NFTが作る、新しいインターネット
はじめに
最後にOff TopicでNFTについて話したのは3月の記事で、その時はNFTの説明と何故NFTがデジタルコレクタブルなのかを解説しました。そこから1〜2ヶ月間、NFTバブルは続いたが、5月〜6月頃に取引額が下がったと報道されたり、NFTに対する熱意が下がったように見えた。実際に私も最初に購入したNFTでNBAのハイライトをNFT化するNBA Top Shotの二次流通価格が落ちたのを見て、一旦バブルが終わったように感じた。それでもシリコンバレー内では夏の間はDAOやWeb3について熱く語る人が多かった。そして直近ではAxie InfinityやBored Apesなど新しいユースケースが出てきたおかげで、今まで以上にこの業界が盛り上がり始めた。2021年8月で62万回、$2.3B分のNFTが売買されている(2021年6月のNFT取引額は$270Mぐらい)。
CryptoPunksがミニマム$380Kで販売されたり、色んなNFTアバターが立ち上がったり、Axie Infinityみたいなゲームの人気は一時的で、ただのバブルと思う方もいるかと思う。実際にどこかのタイミングでNFTの価格や取引額が落ちると思ってます。ただ、これがバブルというのは違う気がする。1999年にはドットコムバブルで色んな会社が「.com」を名前に入れるだけで株価が上がる現象があった。あれもバブルと言えるかもしれないが、根本の技術のインターネットは最終的に普及して、今ではインターネットが色んな会社のインフラとなっている。NFTは当時のインターネットと同じな気がする。これは大きなシフトを作りそうな基盤技術であり、これによって新しい会社、経済、市場が生まれる。シリコンバレー、金融業界、どの業界を見ても、毎年どんどん頭の良い人たちがクリプト・Web3・NFT業界へと足を入れ込んでいるのを見ると、この業界に対して批判するのもどんどん難しくなる気がする。Chris Dixonが言うように、未来の予測をしたければ賢い人が週末で何をやっているかを見ると良い。今の賢い人たちはNFTを購入したり、それで色んなことを試している。今は猿のアバターはおもちゃに見えるかもしれないが、どんな大きなテクノロジーシフトもおもちゃとして最初は見える。
今回の記事ではクリプトの説明や、技術的な解説するつもりはないです。その話については私自身もエキスパートではないですし、大半の人からすると関係ない話だと思ってます。何故このタイミングでNFTの話をしているのかというと、ようやくNFTが普及するためのアプリケーションが出始めているからです。何百人も集まってあるNFTアバターを購入するのを見ると、これは新しいムーブメントが起こる気しかしないです。
クリプトは元々トレーディングが初期ユースケースで、今ではCoinbaseが上場するぐらい人気になった。株式トレーディングと違って24時間市場が空いていることを考えると、トレーディングだけでも既に既存のシステムと違いはある。DeFiなどもここ数年で人気になっているが、数百万人、数千万人、数億人と一般社会に普及するにはバックエンド系のユースケースではなく、C向けのユースケースがまず必要。最も重要なのはNFTであることを知らないこと。普通の人はSpotifyがAWSを使っていることを知らないし、知りたいと恐らく思わない。Spotifyで自分が好きな音楽やポッドキャストが聴けることが大事。クリプト業界は新しいNFTゲーム、オンラインコミュニティ、アバターなどを通して、普及し始めるタイミングがようやく見えてきた。もちろんまだまだ時間はかかるが、クリプトが世の中の文化に根付き始めるようになった。
この記事では色んな面白いNFT事例を紹介しながら、それがなぜ既存のインターネット(Web2)を進化させているのかを解説します。簡単に6つの大きなテーマについて話します:
1) NFTがネットワークを経済に変える
2) オーナーシップ経済
3) NFTがアクセスキーになる
4) NFTは相互運用性のあるSNS
5) ボトムアップ型のNFT
6) NFTはメタバースへの入り口
この記事を書いているタイミングで、過去7日間で最も二次流通額が高いNFTプロジェクトを見ると、トップ10のプロジェクトのうち、本記事では6プロジェクトについて触れます。
NFTがネットワークを経済に変える
まず話すのはゲーム。ゲームは昔から新しいテクノロジーを普及させるものでもある。自分自身も影響されてコンピューターを使いやすくさせたのは「Oregon Trail」。このテキストゲームでPC上でのマウスの使い方など学べた。
スマホが出てきたときに多くの人をスマホの使い方やゲーム開発社にスマホゲームのアイデアのきっかけになったのは恐らく「Angry Birds」。このゲームによってタッチスクリーン、スワイプや指の動きなど鳴らしたはず。
FortniteやRobloxはメタバース風な体験に慣らせるためのゲームでもある。そしてクリプトの教育と普及させているのはAxie Infinity。
Axie Infinity概要
AxieはNFTコレクタブルのCryptokittiesの直後の2017年末に作られた、ポケモンとCryptoKittiesを混ぜ合わせたゲームとして考えられた。ユーザーはゲーム内のモンスター(Axie)をNFTとして購入して、お互いボタル出来るようになっている。カードでバトルするとポイント・トークンをもらって、それをリアル通貨に変換できるので、ゲームを遊ぶと稼げる仕組みを作ろうとしていた。2017末からクリプト業界はかなり冷めたので、その間はひたすらゲームの機能開発などを行っていたが、今年に入ってから急激に伸びてきた。4月のAxie Infinity売上は$670K、5月は$3M、6月は$12.2M、7月は$196M、そして8月は$364M。以下は売上予測だが、これを既に超えている。
面白いのは、Axie Infinityを始めるのに色んなハードルが実はあること。まずはイーサリアムを受け入れるMetamaskなどのデジタルウォレットが必要で、さらにAxie Infinityの親会社のSky Mavisが提供するウォレットRoninをダウンロードして、そこにイーサリアムを移行しなければいけない。そして次にAxie(Axie Infinityのモンスター)を3体購入しなければいけない。今だと大体1体のAxieは$200弱するので、ゲームを始めるのに$600ぐらい支払わなければいけない。
3体のAxieを購入した後にゲームをダウンロードして遊び方を学んで、コミュニティにアクセスしたければDiscordにジョインして、色んな認証を行わなければいけない。他のゲームのように、無料で簡単にスタート出来ないのは珍しい。大体良いオンボーディングフローを作りたければ「Time-to-fun」(楽しくなるまでの時間)を短くするのが基本。トップスマホゲームのTime-to-funは大体60秒以下と言われている。
Axie InfinityではプレイヤーがデジタルペットであるAxieを集めて、増殖(ブリーディング)させて、バトルして遊ぶ。各AxieはNFT化されていて、全く同じAxieは存在しない。各Axieはポケモンの炎、水、草、電気タイプなどと似たBeast、Bird、Moon、Nut、Starタイプなどに分けられている。タイプによってポケモンと同じように、強い・弱いが存在する。
さらに各Axieには独自の目、口、耳、ツノ、背中、尻尾のコンビネーションを持っているのと、各Axieのライフポイント、スピード、スキルなどが異なる。
Axie Infinityでは3体のAxieが一つのチームとなって戦うので、良いコンビネーションのAxieチームを作るのが大事。プレイヤーはAxieチームを活用して他のプレイヤーのチームとバトルするPvPモードとゲーム内のモンスターと戦うPvEモードで遊ぶ。
ここまで見ると、Axie Infinityは普通のゲームに見えるが、このゲームの面白さはマネタイズモデル。
ゲームを遊ぶだけで稼げる「Play-to-Earn」モデル
最近のゲーム業界の流行りはFortniteなどが使う「Free-to-Play」モデル。これは無料でゲームを遊べて、ゲーム内のアセットなどを購入するモデルとなる。このFree-to-PlayモデルでもFortniteのようなデジタルスキンや見た目のみを変えられる、ゲームに全く影響しない自己表現を拡張させるモデルと課金することによってアドバンテージをもらえる「Pay-to-Win」モデルが存在する。Pokemon Goなどは基本的に課金しなくても楽しめるゲームだが、課金することによって少しアドバンテージを得られるので、後者に入る。どちらのモデルも成功している。Pokemon Goは過去5年で$5B以上の売上を達成していて、Fortniteは2018年から2019年にかけて$9Bの売上を達成している。Play-to-Earnや今までのゲームのビジネスモデルだと開発社がトップダウンもしくはミドルマンとしてプレイヤーにアセットを提供する形となるが、Axie Infinityはこれと違ったモデルを作っている。
Axie Infinityはブロックチェーン上で作られているからこそ可能となったゲームモデルを提供している。Axie Infinityでは開発社ではなく、プレイヤー自身がゲーム内経済をコントロールしている。開発社が何かしらアイテムなどを作ってプレイヤーが購入できるマーケットプレイスがあるのではなく、プレイヤーが他のプレイヤーにAxieを販売したり、ゲームを遊ぶことでお金を稼げる仕組みを提供している。先ほど話したPvPやPvEのバトルモードやデイリークエストを完了することによってプレイヤーはゲーム内トークン「SLP」をもらえる。そのSLPの活用方法は大体3パターン存在する。
まずは新しいAxieを増殖させるために使われている。2体のAxieで1体のAxieを増殖させることが出来るが、増殖させるためにはSLPトークンの手数料がかかる。さらに各Axieは7回までしか増殖に使えない。今は大体1体増殖すると$100分ぐらいのSLPトークンがかかる。マーケットプレイスでは1体最低でも$200ぐらいで販売していることを考えると、増殖させるだけで儲かる可能性が高い。ちなみに増殖させた回数に応じてコストが高くなる。
次にSLPトークンを保有し続けるプレイヤーもいる。結局SLPトークンはトークンなので、Axie Infinityのユーザーが増えたりすると価格が上がる可能性がある。今ではSLPの時価総額は$263Mあり、2020年9月の$0.03と比較して今は$0.12と4倍ぐらい上がっている。
そして最後にSLPをリアル通貨へ変換する人もいる。これが恐らく今では最も使われているユースケースではある。今は大体1 SLPは13円ぐらいの価値。平均的なプレイヤーだと毎日大体230 SLP(約3,100円)稼ぐことが出来て、トップAxie Infinityプレイヤーだと大体600 SLP(約8,090円)稼ぐことが可能。主婦に特化した求人サイト「しゅふJOB」によると、全国のパート・アルバイト平均時給が1,061円なので、Axie Infinityのトッププレイヤーはアルバイトの7.6時間分の労働と同じものになる。もちろん、毎日上手くいって8,000円ぐらいしかもらえないと考えると、日本ではAxieは流行らない可能性が高い。だが、発展途上国でコロナで職を失った人が多いフィリピンなどでは、Axie Infinityは国を救った。Axie Infinityから稼いだお金のおかげで75歳の夫婦が医療費を払うことが出来た。
Axie Infinityのすごいところは、オンライン上の国を作ったところ。プレイヤー同士の売買から少しだけ(平均4.25%)の手数料しか取らないため、基本的にAxie Infinityから生まれた経済価値はプレイヤーに届いている。これは国と同じ仕組み。政府がインフラ(社会のルールなど)を作ることによって、人が一緒に住むことができる。そして人が食べ物や物の売買(Axie Infinityの場合はAxieの売買)や国が作ったインフラを活用するために税金を払う。その税金を使って政府(Axie Infinity運営会社)はさらに経済が発展するように新しいインフラなどを開発する。販売する物を作るのは政府ではなく、プレイヤーなので、手数料は今までのゲーム会社と比較して低い手数料かもしれないが、政府はただベースのインフラを作るだけなので、悪影響を及ぼす可能性が少ない。
Axie Infinityの人気度合いから生まれたスカラーシップモデル
Axie infinityが人気になった時に、ある課題が生まれた。色んな人が参加すると、必ずAxieを3体購入しなければいけなくなる。ただ、急にユーザー数が伸びると、Axieのデマンドがサプライを追い抜き、値段が上がってしまう。今の価格を考えると、発展途上国の方が一気に3体購入するために$600支払うことは難しい。その課題を解決するために生まれたのがスカラーシッププログラム。Yield Guild Games(YGG)のような会社はAxieをプレイヤーの代わりに購入してあげて、プレイヤーがAxieをレンタルして稼いだSLPトークンを一部レベシェアとしてもらう仕組み。
YGGに多くの人が履歴書を送り、選ばれたユーザーに対してYGGはコミュニティマネージャー(いわゆるコーチ)を付けてAxieをレンタルしてあげている。さらに最近は誰でもYGG経由でスカラーシッププログラムを立ち上げられる仕組みを作った。例えばAtelier VenturesのLi Jinさんは「Leaping Corgi Scholarship」を作り、87名を支援した。
たまにこれはただお金持ちがお金持っていない人たちからお金を稼ぐ、汚い手法と聞くが、これは普通の会社と何が違うのかが分からない。一般的な会社の従業員は自社のIPやプロダクトを活用して仕事をして、稼いでいる。YGGはAxie Infinityが作る国・社会の中の会社と同様の立ち位置だと感じている。
Yield Guild GamesはAxie Infinity意外の「Play-to-Earn」モデルを提供するゲームに対応しているが、今はAxie Infinityにかなり偏っている。YGGはプレイヤーが稼いだSLPトークンをプレイヤー、コミュニティマネージャー、そしてYGGへの取り分として分ける。プレイヤーは7割、コミュニティマネージャーは2割、YGGは1割もらうようになっている。今は4,700人ぐらいYGG配下のプレイヤーがいるので、大体1人あたり230 SLP稼ぐと考えると、YGGは大体毎月4,000万円ぐらいの売上(4億円のGMV)を出している。今後プレイヤーが増えるのと同時に似たゲームモデルが増えることを考えると、YGGの成長が続き、多くの強豪が現れるのは間違いない。8月にYGGの調達発表があったが、あのラウンドにねじ込もうとしていたVCがめちゃくちゃ多かった。
アテンションがマネタイズされる時代
Axie Infinity自体が今後流行り続けるかは正直分からないが、そこが重要ではない。重要なのはゲームの中にあるネットワークとアテンションを経済化することが出来たこと。ゲーム内で生まれた95%のお金がプレイヤーに行く。これを今までのSNSプラットフォームと比較すると、圧倒的な差を感じる。過去20年間インターネット上でInstagram、Twitter、Facebook、YouTube、Discordなど多くのネットワークが構築されてきた。これによって人は今まで以上の人にリーチ出来たり、コミュニティを作ることが出来た。これ自体は悪くない。Off Topicも存在する大きな理由はTwitterが存在するから。ただ、これらのプラットフォームはクリエイターとアテンションの価値を過小評価してしまった。多くの人が入ってくるため、クリエイターはリーチだけで満足すると思い、彼らのマネタイズを気にしなく、アテンション自体がコモディティ化したと思ったため、ほとんどのSNS・ネットワークプラットフォームは広告などを通して自社のマネタイズのことだけ考えた。
それが今はプラットフォームの数が増えたと同時にクリエイターやユーザーの知識が上がったおかげで状況が変わり始めている。クリエイターはコアファンを面白いコンテンツと親近感を通して獲得出来て、どのプラットフォームでも付いてくると知った。クリエイターはプラットフォームに提供する価値を理解し出したからこそ直近で各SNSプラットフォームはクリエイター向けファンドを立ち上げている。クリエイターをプラットフォームに残すと、そのクリエイターのコンテンツを見たい人たち、いわゆるアテンションがプラットフォームに集まる。プラットフォームやコンテンツが増える中でアテンション(人の時間)は変わらないので、今ではアテンションが希少化されている。このアテンション・エコノミーの中で、アテンションを提供する人たちやクリエイターは何かしらの経済的な形で儲かるべきではないでしょうか?
さらに多くのSNS企業にとってユーザーからのデータ(個人情報やコンテンツ)を保有するのが大事。そのデータが広告のビジネスモデルに必須なものでもあるからこそ、どれだけ大事かをあまり認めない。結局TikTokのアルゴリズムはInstagram Reelsや他社サービスとそこまで変わらないのが事実で、TikTokの優位性は大量の動画データを取得してトレーニングさせたこと。これだけユーザーのコンテンツはSNS企業にとって重要なIPなのに、そのIPをアセットとしてB/Sなどに表さないのはユーザーにデータの価値を隠したいからかもしれない。実際にFacebook、Instagram、TikTokなどのSNS企業の規約を見てみるとユーザーは自分で作ったコンテンツの所有者ではなるが、企業側はそのコンテンツを様々な形で使ったも良いように書かれている。特に多くのSNS企業の規約に書かれているのが「まだ作られていない未来のユースケースも含む」と言う文章。これはユーザー中心のプラットフォームと思わせながら、過去のメディア企業と似たような仕組みを作っているだけにしか見えない。
実際に各SNSプラットフォームの規約(アメリカ版)から見る、ユーザーのコンテンツの扱い方をMark Beylinさんがまとめてくれました(🚨 = 悪い、✅ = 良い):
・Facebook:🚨 ユーザーに支払わずに勝手にコンテンツの利用・販売が可能
・Instagram:🚨 ユーザーに支払わずに勝手にコンテンツの利用・販売が可能
・TikTok:🚨 ユーザーに支払わずに勝手にコンテンツの利用・販売が可能
・Twitter:🚨 ユーザーに支払わずに勝手にコンテンツの利用・販売が可能
・Reddit:🚨 ユーザーに支払わずに勝手にコンテンツの利用・販売が可能
・YouTube:🚨 ユーザーに支払わずに勝手にコンテンツの利用・販売が可能
・Medium:🚨 ユーザーに支払わずに勝手にコンテンツの利用・販売が可能
・Twitch:🚨🚨🚨 ユーザーに支払わずに勝手にコンテンツの利用・販売が可能、尚且つコンテンツが作られた最初の24時間はTwitchが独占権を持っている
・Discord:✅ 実際にユーザーがコンテンツの所有者
・Substack:✅ 実際にユーザーがコンテンツの所有者だが、Substack経由でしかマネタイズ出来ない
・Pinterest:✅ 実際にユーザーがコンテンツの所有者
もちろんAxie InfinityのようにNFTベースじゃなくてもプレイヤー中心なゲームを作れる。実際にRobloxなどはそれに近しいものかもしれない。ただNFTやトークンを活用することによって、勝手に運営会社がルール変更をしにくくするなど、色んな意味合いでNFT・ブロックチェーンを活用する利点はある。Axie Infinityで重要なのはブロックチェーンを通してネットワークが経済に進化できること。
ライターネットワークを経済化するMirror
ネットワークを経済へと進化させるのはAxie Infinityだけではない。MirrorはNFTやDAOなどを取り組んだWeb3型のニュースレタープラットフォームです。毎週新しいライターは自分の書く内容をアピールして、10人投票で決まる。投票券を持っているのはMirrorユーザーで、1回でも選ばれるとMirror上で書けるようになる。そして全てのMirror上で書かれた記事はNFT化することが可能。そのため、他社のメディア媒体がもし記事を使いたいとなると、NFTを購入するなど、販売ができる。
Mirrorはただ記事をNFT化させるだけではなく、ライターが自分のオーディエンス・ネットワークを経済化させることが可能。記事やMirrorでNFT化する物をファンからクラウドファンディングして、その代わりにトークンをもらえる。これは色々活用事例はここから出てくると思うが、直近で面白かったのはライターのKyle Chaykaさんが自分のニュースレターをファンディングするためにMirror上でNFTを発行して販売しました。
NFTを購入した人たちはニュースレターを金銭的にまず支援している。さらにもしKyle Chaykaさんが嫌いになったり、人気になってニュースレターの価値が上がってNFTを別のファンに売りつけることも可能。ただ、それ以上に、NFTを購入した人たちにはトークンが発行され、そのトークンでメンバーだけしか入れないDiscordへアクセスできたり、今後のニュースレターの方向性について投票できるようになる。本当に、ファンがKyle Chaykaさんのチームに入ったのと似たような感じになる。
そしてさらにMirrorでは各作品をトークン化できるので、ライターは自由自在に記事のオーナーシップと記事から生まれる収入をスピリットできるようにしている。実際にNot BoringのPacky McCormickさんが15人と記事から生まれた売上をスプリットした。
これはかなり大きい。例えばOff Topicの記事を書くときに、色んな記事や人から情報をもらって書いている。もちろん引用などを通してそのソースをメンションすることが多いが、良いアイデアを考えた本人に一本のURL以外のメリットがあまりない。それがもし記事のオーナーシップや売上を一部シェアすると、業界が代わりそう。コンテンツの量やオーディエンスの大きさではなく、良いアイデア・コンテンツが収益化できるようになり、ライターのネットワークが経済化される。
ネットワークが経済化されるのは参加者全員がメリットできる仕組みを提供することだが、それと同時にNFTやトークンはオーナーシップ経済を作っている。
オーナーシップ経済
Mirrorでは今まで基本的に1人で作品を作っていたライターにファンやソース元を記事の一部オーナーに進化させた、新しい経済圏を作っていて、それがオーナーシップ経済と呼ばれている。今まではユーザーがコンテンツを貢献するサービスは色々あった。それこそWikipedia、YouTube、Twitter、Facebook、Airbnbなどは全て個人がコンテンツを貢献して成立したプラットフォーム。EC業界でも、Glossierなど強いカルトブランドほどユーザーが勝手にSNSなどでコンテンツを投稿してくれる。プラットフォームやブランドが増えていくと、当然ながらみんな同じユーザーの時間と労力を競い合うので、個人のコンテンツ制作の価値が上がる。ユーザーを自社エコシステムへ引き寄せるためには、プラットフォームやブランドは今後ユーザーにオーナーシップを与えるようになる。
このコンセプト自体は昔から存在している。シリコンバレーなどではFaebookやGoogleなど大手テック企業が出す給料には勝てないスタートアップがほとんどなので、ビジョンと株を採用したい従業員に提供する。この株のアップサイドを提供する似たようなコンセプトがデジタル上で行うにはブロックチェーンがピッタリ。
クリプトを活用していない事例だとD2CブランドのArfaが良い事例(今はこの制度をやっているかは不明)。Arfaは元Glossier COOのHenry Davisさんが立ち上げた会社で、初期は顧客と一緒にプロダクト開発をしたかったので、「Arfa Collective」をローンチした。この制度は新規プロダクト開発に貢献した顧客に上限5%の利益をスプリットするもの。これによってよりロイヤル・エンゲージが高い顧客ベースを作り、長期的にマーケティング費用を下げられると戦略だった。
Arfaの仕組みをブロックチェーン上でも出来る。新しいプロダクトごとにNFTを発行して、面白いアイデアやフィードバックを提供した人にNFTを提供することが出来る。ユーザーが生成したブランドに関してのレビュー動画などをNFT化して、ブランドがそれを買い取ったり、二時利用する際に売上をスプリットするような形も可能になる。さらにNFTとかだと初期顧客としてNFTを発行するのも良いアイデアかもしれない。多くのファンは好きなブランドやクリエイターを初期から応援してたのは一つのステータスとなるので、それを見せるためにはNFTとかは最適かもしれない。Spotifyは好きなヒップホップアーティストをいつから聞いてたかを見せてくれる、Day 1 Clubをローンチしたが、こういうような取り組みはファンも喜びそう。
さらにNFTをブランドからもらうと、そのブランドはファンのウォレットにNFTをエアドロップ出来るようになる。それによってアーリーアクセス権、新しい商品や、ディスカウントコード、何かしらのギフトを送るのもあり。ブランドと無関係な、ユーザーが喜びそうなNFTを送ることも可能になるし、場合によっては他のブランドとコラボして他のブランドのNFTを送ることなども可能になる。
実際に顧客に出資機会を提供する会社もいる。Airbnbはホスト向けの調達をしたり、過去の記事でも書いた通り、Republicなどクラウドエクイティファンディングプラットフォームを活用して自社のユーザーや顧客に簡単に会社のパートオーナーにさせることを考えている会社が増えている。今後は誰もが価値を提供すれば、オーナーに慣れる時代が来る。価値とは今まではお金だったが、今後はお金だけではなく時間や労力でオーナーになる時代になる。これが本当の投資の民主化かもしれない。
Mirrorはライターネットワークを経済化及びオーナーシップ型に進化させたが、それ以外のネットワークを経済化・オーナーシップ型に進化する事例が出てき始めている。最近調達したRoyalはアーティストの曲をNFT・トークン化して、ファンがトークンを購入して曲から生まれる収益をスプリットする会社。
さらにUpworkやFiverrなどテックフリーランスのマーケットプレイスもブロックチェーン化されている。UpworkやFiverrなどの既存サービスだとフリーランサーに対して4%〜20%の手数料をチャージして企業側には5%の手数料をとっていたのと比較してブロックチェーンベースの採用プラットフォーうのBraintrustはフリーランサーは無償で利用出来て、企業側には10%の手数料をチャージしている。さらにAxie Infinityと似ていて、Braintrustのマーケットプレイス自体は会社ではなく、ユーザーがコントロールしている。フリーランサーがマーケットプレイスに参加するとトークンをもらい、さらにネットワークに貢献(例:リファラル)するとさらにトークンをもらえる。そのトークンは今後のプラットフォームの方向性や手数料の構成などを決めるための投票券にもなる。
会社の株主になると、他の人がアクセス出来ない、その会社の情報などを得られるが、それだけではない。例えばディズニーは昔から紙で株券を株主に渡していたが、ディズニーの株券はキャラクターの絵が描かれてあったりしたアート作品でもあった。ただもちろんデジタル化した世の中になったため、株券が必要なくなった。そんなディズニーは2014年にコレクタブル株券を作った。ディズニー株を1株でも持っている人しか購入できない、実際の株券ではないコレクタブル株券を販売した。
このようにディズニーは自社の株主に対して特別な体験を用意した。これをデジタル上で色んな形でできると思うが、その一つのやり方がNFTをアクセスキーとして活用すること。
NFTがアクセスキーになる
今まではメールアドレスなどデジタル上でプラットフォーム間でオーナーシップを持てるものはあったが、かなり限られていて、自分のアイデンティティに紐づけるケースが多いので、売買するのは難しい。NFTだとデジタルアセットをオンライン上で管理できるデジタル在庫になる。そしてそのアセットはデジタルの領域を超えた鍵、アクセスキーにも慣れる。例えば投資先のRTFKTはジェフ・ステイプルさんと一緒にデジタルスニーカーを作り、NFT化した。そのNFTを活用してフィジカルなスニーカーを購入できるアクセスパスとしてRTFKTは活用した。実際にその映像はこちら。
この活用事例は色んなインパクトを与えられる気がする。もしRTFKT x Jeff Staplesのデジタルスニーカーを買って、アプリエコシステムで値段が上がるのを見て売りたければ、簡単にデジタル上で売れる。買手側は本物かどうかオンライン上で確認できるし、フィジカルな商品を待たなくても良い。もし買手が実際のスニーカーを履きたいと思った場合、NFTを鍵として活用してRTFKTにスニーカーを作ってもらえる。いわゆる、フィジカルなアセットに紐付けられると考えると、二次流通の流動性が上がるはず。
そしてもちろん、アクセスキーとしてフィジカルなプロダクトを作る・購入できる権利だけではなく、他の使い方もある。RTFKTの直近のアバタープロジェクトでは完全オープンにアバターを提供するだけではなく、特別にRTFKTの過去のNFTを購入した人向けにアバターを購入できる特典を提供している。
トークン型のロイヤリティプログラム
多くの会社はロイヤリティプログラムをうまく活用している。新規顧客よりコアファンの方が購入する確度が高いし、よりお金を使ってくれる。実際にNikeだとロイヤリティプログラムに参加しているメンバーは新店舗の売上の7割ぐらいを占める。Amazon PrimeはPrimeメンバーじゃない人と比べて2.3倍の購入額を記録していて、Targetのロイヤリティプログラムに参加しているメンバーはTarget全体の売上の4割を占めている。
過去のOff Topicポッドキャストでも話したことがあるが、Starbucksはメンバーシッププログラムをうまく活用しているので、ブロックチェーンじゃなくてもブランドが良いロイヤリティプログラムを活用するのは可能。
ただ、良いロイヤリティプログラムを作るコストがある程度かかるのと、フレキシブルではない。ブロックチェーンベースでやれば、購入情報を保管して、それをベースにユーザーに特典を提供できる。そしてアクティブ度合いによって、より良い特典を提供できる。よりVIPな人に対して限定グッズにや店舗オープン時に特別アクセスを提供するかもしれない。実際にNikeやGlossierなどのカルトブランドがこう言う取り組みを行ってもおかしくない。そもそも多くのNFTコミュニティなどはDiscordサーバーを立ち上げて、そのコミュニティのNFTを保有していないとアクセスできないようになっている。今後はブランドのコミュニティ、3D世界、ゲームに参加するためにはNFTが必要になるかもしれない。
トークン自体に限りを作ることによって、限られた人しかメンバーになれないようにすれば、ブランド価値が上がればトークンが売買されるかもしれない。その売買された一部の売上をブランド側が取得して、メンバー向けにパーティやコミュニティ作りのアプリなどを開発する費用として回せるようになる。そしてもちろん、費用の活用方法はトークンを持っているメンバーも含めて判断が可能になる。これによって、ロイヤリティプログラムはよりユーザー中心型のものとなり、ユーザーをブランドのパートオーナーとして進化させる。過去のbytesでは話したサッカー選手のメッシのPSGとの契約でトークンをもらったのもこれに似ている。選手もコミュニティの一員として、PSGが成功するとトークンの価値が上がり、選手もアップサイドを得られるようになる。
NFTは総合運用性のあるSNS
このオーナーシップ経済及びアクセスキーに加えて、コミュニティ・SNS要素を組み込んだのがNFTアバター。数ヶ月前から、アメリカのテック業界のTwitterを見ると、多くの人がプロフィール写真を何かしらのNFTアバターに変えている。
その中でも最も有名なNFTアバター上記写真に出ていて、過去のbytesでも話した「CryptoPunks」。CryptoPunksは2017年にローンチされた、1万体のアバター。全てがユニーク・一品物で、NFT化されている。今だと1体ミニマム$380Kぐらいの値段になっていて、今までで最も高く売られたCryptoPunkは$11.7Mで購入された、Punk #7523。1万体のCryptoPunksがあるなか、たったの9体がエーリアンになっていて、そのうちたったの1体がマスクをしているアバターとなっていることから、貴重価値として見られている。
このようにCryptoPunkはカルチャー的価値があるようになり、今ではコレクタブル的存在になっている。NFTアバターは元々、ただのコレクタブルに近いもの、いわゆるポケモンカードやロレックスを付けているのと同じとして見られていた。ただ、その概念が少しずつ変わり始めている。まずそれを変えたのは、ある週末に500人弱の人たちが集まって、PartyBidというNFTに部分投資できるプラットフォーム経由であるCryptoPunkを購入し、多くの保有者は自分のTwitterプロフィールをそのCryptoPunkの写真にした。
これは過去のOff Topic記事でも話した、ポケモンカードやスニーカーなどコレクタブルに部分投資出来るOtisやRallyに近しいもの。実際に自分でもPartyBid経由でCryptoPunkを「購入」しました。購入した際に特別のトークンをもらうので、そのトークンの保有者しか参加出来ないDiscordサーバーにアクセスして、そこで全員で一緒にそのNFTアバターを少しカスタマイズした。元々このCryptoPunkを購入するアイデアを持っていたのがNot BoringのPacky McCormickさんだったため、彼のNot Boringロゴの黄色を組み込んだ、カスタマイズされたCryptoPunkが生まれました。
もちろん投資文脈・コレクタブルとしてアバターを扱う人も多いが、最近のアバターはそれ以上の機能などが含まれている。それを説明する前に、まずはアバターが大体どう言うふうに構成されているかを説明します。
NFTアバターの作り方
NFTアバターを作る際には、色んな要素が含まれます。まずはアバターの数。基本的に1万体のパターンが多いが、数千体にするケースもあれば、2万体ともう少し一般化するNFTアバタープロジェクトも立ち上がっている。そしてアバターを作る際には、オススメは事前にコミュニティを作ること。いきなりアバターを作っても誰も引き寄せられないので、事前にアバターを作る理由、デザインを一部見せたり、みんなが購入してくれるプレマーケティングが必要。RTFKTなどはこれがめちゃくちゃ上手くて、Discordのコミュニティが1,000人増えるとアバターの写真をリークしている。
NFTアバターはまずは誰でも購入できる値段設定にするのが普通。自社サイトを持っていて、そこで世界観やプロジェクトを説明しながら、初期の購入はそこで行われる。NFTアバターの準備が出来た時に、ユーザーはサイトにいって、Metamaskなどウォレットを繋げて、アバターを「mint」(鋳造)する。例えば人気NFT競馬ゲーム「Zed Run」のデザイナーが作ったNFTアバターの「Dinomonks」では、以下のようなサイトになっている。
1体のDinomonkを鋳造するには0.08 ETH(約35,000円)かかり、ガス手数料などを含めると4万円以上となる。NFTアバタープロジェクトによっては初期価格は変わるが、大体0.05 ETHから0.08 ETHがよく見るパターン。鋳造すると、自分のウォレットと繋がっているOpenSeaなどで自動反映される。
NFTアバターを鋳造する際に、どういうアバターになるのかはプロジェクト運営者も分からない。ベースの形(頭や体)は同じだが、NFTアバタープロジェクトを作る際に運営側が色んな「trait」(特徴)を開発する。大体それは目、耳、口、髪の毛、服などある。多くのNFTアバタープロジェクトは少なくとも100個以上の特徴を開発して、各特徴にレア度合いのパーセンテージを与える。その特徴が出るか出ないかは、NFTを鋳造する際にランダムにアサインされる。そして同じアバターが2体存在しないように裏側でコーディングしている。そのため、アバターを鋳造するときはポケモンのカードパックを開けるのと同じ気持ちで、レアカード(アバターの場合はレア特徴のあるアバター)を鋳造できるとより価値のあるアバターになる。実際に他のDinomonksを見ると、全てユニークなのが分かるが、これは一つ一つ運営側が手で作っているのではなく、特徴を開発してランダムでアサインしたものとなる。
このアバターをOpenSeaで管理できるので、簡単に二次流通での売買も可能。
それではここから最近めちゃくちゃ人気なNFTアバタープロジェクト「Bored Ape Yacht Club」について解説します。
Bored Ape Yacht Club概要
Bored Ape Yacht Club(BAYCもしくはBored Ape)の創業者のGargamel、Gordon Goner、Emperor Tomato Ketchup、No Sass(全員偽名)はCrypto Punksなどが作った、アバターを「PFP」化する、いわゆるプロフィール写真化する現象を見て、アバターにもう少しストーリー性を加えたいと思ってプロジェクトを考え始めた。彼らが想像を膨らませてた時に、今クリプト業界に入った人たちは2031年には億万長者になっていると考え、引退したら「ape」(猿)みたいな生活を送るのではないかと思った。クリプト業界ではものすごい量のお金をかけてNFTや仮想通貨に投資するのを「aping in」と言われているので、そこから猿をコンセプトとしたNFTアバターのアイデアが生まれた。
それまでのNFTアバタープロジェクトは基本的に古いインターネット感、CryptoPunksみたいな8ビット的なデザインが多かった。それと比較してBored Apeはよりリッチなデザインでストリート感・サブカル感のあるテイストだった。
グラフィックなどはプロのイラストレーターなどを採用して、初期コストは大体$40Kぐらいかかった。そして4月後半にDiscordサーバーを立ち上げて、4月23日にプレローンチを実行した。当時はBored Apeを鋳造することは出来たが、まだどんな姿なのかは見えなかった。このビジュアルが見えるようになるまでの1週間の間では立ったの数百体のBored Apeしか鋳造されなかった。
全て変わったのは2021年4月30日だった。鋳造されたBored Apeのデザインが公開された途端、誰もがBored Apeのルックスを気に入ってTwitterプロフィールとして出し始めた。午後18:30頃にデザインが公開されたが、次の12時間ではひたすらBored ApeについてTwitterが盛り上がっていた。すぐに1万体のBored Apeが鋳造された途端、二次流通市場が熱くなり始めた。Bored Apeが一晩でNFT業界のステータスシンボルになった。
この記事を書いている過去7日間では352体の売買があり、取引額が$66.9M、平均価格が$190K。数億円のBored Apeも多々出ている。
直近ではオークションハウスのSotheby'sが101体のBored Apeをオークションしていたが最終的には$24.4Mの落札額で購入された。
101体で$24.4Mの価値があると考えると、単純計算すれば10,000体だと約$2.4Bの価値となる。もちろんレアなBored Apeなども存在するが、4月にローンチしてから5ヶ月で$0から約$2B以上の時価総額に慣れる理由はなんだろう?Bored Apeはデザイン性はもちろん、その他にナラティブやトップダウン及びボトムアップの世界作りを行ったのが成功した要因となる。
Bored Apeのナラティブと世界観
BAYCのアバターデザインだけでもなんとなく世界観が見えてくるが、Bored Apeのサイトに行くとアバターがいる環境まで描いている。
結局何かに価値を与えるのはナラティブで、ナラティブとはストーリーの重ね合い。VC業界やテック業界では「Sapiens」という本が人気だが、その本で話しているのは世界で人間だけがナラティブを作れること。ナラティブ、いわゆる世界観を作るためには複数のストーリーが重なり合うことで作れるもの。一つのブログや記事はただのストーリーだが、ブログを何回も書き、似たテーマやパーソナリティが出てくることによってナラティブ・世界が作られる。今年のオリンピックが何故アメリカであまり見られなかったかと言うと、今までと違ってそこまでテレビやメディアがアスリート個人のストーリーを話さなかったからかもしれない。アスリートの苦しみやオリンピックまでの道のりを知らなければ、見たいと言う気持ちにはなりにくい。例えば2008年のオリンピック前からNikeはアメリカのバスケ代表チームのドキュメンタリーシリーズを配信していたが、複数のエピソードを重ねて、アメリカのバスケ代表がもう一度世界一になるための道のりを描いたからこそ、よりチームに興味を持つ人がいた。
Off Topicもこのナラティブを活用している。2020年は色んな記事を書いたが、各記事は実は大きなテーマに紐づいていた。
複数のストーリーが重なることによってナラティブが生まれ、ナラティブが存在するから価値がつく。これはある有名なアート作品を見ると分かる。1900年代からフランスではアメリカの億万長者がフランスの絵画を買い付けていることを恐れていた。それによってフランスの伝統やカルチャーが無くなるのではないかと感じていた。同時に第一次世界大戦直前だったので、フランスとドイツの関係性も悪化していた。一見関係ない、複数のストーリーに見えるが、これが全て一つの大きなナラティブを作ったのは1911年8月21日。月曜日の朝早くから3人の男性がルーブル美術館から逃げ去っていた。彼らは夜中にルーブル美術館に忍び込んで、あるアート作品を盗んだ。1507年に描かれた絵だったが、1860年代までそんなに注目されてなく、当時はルーブル美術館でも最も人気・有名な作品ではなかった。その作品はレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた「モナ・リザ」だった。
実はモナ・リザが盗まれたことを分かったのは盗まれたから28時間後だった。ルーブル美術館がその発表をした時に世界中の新聞がモナ・リザについて報道し始めた。New York Timesでは「60人の探偵が盗まれたモナ・リザを探す」という記事まで出した。そしてアメリカの億万長者がフランスのアートに興味を持っていたからこそ、J.P. Morganが人を雇って盗んだのではないかという噂(ストーリー)が話されたり、ピカソも容疑者として警察に調査された。同時にドイツを疑う人も出てきた。ようやく28ヶ月後に戻ってきたものの、モナ・リザが盗まれて、色んな噂・ストーリーが出回らなかった場合、もしかしたらモナ・リザはこれだけ人気な絵画になってなかったかもしれない。
Bored Apeは色んなストーリーを出している。各アバターの特徴によってストリートウェア的な文化や、サイトデザインによってのストーリーテリングなどを行っている。さらに明確にBored Apeを保有するメリットを記載している。
その中でこの記事でも話した、メンバーシップコミュニティを提供している。Bored Apeを保有している人たちだけがアクセスできるトイレがある。トイレは落書きやグラフィティアートなどがよくあるからこそ、Bored Apeはトイレにコミュニティが集まるようにしている。
このトイレは実はトイレというよりも、大きなキャンバスをBored Apeが用意しているだけ。過去に話したReddit Placeと似たようなもので、白紙のキャンバスに1ピクセルずつメンバーが色を決められる仕組みとなっている。メンバーは15分ごとに1ピクセルの色を決めることができるが、全員が力を合わせると、以下のようなグラフィティが出来上がる。
さらに既存の人気ブランドとのコラボ企画なども行っている。こちらはストリートウェアブランドのThe Hundredsとのコラボ商品。
直近ではRTFKTともコラボしている。
これだけでも面白いプロジェクトだが、個人的にはBored Apeが非常に面白いと思う理由は特殊なトップダウンの世界作りをしているのと、もっと重要なのはボトムアップの世界作りが出来ているところ。
Bored Apeから生まれた関連キャラクターや世界作り
今までのBored Apeのトップダウンの世界観の作り方は面白いが、これは他のNFTアバタープロジェクトも行っていたこと。Bored Apeのトップダウンの戦略で一番面白かった戦略は6月18日の発表にあった。
Bored Apeアバターを保有している人のみが専用の犬のペットを無償で鋳造できることを発表した。実際のツイートでの発表では、犬をシェルターから引き取ることが可能と発言。これをBored Ape Kennel Clubと呼んだ。
犬自体はBored Apeのアバターと同じで、170以上の特徴があり、ランダムに組み合わせてユニークな犬が鋳造できるようになっている。そして二次流通で売買された犬がいた場合、二次流通額の2.5%をアニマルシェルターに寄付することを発表。最初の6週間で既に寄付金が$1M達成したとのこと。
今では最低価格が$18Kぐらいで、直近で最も高く売れたBored Ape Kennel Clubの価格は$5M以上。
Bored Apeを持っているユーザーにとってBored Ape Kennel Clubの犬はアップサイドでしかない。もし販売したとしても元々保有していたBored Apeと関係ないので、利益にしかならない。キープすると恐らくその犬と自分のBored Apeを他の形でも活用できる時期が来るはず。重要なのは、新しいキャラクターをBored Ape世界に入れ込むことができること。これによってよりBored Apeの世界が広がるようになる。
Bored Apeは次に自分のApeをミュータントに出来るNFTを作った。これも同じように、自分のBored Apeが鍵となったものだが、Bored Ape Kennel Clubと違って、自分のアバターを変化させるものを公開した。Bored Ape運営チームはM1、M2、M3と三つのタイプの液体を作り、それぞれの液体によって既存のBored Apeの特徴を残しながらミュータント化する。
今のところM1液体とM2液体の結果は出ている。以下のような形で、既存のBored Apeが変化する(もちろんオリジナルのBored Apeは残ったまま)。
M3液体は8つしか存在しないらしく、めちゃくちゃレアなミュータントApeを鋳造できるようになるとのこと。さらにミュータントApeをテーマとしたゲームを公開し、そこで勝ったプレイヤーに対して特殊なNFTを送るようにした。
さらにThe Sandboxと提携して、メンバーだけが参加できるためデジタル土地を購入。ここではメンバー向けの体験などを提供する予定らしい。
ボトムアップの世界作り
今まで話したのはトップダウンの世界作りだが、Bored ApeはコミュニティメンバーがBored Ape世界に貢献できる機会も与えている。Bored Apeアバターの保有者はそのアバターの画像をBored Ape運営会社の許可なく商業用に使える権利を持つことになる。そんなルールがあるため、多くのBored Ape所有者は自分のアバターをベースにグッズ販売を行っている。中にはビールやコーヒーブランドを作る人もいる。実際にミシガン州のビール会社のオーナーが2対のBored Apeを購入認め、自社のBored Ape IPAをローンチした。
さらに自分のキャラクターをコミックの主人公とするプロジェクトも出てきている。実は似たようなプロジェクトをCryptoPunksコミュニティも行っている。
良いコミュニティとはファンをクリエイターにさせる場所だと思うと、自社のIPをメンバーを信頼して世界を作ってもらうのは素晴らしい戦略となる。Bored Apeはこのコミュニティがかなり強く、最近だとBored Apeを活用したコミック、ストーリー、クリエイティブなプロジェクトをコミュニティで管理するようになっている。Bored ApeのライタールームではBored Ape所有しか入れなく、そこで新しいアイデアの提案、既に存在するアイデアへの投票、資金提供、そして自分の保有しているBored Apeアバターを貸し出してライセンス契約できる仕組みを作っている。
「人がBored Apeを使って何かを作ってくれると、ブランドが拡大する」とBored Ape共同創業者が言っているように、Bored Apeはアバターのオーナーシップを所有者に提供することによって、ユーザーが勝手にBored Apeユニバースを広げてくれる。そうすることによって、Bored Ape運営側がクリエイティビティを常に保つプレッシャーも減り、IP・ブランドが拡散しやすくなる。
アバターを使ってクリエイティブなプロジェクトをするのは自己表現の仕方でもある。そしてその自己表現をするためにはアバターが必要。そんな限られたアバターにアクセスすると、本当にSupremeの限定ドロップをもらえたような感覚になる。そのため、実はこのNFTアバターと言うものはSNSに近しいコミュニティでありながら、既存のSNSの一個上のレイヤーに存在する、相互運用性のあるSNSとも言える。
相互運用性のあるSNS
Bored Apeの説明を聞くと、明らかにこれはただのアバターではないことが分かる。一つのコミュニティとして成り立っていて、SNS化している。SNSとして人気になるためには三つの要素が必要と言われていて、それがソーシャル・キャピタル、ユーティリティ、そしてエンタメ。ソーシャル・キャピタルとはステータスを表せるもので、既存SNSとかだとフォロワーやいいねが当てはまる。NFTアバターの場合はそもそも限定商品なので、持っているだけでステータスを表せる、いわゆるSupremeやロレックスを持っているのと同じなので、ソーシャル・キャピタル性が高い。次にユーティリティ性があるのが大事だが、既存SNSだとフィルターや編集機能など、何かしらのツールで便利なサービスを提供することが重要。NFTアバターの場合はアクセスキーとしてのユーティリティ性がある。そして最後はエンタメ性。既存SNSだとこれは動画やストーリーズなど面白いコンテンツやコンテンツフォーマットが当てはまる。NFTアバターだとBored Apeみたいにアバターを活用したグッズやコミックなど、ユーザーが色んな形で自己表現ができる。
しかも今後アバターが人気になり、カルチャーに根付くとよりメインストリームのチャネルにも出てくるようになる。実際にCryptoPunksは多くの最近ハリウッドスターなどのエージェント業務を担当するUnited Talent Agencyと提携。今後もしかしたらCryptoPunksやBored ApeがNetflix番組や過去の記事で書いたようにDream SMP的なゲーム内ストーリーのキャラクターとして人気になってもおかしくない。Bored Apeはアバターの主勇者をIPオーナーにしているからこそ、マーベルのようなMCUが作られるとそのユニバースの株主となり、そのユニバースに貢献するインセンティブがあるためよりIP展開にコミットして、ユニバースが拡大して、メインストリーム化される流れが作られる。
もちろん、NFTアバターは既存のSNSと違って限定されているため、同じレベルでスケールするのは難しいし、そもそも既存のSNSをコピーするだけだと基本的にユーザーを引き寄せるのは難しい(Twitterに近しいBitcloutは良い事例)。NFTアバターの良さは既存SNSを自由に行き来できる、一つ上のレイヤーに存在するSNSであること。Bored ApeやCryptoPunksなど多くのクリプトコミュニティはDiscordサーバーに群がっているが、自分たちのアバターをTwitter、Instagram、Facebookなど、どのプラットフォームでもプロフィール写真として表示が可能になっている。今まではTwitterで自分のフォロワー、いわゆるステータスやソーシャル・キャピタルをInstagramや他のプラットフォームに移行させるのは非常に難しいが、NFTアバターだとそれがより簡単になる、相互運用性のあるSNSとなる。プラットフォーム依存のリスクが一気に削減されるようになる。
もしかしたら一番近しいものは卒業した大学名かもしれない。ほとんどの大学は授業など学んだことよりも、その大学に行ったステータスが重要になる。ハーバード大学やアイビー・リーグなどエリート大学は入学できる人の数を制限するからこそブランドを作れている。そして卒業生は「ハーバード大学卒」と言うステータスを色んな場所に持って行けるようになる。ただNFTの場合は、これがデジタルプロダクト経由でのシグナリング・ステータスを表せるようになった。
そんなステータスや限定的、トップダウンアプローチとは対照的なNFTも出てきている。
ボトムアップ型のNFTプロジェクト「Loot」
8月末あたりからクリプト業界とテック業界のTwitterはBored ApeやNFTアバターではなく、ある別のNFTプロジェクトに夢中になり始めた。それがLoot。元Vine創業者のDom Hofmannさんが2021年8月27日にこのLootプロジェクトについてツイートしたのが全ての始まりだった。
この新しいプロジェクトはLootという名前で、今までのランダムな特徴の組み合わせた動物などのアバターの写真を鋳造するのではなく、ランダムの組み合わせたアドベンチャーギア・アイテムを鋳造できるプロジェクト。一見アバタープロジェクトと同じように聞こえるが、Lootは全8,000個の袋を無償で鋳造できるのと、写真ではなく以下のようなシンプルなアイテムのテキストが表示される。
アートワークでもなく、ゲームでもなく、テキスト化されたアイテムリスト以上のものはない。このLootを直近で誰かが4,000万円以上で購入している(ローンチしてから5日で$46M分の取引)のは、もちろん一部NFTバブルというのもあるが、このLootプロジェクトの可能性を感じている人が多いからでもある。今までのアバタープロジェクトではビジュアルが決まっていたため、それ以上のクリエイティビティをコミュニティが発揮できなかった。それと比較してLootはただのテキストだからこそ、自由にクリエイター側は表現できるようになった。実際に誰かがAIを活用してLootのテキストをベースにピクセルアートを自動生成するプロジェクトを作った。
別のユーザーはLoot袋のアイテムを別々のNFTとしてアンバンドルして交換できるマーケットプレイスを作っている。
それ以外にもアイテムをトラッキングしてレア度を確認するプロジェクトや保有しているLootをベースに勝手に自分のキャラクターを作れるプロジェクトも立ち上がっている。ローンチしてから数日以内でとんでもないエコシステムが立ち上がっている。
もちろんゲームアイテムのリストなので、今数名がLootをベースにしたゲーム開発を行っている。一番面白いのは、LootクリエイターのDomさんはLootを作ってから基本的にはそこまで関わっていないこと。ほとんどのLootをベースにしたプロジェクトは勝手にコミュニティが作っているもの。簡単にいうと、LootはNFTアドリブ・即興でしかない。
くだらないように見えるが、これは究極のボトムアップの世界作りでもある。Axie Infinity経営メンバーなど、クリプト・Web3業界のトップの人たちが集まってここ最近このLootverseに貢献して、新しいプロジェクトを立ち上げている。
マーベルのユニバースを作るにはマーベルは何百億円かけて各マーベルキャラクターの映画を作り、それまでは何十年とコミックなどを通してキャラクターの認知を拡大させていた。トップダウン的なプロセスで何百とライター・アーティストにマーベルキャラクターについてストーリーを作るようにお願いしていた。このプロセスを逆走させられるかもしれないのがLootのようなプロジェクト。トップダウンではなく、コミュニティが集まって一つのIP・ユニバースを作り、盛り上げる。これはまさにDream SMPと似ている。ボトムアップのやり方の重要なところは、完全にコミュニティがクリエイティブコントロールを持っているので、NGを出す会社がいないところ。
もちろんLootプロジェクト自体は成功しないかもしれないが、これがメタバース(Lootの場合はLootverse)を作る上では重要なコンセプトな気がする。今までのアバタープロジェクトは家を会社やクリエイターたちが販売していた。家の中の置物やペットを後で作ったりすることが出来るかもしれないが、家の中と限られたスペースと世界観だった。それをLootプロジェクトは家ではなく、どんな家も作れるレンガを提供した。そのレンガを使って家を作る人もいれば、橋やスタジアムを作る人もいる。
最初は8,000個のLoot袋しか作らなかったが、Domさんは最近100万個以上の「mloot」(more loot)を作った。同じ仕組みで、ユーザーは無性に鋳造できる。実際に私も4個鋳造した。
ただ、これでも制限はあるので、Domさんは「synthetic loot」(合成loot)というものも作った。これはNFTではなく、Metamaskなどウォレットを持っていればバーチャルLootを発行させることが可能になるもの。NFTではないので、鋳造しなくて良い。コストが全くかからないので、この合成Lootを組み込んだLootアプリケーションは完全にオープンに出来る。これによって今までのNFTアバターなどと違った、より多くの人に関わってもらえることが可能。これも全てLootの上でアプリケーションを作るコミュニティが選べる。
最近ではLootと似たプロジェクトを作っている人たちが増えている。Lootと同じビジュアルだが、サッカーなど特定のカテゴリー・世界に特化したプロジェクトを立ち上げている。以下はサッカーゲームのFIFAやウイニングイレブンなどで見る、スポーツ選手の出身国、ポジション、能力をランダムで数値化するプロジェクト。
これはまさにFIFAの選手カードと同じ。
このボトムアップ・コミュニティから生まれたIPやゲームの事例は過去にもある。Fifty Shades of Greyは元々人気シリーズTwilightのファンフィクションとして生まれた。ゲーム業界でもWarcraft IIIのモッドをユーザーが作り、それをスピンオフしてDOTA 2が生まれたり、ARMA 2がモッドされてPUBGが生まれたり、Half-LifeをモッドしてCounter-Strikeが生まれるなど、コミュニティが作るゲームやIPは今まで存在したが、それをNFTを活用することでより分散化されたプロジェクトを作れる。
アートを含めない、会社・チームがリードしない、無償にしたこと、そしてオープンにコミュニティが自由にLootの上にアプリケーションを作れるようにしたのは今までのNFTプロジェクトと完全に変わったものである。Lootは業界を変えたとしか言えない。
NFTはメタバースへの入り口
過去のOff Topic記事で2回ほどNFT関連の話をしたことがあるが、どちらともメタバースのテーマで出来た技術。メタバース内では複数のデジタル世界(Web 2.0だとサイトやサービスみたいなもの)が存在する中、デジタルアセットやスキンを色んな世界で持っていけるようするためにはNFTが基盤の技術になるが、アセットとはスキンだけではなく、アバターも含まれる。先ほどNFTアバターは色んなSNSのプロフィールとして変えられる、相互運用性のあるSNSとして話したが、これをメタバースのような3Dデジタル世界ではどういう風に展開していくのか?その答えを数社出し始めているが、まずは以前話したBored Apeから。Bored Apeは各アバターの3Dバージョンを最近リリースした。
同時にBored ApeはDecentraland上でアバターを保有しているメンバーにBored Apeパーカーをドロップした。そのおかげでBored Apeメンバーたちはアバターを使わなくてもDecentralandなどデジタル世界でBored Apeコミュニティに入っていることを自己表現できた。
2社目は投資先のRTFKT。メタバース x NFTの話をすると大体トッププレイヤーとして名前が必ず上がる会社だが、RTFKTは今までNFT化されたデジタルスニーカーを作って、DecentralandなどSandbox Gameなどで履けるようにしていた。
そしてそのデジタルスニーカーのNFTを活用してフィジカルのスニーカーを購入できる取り組みも行なった。
スニーカーだけでは満足していないRTFKTは次にアパレルの方に展開した。Unreal Engine上でも使えるようにしている。
最近はメタバース上でのアバターを開発しようとしているReady Player Meともコラボして、誰でもアバターを作る際にRTFKTのMetajacketを着れるようになっている。
RTFKTのMetajacketがNFT化されると、フィジカルと同じようにデジタルファッション業界でも服の在庫をブランドがコントロールできる。100着だけ作ることも出来れば、在庫が無限位あるようにも出来る。そしてReady Player Meなど、クロスプラットフォームで同じ服装を着たアバターが色んな体験やゲームを体験できるのは、まさにメタバース的な構想でもある。
しかもこのReady Player Meアバターがデジタルだけではなく、フィジカルな世界にも出現できるようになる。実際にRTFKTはSnapchatのARメガネのSpectaclesでこれを検証し始めている。
メタバースはデジタルだけではなく、フィジカルな世界とも繋がるものになると考えると、過去のOff Topicでも話したSnapchatなどが描く世界の「ミラーワールド」、いわゆるフィジカル世界にARレイヤーが入ると考えると、RTFKTみたいなデジタルファッションをARメガネやARコンタクトレンズなどで見れるような時代が来る。正直、NFT化されたデジタルファッションは恐らくフィジカルなファッション業界以上の市場になり得ると思う。
RTFKTはデジタルファッションだけでもかなりリードを取っているが、最近ではNFTアバタープロジェクトも行っている。ちょっとずつ情報を公開しているが、今年中にアニメ要素が強いNFTアバタープロジェクト(プロジェクト名はAKIRA)をローンチする予定。2万体のアバターを公開予定で、いくつか特徴をRTFKTがリークしてくれている。
アニメが大好きなRTFKTメンバーは最初から3Dモデルとしてアバターを作っているのは、メタバースを初期から意識しているから。しかも顔だけではなく、体まで作っているかもしれない。。。
RTFKTチームと話すたびに驚き、そしてしっかり相互運用性のあるメタバースを意識してサービス設計をしていることが分かる。
多くのメタバース体験はFortniteやRobloxなどゲームから来ると言われている中、今多くのゲーム会社はNFTをどう自社のゲームに取り組むかを考えている。新しいゲームを作る際に組み込むことを考えているゲーム会社がほとんどだと思うが、個人的な予想としては恐らくEpic Gamesは今年か来年にはFortnite上で全てのスキンをNFT化させて、他のゲームでも使えるようにするのではないかと思っている。明らかにFortniteのこれからのフォーカスはボトムアップの世界作りを可能とするクリエイターモードを強化することなので、その際にアセットを全てNFT化させることによってTim Sweeneyさんが語るオープン・メタバースに近づく気がする。
個人的にはFortniteはゲーム会社でもありながら、トップティアなアパレル企業でもあると思っている。Fortniteは2018年から2019年にかけて$9B分の売上を達成したが、そのほとんどが恐らくデジタルスキンから来ている。デジタルスキンは自分のアバターの自己表現に使うものなので、デジタルファッションと見てもおかしくない。それを考えると、毎年$3B〜$5BのデジタルアパレルをFortniteは既に売っているので、Pradaと同じレベルの売上、D&GやBottega Venetaを超えるブランドとして見た方が良い。
それを考えると、Fortniteがファッション企業として拡大するためにはそのスキンを他の場所でも使えるようにすること。そうするとFortnite上で作られたスキンの価値も上がり、Fortniteで作ると色んなゲームでも使えるのでスキンを作る人も増える可能性がある。
デジタルファッション x NFT x メタバースの時代を楽しみにしている。
NFTにとってポップカルチャーの重要性
NFTが普及するには、メインストリーム化しなければいけない。運よくアメリカでは昔からコレクタブル市場が熱く、直近ではRobinhoodやPublicなど投資の民主化するサービスやOtisなどカルチャーアセットの投資が可能になってから圧倒的にアメリカでは投資家になっている人たちが増えている。今年の初めに起こったWallStreetBets現象含め、カルチャーのファイナンス化が行われていると言われている。このトレンドにNFTはうまく乗れている。実際に過去の新しいテクノロジーを見ても、アメリカ内での普及率のスピードが上がっているのが分かる。
NFTは新しいテクノロジーなので、普及するにはNFTについて教育させるユースケースだけではなく、ポップカルチャーが受け入れなければいけない。オープンメタバースやデジタルアセットが成長するにはヒップホップやエンタメ業界がこのトレンドにどれだけ乗ってくれるかが重要と言ったが、それは間違いではないと思う。私含めて、多くの人(ある調査によると78%)の最初に購入したNFTはバスケハイライトをNFT化するNBA Top Shotから。
直近ではサッカー選手のNFTトレーディングカードを提供するSorareがスペイン国内リーグと提携し、全選手のデジタルカードを発行することが決まった。さらにPSG、FC Barcelona、Manchester Unitedなどトップサッカーチームはファントークンなども提供している。スポーツは世界的に大きなカルチャーなので、NFTを受け入れるとファンも付いてくる可能性が高まる。実際に人気NBA選手のStephen CurryのTwitterプロフィールを見ても、Bored Apeになっている。
ポップカルチャーだけではなく、NFT業界に入り込もうとしている会社も増えているのが、今後の普及につながる。過去のbytesでも話しましたが、8月にVisaがCryptoPunkを$150Kで購入した。
Visaが購入したのはVisaにとっても、CryptoPunksにとっても、クリプトコミュニティにとっても良い結果を生み出した。クリプトコミュニティとCryptoPunksからすると、Visaみたいな大企業がNFTが次に来るテクノロジーとして認めた証でもあった。実際にVisaがCryptoPunkを購入した1時間以内には90体、$20M分のCryptoPunk取引があり、今最も安いCryptoPunkは$278Kでリストされている。
そしてVisaからすると、$150Kで払ったCryptoPunkが最低でも$270Kになったので、もし今売った場合は設けられる。これがかなり重要なポイントだと思っている。もちろんVisaがクリプトコミュニティから受け入れられることや、企業としては早めにCryptoPunkを購入したので話題作りとして良かったが、もっとすごいのはマーケティング費用の考え方。今まではVisaがマーケティングをコストセンターとして扱っていた。$150Kをマーケティングキャンペーンで使った場合、そのお金は二度と戻ってこない。その考え方を根本的に変えられるのがNFT。NFTを購入すると、もちろん値段が変わったりするが、それは費用として扱うのではなく、アセットとして扱うことが可能になる。B/S上ではアセットとして記載するべきで、それをライセンスしたり、二次流通市場に流すことも可能。
コストセンターをマネタイズする・利益化して成長したのはAmazon。2005年のP/Lを見ても、コストとなっているものを事業化しているのが分かる。
今ではAmazonは配送コストも利益センターに変えている。それがNFTを活用して企業はもしかしたらマーケティングも同じことが出来るかもしれない。
最近色んな形でブランドがNFTを検証している。マーベルみたいにIPをNFT化するケースもあれば、コカ・コーラみたいにNFTをオークションで販売する会社もあれば、Arizona Iced TeaみたいにBored Apeを購入してBored Apeコミックを作る事例も出てきている。
まだまだ検証段階ではあるものの、既にポップカルチャー内のセレブや大企業がNFTを使い始めているため、少しずつ普及し始めるのではないかと思う。
NFTに関するアドバイス
今まで話した内容は色んな成功事例をまとめているが、もちろんアート業界やスタートアップ業界と同じく、多くのNFTプロジェクトは金銭的に失敗しています。この業界に少し足を入れてすぐに儲けられると思うと大火傷する可能性が高い(それは大体どの業界でもそう)。まずは大金を払って大きなNFTを購入するのではなく、NFTを購入してみたり、mlootを鋳造してみたり、売ってみたりするところから始めるべきだと思います。その際にはOpenSeaが書いたNFTに関するブログを読むと、大体NFT関連に付いて分かると思います。
NFTの概要が分かった後にオススメするのは良いNFTコミュニティに参加すること。個人的にオススメするのはCryptoPunksのDiscordサーバーとArt BlocksのDiscordサーバー。コミュニティのやりとりを見ると、プライシングの話だけではなく、業界についての話し合いが活発。そういうコミュニティから誰を信頼するべきかを知ったり、どういうプロジェクトが期待されているのかヒントをもらえるかもしれない。
もしNFTアバターなどを購入するのであれば、2体購入することをオススメします。私もこの間違いを初期やりましたが、1体だけ購入すると、売ることが出来ない(売るとコミュニティへのアクセスを失う)。
まずは投資ではなく、お金を失っても問題ないレベルで、おもちゃだと思いながら業界に入るのが良いと思います。
結論
インターネットも、どんな新しいテクノロジーも最初はおもちゃのように見られた。だからこそNFTに付いて考える際はChris Dixonさんの名言「次の大きなモノはおもちゃに最初は見える」を常に頭の隅に入れておくべき。
今はちょうどWeb3やNFTのユースケースが出始めたタイミングでもあるが、ここに早めに投資できるかが今後勝負になる気がする。初期インターネットも最初は会社としてはPR効果でしかなかったが、それが徐々に変わってきた。インターネット業界は最初のシンプルなサイトやコミュニケーションサービスしかなかったのがTikTok、Airbnb、Uber、Stripe、Amazon、Epic Gamesととんでもない進化を成し遂げた。これがNFT・Web3業界でも起こるはず。
NFTはC向けのユースケースから始まるが、ブロックチェーンはどのデジタルサービスにも組み込まれる時代になる。既に採用や配車マーケットプレイスをブロックチェーン化しているサービスも出てきたり、サプライチェーンをブロックチェーン化する動きも出ている。
もちろんガスコストの問題やエネルギー問題の課題は実在する。それもSolanaや色んな会社が課題解決している。そして今は今年だけで2回目のNFTバブルでもあるので、色んなプロジェクトに異様な需要が集まっている。ただ、明らかなのは毎年頭の良い人たちがこの業界にどんどん入っていっていること。Off Topicとしても元々あまりこの領域を見てなかったものの、今年からはシリコンバレーの動きを見ると、この領域を見なければいけない状況にもなった。個人的にこの業界を勉強し始めて気づいたのは、とんでもないスピードで進化していること。常にアンテナを張っていないと次の大きなトレンドが見えなくなるぐらいのペース。
どの会社もインターネットが普及してきてからオンライン戦略に付いて検討したのと同じように、今の会社はどうブロックチェーン化するかを考え出すタイミングが来る。今までのWeb 2.0のクローズドでクリエイター重視ではない時代をNFTやブロックチェーンが明らかに変えてくれる。こんな既存の会社を潰せるかもしれない技術が出てきているのはスタートアップや会社からするとチャンスでしかない。今立ち上がっているNFT・トークン・ブロックチェーン系の会社はもしかしたら次のパラダイムシフトをリードしてくれる会社かもしれない。今後もこの領域にアンテナを貼りながら、進化を見届けたいと思います!
Written by Tetsuro Miyatake (@tmiyatake1)