーム内通過を販売出来た。結果として4〜5時間ぐらいこの決済方法が表示されていた中、Fortniteユーザーの半分が決済を行なった。既にカード情報を登録していたAppleやGoogleアプリストアよりも、わざわざカード情報を入力するぐらいの価値があったと証明している。
これはもちろんAppleとGoogleの規約違反となったため、AppleとGoogleはFortniteをアプリストアから削除した。アプリストアでFortniteを既にダウンロードした人はとりあえずはプレーし続けられるが、新しいアップデートになると新しいコンテンツへアクセスが出来なくなる状況となった。Epic GamesはAppleがこうすることを誘ってたのは間違いない。そして準備万端だったEpic Gamesは早速Appleに対して訴訟を行なった。同時にAppleが過去IBMに対抗することを意思表明した代表的CMの1984をFortnite化して動画をリリース。以下動画はFortniteとAppleのCMを同時に見せているので、どれだけ似ているかが分かりやすい。
この戦いはよく「AppleとGoogleの30%手数料が高すぎる」と言う問題として見られがちだが、実際はEpic Gamesはそこを指摘しているのではない。これはクローズドプラットフォーム、いわゆるアプリストアおよび決済手段の制限があるからAppleとGoogleはフェアな手数料を提供していないと言う主張である。
例えば今のクレジットカード業界では、Amex、Mastercard、Visaなど大体のカードプロバイダーやはアメリカでは加盟店に販売価格の1.5%〜2.5%の手数料を取る(2.5%以上の時もあるが、それは低価格の商品のケース)。手数料が低いのは、自由市場なので競合他社がいるから。Mastercardが急遽手数料を30%にしてVisaやAmexが2%のままであれば、加盟店はMastercardを扱わないようにするだけ。しかも加盟店に手数料がかからない現金もカードプロバイダーの競合でもある。それを考えると、各カードプロバイダーはフェアな値段を提供しながら、その手数料分のバリューを提供しなければいけない。
それと比較するとAppleの手数料は高く感じる。もちろん2%にするのは無茶だが、実態アプリストアを運営するのはどれぐらいのコストがかかるのかはEpic Gamesを見れば分かる。Epic Games CEOのティム・スウィーニーさん曰く、PCゲームストアでは2番手のシェアがあるEpic Games Storeは12%の手数料をとっている。コスト周りを深ぼると、決済処理のコストが2.5%〜5%、そして帯域幅やCDNのコストが1%〜1.5%かかると言われている。そうすると全体として5%〜7%ぐらいのコストでEpic Gamesは運営している。そのため、12%の手数料をとった場合でも黒字ビジネスを作れるとティム・スウィーニーさんは言う(今現在は大きくプロモーションを行なっているため赤字になっている)。AppleはEpic Gamesよりも強い立場にいるため、カード会社と交渉すればもしかしたら7%以下のコストになる可能性もある。そう考えると、Appleは少なくとも5〜6倍の値上げをしている事になる。
ここで大事なのは、AppleやGoogleが30%の手数料を他の競合がいた中で出していて、それでも選ばれるほどのバリューを提供していれば別の話になる。ただ、実際は競合が入れない状態。特にAppleでは完全に競合をシャットアウトするので、Appleはアプリストアでは競合は存在しなく、ただハードウェアのレイヤーで戦って勝てばこのエグい30%マージンのビジネスがどんどん伸びていく。
競合が出ると本当に手数料が下がるかは、PCゲームストアの市場を見ると分かる。Epic Gamesが12%の手数料、そしてUnreal Engineを既に使っていれば7%の手数料しか取らないと発表して、Epic Games Storeをローンチする数日前に一番の競合のValve社が提供しているPCゲームストアSteamが15年間存在した30%手数料を変えた。累計$10Mの売上までは25%の手数料、$50M以上の売上からは20%しか取らないとルール変更をいきなり行なった。
Appleアプリストアの手数料は自由市場で決めるべきなのではないだろうか。もし市場が定義する価値より高く値段設定をしていれば、Appleはそのコストを消費者に負担させている、もしくはゲーム開発社の利益を削減させていると同じこととなる。例えばEpic Game Storeの存在が許されて10%の手数料しか取らなかった場合、ゲーム開発社はAppleに支払っていた20%の手数料分を値引きして消費者により安い値段を提供しつつ同じ利益を得られるようになる。場合によっては安い値段がよりユーザーを集めて利益を上げることにもつながる可能性もある。Appleアプリストアの手数料は今のメディア業界やサイト運営にも影響している。人気アプリの『New York Times』は人気のサブスクサービスを提供しているが、未だにサイトに広告やポップアップを活用している。課金ユーザーに対しても広告を見せている一部の理由はアプリストアから取られる手数料分のマージンを稼ぐため。そう考えると、Apple手数料が色んなサービスに影響しているのが分かってくる。
この課題を感じているのが唯一ゲームバンドルとしてアプリストアに許されているRoblox。Robloxはアプリストアのルール変更をS-1申請書に記載するほどリスクとしてあげている。Robloxは800万人の開発者、いわゆるクリエイターがいるのに、実はほとんどのクリエイターはあまりお金儲けが出来ていない。Robloxは$1.9B以上のGMVがあるのに、29人の開発者しか$1M以上の支払いを受けていて、たったの3人しか$10M以上の支払いをRobloxから受けていない。もちろんこれはよりヒットゲームを作る課題としてもあげられるが、もう一つはRobloxのユニットエコノミクスの問題。
Robloxは売上のたったの24.5%しかクリエイターに支払いできない。Robloxに1万円の売上があった場合、コスト構造が以下となる:
Robloxコスト構造(売上 1万円の場合)
・Apple手数料:3,000円
・Robloxコアインフラと安全機能コスト:3,100円
・その他コスト:1,100円
・研究開発への投資コスト:2,300円
・営業/マーケティング:700円
・クリエイターへの支払い:2,450円
結果:▲2,650円
実際に最近のRobloxの投資家向けプレゼンで発言したのはアプリストア手数料がもし下がることがあれば、それをそのままクリエイターへの支払いに回す。
この手数料は二つの課題を及ぼす。一つはRobloxやアプリ開発者からすると、Appleが何をしなくても30%の手数料をとってしまうので、コスト構造を見直す必要がある。実際にSpotifyではSpotifyアプリでAppleの方がSpotifyより儲かっている状態となっている。そして同時にこういったゲームプラットフォームに開発者が入りづらい状況を作っていること。ゲーム会社がRobloxのユーザーにアクセスするためにRobloxゲームを開発しても、たったの24.5%の売り上げしかもらえない。そうするとAppleアプリストアで自社ゲームを作って70%とった方がましと判断されてしまう。
Appleの30%手数料がSpotifyやEpic Gamesのおかげで注目された中、Appleは$1M以下の売上の開発者に対して15%の手数料を提供すると発表した。そして2021年3月にGoogleも似たような取り組みを発表。Appleの取り組みだが、急遽判断をしたのか変な取り組みに見える。まず15%の手数料を受けるには特殊プログラムに申請しないといけないので、全員入るとは限らない。Googleは逆に全開発者が累計$1Mの売上を達成するまで自動的に15%の手数料になると決めた。さらにAppleは$1Mを超えると15%の特殊プログラムから取り除かれるので、$1Mから$1.21Mまでは開発者の取り分が$1Mの売上と比べると何故か減るようになっている。
それと比較するとGoogleの取り組みは明確。$1Mを超えた売上のみが30%手数料取られる。
ただ、両社には根本的な課題がある。それは売上を上げると同時により高い手数料を取るのは果たして正解なのか?普通のビジネス上の取り組み(レベシェアなど)だとビジネスが多いほど手数料が下がる。大量購入するとコストのディスカウントをもらえるのが普通。クレジットカードの手数料も同じで、より売上を提供していればコスト削減の交渉ができる。それを逆方向に行っているAppleとGoogleはまるで所得税の取り組みを作っているようにしか見えない。だからこそAppleとGoogleの手数料は「税金」として呼ばれている。
しかもこの取り組み自体はPR的には良く見えるが、実はAppleとGoogleとしては耐えられるコスト。開発者数で見ると98%の開発者が15%の手数料になるので、それ自体は良いこと。ただその98%の人たちはアプリストアの2.5%〜5%の売上しか占めしていない。CNBCによると2020年にGoogleがこの取り組みを行なっていれば、去年Google Play Store手数料の$11.6Bのたったの5%($587M)が失われていた。Appleはさらに低く、アプリストア手数料でもらった$21.7Bのうちたったの2.7%($595M)が失われたと言われている。
繰り返しになるが、ここで指摘しているのは30%と言う数字ではない。Appleの手数料は実はかなり複雑な者で、サービスの規模やタイプに応じてルールを変えている。以下幾つか例を紹介します:
・アプリ内コンテンツ/体験に対してのトランザクションは30%の手数料がかかる(例:ゲームのデジタルスキン、音楽などデジタルコンテンツの購入、Tinderでのスワイプ購入など)。
・月額のサブスク費用の場合はユーザーの最初の12ヶ月分では30%とって、そのあとは15%となる。正、Apple TVアプリを提供している特定の動画サービスは初日から15%の手数料となり、Appleが承認した特定サービス(Amazonなど)は映画レンタルなどアプリ内課金の手数料は5%となっている。
・デジタルサブスクアプリはアプリストア外で直接サブスクを販売することが可能だが、iOSアプリ内ではそれを言ってはいけない(例:Netflix、Spotifyなど)。
・フィジカルな商品(例:Amazonで靴を購入する)の場合は0%
上記のリストでも分かるように、Appleが勝手にサービスによってルールを決めたりするケースも多々ある。ゲームのサブスクサービスがダメだとAppleが語る一つの理由は動画・音声コンテンツは閲覧オンリーで、ゲームはインタラクティブだから違うと言っている。ただ、最近だとNetflixはインタラクティブストーリーを提供したり、Spotifyもインタラクティブポッドキャストを提供している。他の動画サービスもウォッチパーティーやインタラクティブなチャットや投票機能を提供しているので、Appleのルールが矛盾だらけなのが分かる。そして何度も言っているがRobloxが何故許可されているのかが一番不明。
本当に「オープンプラットフォーム」?
AppleとGoogleはオープンなプラットフォームであると自社は語るケースが多い。Googleの場合はPlay Store以外に他のアプリストア経由でアプリのダウンロードが実際可能になっている。そもそもAndroid自体はオープンなプラットフォームと言われているが、それはソフトウェアレベルだけ。Google PlayでアプリをダウンロードするにはGoogle Playアイコンをタップして、ゲームを検索してタップしてインストールするだけ。AndroidでFortniteをダウンロードするには、12〜20ステップぐらいかかり、注意表示の通知が山のように来る。以下のようなポップアップが来ると、ユーザーは恐れてダウンロードしない可能性が高い。
WindowsやMac(パソコン)と比較すると分かりやすい。MacやWindowsではウェブ上から様々なソフトウェアのダウンロードがあり、対応しているデバイス以外の制限や障壁が無い。しかもMac OSやWindows OSはオープンなのに基本的に安全に使えるので、AppleやGoogleが全てのアプリをレビューしなければいけないのはセキュリティー的理由としては少し弱く感じる。Windowsでの自由市場の例はPCゲームのアプリストア市場。Epic Games StoreとSteamはMicrosoftのアプリストアと対等に戦えている。そしてEpicとSteamのストアの方がクオリティが高いケースが多いので、実際によりマーケットシェアを取れている。
Googleは他の領域でも独自法に引っかかりそうな行動を起こしている。直近でPoliticoがGoogleの検索市場に対しての行動調査について記事を出したが、その中でGoogleが色んな手法を使って自由市場で元々Googleが圧倒的なパフォーマンスとプロダクトで勝ち取った検索市場をよりコントロールしてきたが明確になり始めた。まずスマホのキャリアに対して大金を払って、MicrosoftやYahooの検索エンジンではなくGoogleの検索エンジンを出すようにした。Appleとは初期5年の広告売上を50%のレベシェア、そしてそれ以降は40%のレベシェアを提供する代わりに、Safariのデフォルト検索エンジンとして活用してもらった。実際にGoogle経営陣とキャリアの担当者とのメールのやりとりでもレベシェアの代わりに独占を要求していた。
Appleとしてはブラウザ市場がオープンなため、アプリを開発しなくてもiPhoneユーザーにリーチができると語る。その発言自体は間違いではない。実際にSafariやGoogle Chrome用にサービス開発することは可能になっている。Appleはブラウザ上のコンテンツ、サイト、サービスをレビューしないし、アプリストア経由で決済を行わなくても問題ない。ただ、これは非常にミスリードしている発言でもある。まず、スマホではアプリが最もUI/UXとして効率的で効果的なものになっている。iPhoneのUXを見ても明らかにブラウザではなくアプリベースのデバイスなのがわかる。
そして実はiPhone上では「オープンウェブ」ではない。まず、iPhoneを最初にローンチしてから最初の5年間はGoogle ChromeやMozilla Firefoxなど競合ブラウザの利用自体をAppleが禁じた。2012年にはアプリストアの規約を変更して第三者のブラウザを許可したように見えるが、実は本当に第三者のものではない。有名テックブロガーのJohn Gruberさんによると、iOS版のChromeはCHromeのレンダリングやJavaScriptエンジンを活用していない。アプリストアが禁じていて、結果としてChromeはSafariのWebKitをGoogleのUIでラッピングしてChromeを提供している。結論としてiOS版のChromeはただGoogleやChromeのアカウントや履歴と紐づいているSafariなだけ。しかもAppleは第三者のブラウザサービスに対して古いバージョンのWebKitを使わせているので、結果としてiOS版Safariの機能がベストになっている。
AppleはSafariのWebKitを改善すると競合が入り込むことを理解しているからこそWebGL、カメラアクセス、ブルートゥースデバイスへのアクセス、そしてNFC決済などを制限している。WebGLは2Dや3Dレンダリング、カメラアクセスはAR体験やFaceIDログイン、そしてNFC決済はアプリストアを飛ばして決済を簡単にできるとAppleの利益にかなりインパクトが出てくるのをApple自身が理解している。
Appleはさらにハードウェア領域でも似たようなことを行なっている。Appleは自社のエンジニアにはプライベートAPIを提供しながら、第三者の開発者に対してはハードウェア(iPhone、AirPods、iOS)などとの連携に差をつけている。例えばスマートウォッチを作っていたPebbleはAndroidではAndroid APIを通してSMSやWhatsAppのメッセージに対して返信する機能を簡単に作れたが、iOSの場合はかなり手間がかかって、良い体験が作れなかったとPebble創業者のエリック・ミギコフスキーさんが語った。ただAppleがApple Watchを開発した時はiPhoneとネイティブインテグレーションがあったため、SMSの良い体験を提供できた。SMS領域でもこの問題が起こっている。AndroidではFacebook MessengerをデフォルトSMSとして設定ができるが、AppleだとデフォルトSMSはiMessageじゃなければいけない。
AirPodsもスマートウォッチと同じ現象が起きている。AirPodsはiPhoneと大体0.5秒ぐらいでペアリングするのと比較して、他社のデバイスだと数秒ぐらいかかるのは、AppleのネイティブAPIと連携する差。そのユーザー体験の差があるからこそ、AppleのAirPodsがこれだけ売れているのもある。
Appleはスマホ領域で勝ったので、その分ソフトウェア側の利益を取りたいのは理解できる。ただ、競合を完全に封鎖する動き自体は戦うべき。今までオープンだったMac自体もよりクローズドになり始めている。Appleは完全にAppleオンリーの世界を目指している。最近ではAppleオンリーのソフトウェアやサービス(例:Family iCloud Sync、Apple Fitness、iOS Apps for Macなど)を提供してユーザーが競合サービスにいけない形を作り始めている。2020年からAppleはどのiOSアプリに対してApple IDの利用を必須にした。もちろんApple IDではなくFacebookやGoogleを選べるが、Appleは徐々にロックインする動きが増えているように見える。
Appleはスマホ市場で多くの競合がいて、2〜4年毎にスマホがリプレイスされる中、毎回良いプロダクトを作らないといけないため、独占法には引っかからないと主張できる。ただ、iPhoneを一つのプロダクトと呼ぶのか、それともプラットフォームと呼ぶのかでこの議論が変わる。iPhoneはハードウェアだけではなく、ハードウェア + OS + ディストリビューションネットワーク + 決済システム + サービスのバンドルとなっている。それを考えると、Appleのスマホ以外のアクションはクローズドエコシステムのように見える。
Appleと戦える会社が限られている
このApple問題の1版の課題は多くの人がこの課題を知っていながら、何も対抗ができないこと。誰もがAppleがクラウドゲーミング市場の成長を止めていたことを理解したり、Appleのアプリストアポリシーが全体のエコシステムにかなりの負担をかけていることを理解している。対抗したい大手企業はアプリエコシステムに頼っているのでAppleに対抗をするとかなりの売上損失があることを承知の上で進めないといけない。Twitterが最近サブスク事業を始める上でAppleの「30%税金」について聞かれた際には、Appleのポリシーに同じると語った。例えばRobloxだと売上全体の75%〜80%がiOSから来ていると言われている。RobloxがEpic Gamesみたいに対抗してアプリがiPhoneやiPadで利用できなくなると、会社として存続するのが厳しくなる。
Appleに対抗できるのは同じレベルの会社(Facebook、Google)、デスクトップやブラウザベースの会社(メディア企業)、そしてスマホに頼らないアプリやゲーム(Epic Games)。実際にSpotify、Basecamp、Epic Games、Match Group、Digital Content Next、New York Times、NPR、ESPN、Vox、The Washington Post、Meredith、Bloomberg、NBCU、The Financial Timesなど50社ほどが集まってAppleやGoogleに対抗(訴訟)する組織を作った。
特に注目されているのは2020年夏にEpic GamesがAppleに対して訴訟した動き。アメリカではFortniteユーザーのたったの8.7%ぐらいがスマホユーザーなので、他のゲーム会社と比べてEpic Gamesは長期的にAppleに対して対抗はできる。2021年5月に裁判が始まり、そこではEpic Games CEOのティム・スウィーニーさん、Apple CEO ティム・クックさんなどが証言する予定。
ただそんなEpic Gamesをかなり手強い相手と戦っているのはわかっている。AppleがFortniteのアプリを取り除いた後にEpic GamesがiOSの開発ツールへのアクセスも止めて、Unreal Engineのアップデートが出来なくした。これは何千人のiOS開発者や事業を困らせた。例えばUnreal Engineにバグが発生しても、Epicがそれを直せなくなってしまう。AppleがUnreal Engineを止めてしまう力があると、開発者としては訴訟が終わるのを待つか、違うゲームエンジンで開発を一からやり直すかという難しい判断を迫られた。運よくこのAppleの行動は止められて、Epicは開発者アクセスを取り戻すことが出来た。またAppleがいつこういう行動を取るのかが分からないと思うと、Epic Gamesでさえかなりのリスクを背負ってAppleと戦っているのが分かる。
結論:オープンなメタバースの必要性
AppleやGoogleの話をこれだけ行なった理由はクローズドなエコシステムを作っている会社ほど次の大きな経済圏に対して壁を作っているから。デジタル/バーチャル世界やメタバースへの発展が進む中、新しいデジタルクリエイターが生まれやすい環境を作らなければいけない。それを行うには自由経済が必要になってくる。Appleは逆に自社のエコシステム、いわゆるアメリカでは66%のスマホ市場に対してクリエイターにかなりの制限をかけている。ある国が全取引に30%の税金をかけるとルールを作った場合、他の国に行きたがるのは当たり前のこと。
Appleの意向はスティーブ・ジョブズがFlashの利用を止めた時に明確になっている。第三者のソフトウェアは低クオリティのアプリ開発に繋がり、AdobeはベストなiPhone、iPod、iPadアプリの開発ではなく、クロスプラットフォームの開発ツールとして作られているのが許せないと彼は語った。これはAdobeに限らず、Unreal、Unity、Roblox、Minecraftでも同じロジックが適用される。このロジックはインターネットの発展と進化を止める言葉と言える。
クロスプラットフォームや相互運用性はインターネットでは必要不可欠なもので、メタバースを作る上では必ず必要となる。オープンでクロスプラットフォームのベネフィットはAppleがめちゃくちゃ感じているはず。そもそもインターネットがオープンなスタンダードで作られたのもあるが、iOSのゲームエコシステムの発展はクロスプラットフォームのゲームエンジンのUnityが活用されたからなのは間違いない。Unityを多くのゲーム開発者が選んだ理由は使いやすさだけではなく、iOSユーザー以外にリーチが簡単にできるクロスプラットフォームエンジンだからでもある。ユーザーが増えるとゲーム会社の売上が増え、次のゲーム開発制作の予算も増える。そしてFortniteやRobloxなどクロスプラットフォームゲームは全てデバイスが一緒に遊べるエコシステムを作ることによって、より各デバイスのエンゲージメントをあげて、エンゲージメントが上がるとアプリ内課金が多くなり、Appleの売上にも繋がる。実際にFortniteでは友達と一緒に遊ぶと一人で遊んでいる人より2倍の時間を過ごし、さらにマルチデバイスを使っている友達と遊ぶとさらに倍のエンゲージメント時間になるとティム・スウィーニーさんが語った。
メタバースが次の経済圏と考えると、Appleの動きは理解できる。次のデジタル社会をApple抜きで作り上げたくない。Appleとしては次のインターネットはバーチャルアプリストアがあり、アバター/アイデンティティをApple IDで紐付き、決済/銀行はApple Payで行い、そして全体的な体験をコントロールするのが最も利益に繋がることだと理解している。その世界を作らなければ、逆にAppleはメタバースの発展とともに大きく権力を失い、iOSが危機的立ち位置に陥る可能性がある。
そんなApple問題を解決するには政府の力が必要となる。Appleは自社のアプリストア、自社スタンダード、そしてハードウェア特定のサービスを開発する権利はもちろんあるが、それを全てバンドル化して他のオプションを提示しないのは間違い。これを解決するにはアプリ配信と決済領域での競合参入させること。具体的に:
1) WindowsやMacと同じように、iOSユーザーをソフトウェアメーカーから直接、もしくは他社のアプリストアやどのソースからもアプリダウンロードを許可させる
2) iOSデバイスで第三者のアプリストアの存在と利用を許す
3) アプリストアで配信してもしなくても、開発者に決済方法を自由に選べる権利をもたらすこと
こうするとAppleはスマホ市場だけではなく、バンドルしているサービス(アプリストアや決済)でも他のビジネスと対等に戦わなければいけないようになる。自由市場の力を信じれば、これは手数料が下がったり、ルールが変わる流れが訪れる事になる。30%の手数料をチャージするにはそれだけのバリュー提供をAppleが行わないといけないこととなる。もちろんプレインストールされたアプリを提供することでAppleは対抗できるが、他社を全く入れないところからは大分進化したエコシステムが生まれる。
結果としてAppleが業界全体のスタンダードの支配権が握れなくなり、メタバースの発展に繋がる。次の経済圏がメタバース、特にオープンメタバースにあると思っていれば、この方向性に賛同するのは間違いではないと思っている。オープンメタバースで重要なキーワードとなるのは自由市場(どの領域でも競合が入れること)、そして相互運用性(interoperability)。
次の記事ではこのオープンメタバースの作り方、必要なインフラ、そしてどういう可能性がありそうなのかについて書きたいと思っています。
Written by Tetsuro (@tmiyatake1) | Edited by Miki (@mikikusano)