【独自】次世代SNS「Dispo」の創業者インタビュー、完璧な世界から抜け出して今を楽しもう
今話題のDispo創業者でトップYouTuberのデビッド・ドブリックさんとCEOのダニエル・リスさんにZoom取材を行いました。
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はじめに
2月12日あたりからシリコンバレーやアメリカのテック業界でバズり始めた次世代写真SNSアプリ「Dispo(ディスポ)」のベータ版だが、2月14日に日本からの興味度合いが高すぎてTestflightの利用可能人数の上限の1万人を超えてしまった。
今回は、Off Topicの宮武がDispoのCEOであるダニエル・リス氏とChief Fun Officerのデビッド・ドブリック氏と直接Zoom上で話して、Dispoの創業物語、サービスが描いているカルチャー、そして日本に対しての思いについてお伺いした。
Testflight版ではアプリのスクリーンショットの共有をしないようにユーザーにお願いしているが、今回は特別に許可を得てスクリーンショットを共有しています。
デビッド・ドブリックとは何者か?
Dispoを理解するにはまず人気YouTuberでDispo創業者のデビッド・ドブリックさんを理解しなければいけない。元々Vineで人気になり、上手くYouTubeに移行し、Vlog形式で現代版のシットコムを作った。彼のメインチャネルだけで1,880万人の登録者がいるが、コロナの影響で2020年4月25日以来、YouTubeで投稿していない。デビッドさんの動画スタイルは外に行って友達の人生を見せることでもあるので、コロナ期間中は動画を出せないと発表した。
ただ、彼の魅力はYouTube動画制作だけではない。Off Topicでも度々「クリエイターが次世代ブランドである」と発言しているが、デイビッドさんはこの仮説の理想的事例である。YouTube動画以外に、デイビッドさんはInstagram、TikTok、Twitch、ポッドキャストなどのSNS以外にも、グッズ販売、テレビ番組の司会者、香水ブランドの立ち上げ、パズル商品の開発、ピザ屋、そしてアプリ開発の展開をした、マルチビジネスを持っているクリエイター。
そんな中、デビッドさんは2019年6月から使い捨てカメラだけで写真を撮るInstagramアカウントを立ち上げました。
この使い捨てカメラを使う理由は後ほどDispoのアプリ展開に繋がるストーリーだとデイビッドさんは語る。
LAのパーティーで使った使い捨てカメラ、「この瞬間を楽しむこと」の重要性
コロナ前にLAの友達のパーティーに良く参加していたデイビッドさん(Vlog撮影のため)は、ある行動が良く行われていることに気づいた。それは、パーティーの途中にInstagram好きの女の子たちが50個ぐらいの使い捨てカメラを持って、「写真をとりあえずたくさん撮って!、明日の朝に集客しに行くね。」とパーティー参加者に伝えてた。みんな飲んでワイワイして、翌日の朝に女性たちが色んな場所に置いてある使い捨てカメラを回収して、その写真を参加者全員に送る流れがあった。
デイビッドさんはこの話をしているときに、特に強調したのはパーティー中の使い捨てカメラの使われ方。元々はスマホのカメラだとどのフィルターを使うか、ライティングの調整、顔の角度などを気にする人たちが、使い捨てカメラだと確認できないので撮ってすぐにみんながワイワイしている現場に戻ってくること。これは、彼がいう「Living in the moment(この瞬間を生きる)」が本当に実現された瞬間だった。今友達や楽しむ時間を満足できるのはすぐに映えた写真を取れるスマホではなく、使い捨てカメラなんだと気づいた。
同時に、映画『ハングオーバー!』のエンディングで主人公たちが一つのデジタルカメラの周りに集まって、その日の夜の写真を一緒に振り返るシーンがデイビッドさんの頭に残っていて、その結果がこの非同期の写真の現像コンセプトが生まれたと言う。
デイビッドさんは仮説として写真を撮った瞬間その写真を見て「Instant gratification(瞬間的な満足)」よりも「Delayed gratification(待ってからのお楽しみ)」の方が強い感情を抱けるのかと考えた。そして「今」を失わない、邪魔しないのが大事と話した。そこで生まれたのがアプリの「Dispo」。
「Dispo Beta」リリースまでの道のりとチーム体制
2019年末にリリースした「David’s Disposables(後にDispo)」はソーシャルアプリではなく、使い捨てカメラアプリだった。UIとしては使い捨てカメラと同じで、小さいカメラレンズ、常に付くフラッシュ、そして自撮りをするための正面カメラの設定が使えないようになっている。アプリの特定のフィルターしか使えず、写真は使い捨てカメラっぽく少しレトロで色合いが荒くなる設定になっている。さらに使い捨てカメラと同じく、その瞬間では写真を見れず、その次の日の朝9時に写真が出来上がるのを待たなければいけない仕組みとなっている。
ローンチしてから既に260万回ダウンロードされたアプリだったが、デイビッドさんはアプリを進化させたく、アプリをSNS化させられるチームと資金調達を行うことを決めた。
2020年10月初旬に新しい体制と$4Mの資金調達をWall Street Journalなどで発表した。デイビッドさんと彼のアシスタントのナタリー・マリドゥエナさん含めて6名体制のチームは、元VCファンドを立ち上げFabFitFunのCo-CEOのコンサルを行っていたDispo CEOのダニエル・リスさん、写真編集ツールのAdobe Lightroomの作ったデザイナーの一人であるブリアナ・ホカンソンさん(通称:Bhokaさん)元Twitterの機械学習エンジニアのレジーナルド・オーガスティンさん、そして動画系のスタートアップで経験があるiOSエンジニアのマローン・ヘッジズさんとなる。デイビッドさんは「Chief Fun Officer」として加わり、アシスタントのナタリーさんは「Treasurer」の役割。
チームの写真もDispoらしく、少しレトロなイヤーブックっぽい写真にした。
後ほどショート動画SNSプラットフォームのByteの創業デザイナーであるマイケルさんもジョイン。
このDispoの$4Mの資金調達を元Reddit創業者で現在Seven Seven Sixファンドを運営しているアレクシス・オハニアンさんがリードした。その出資額を活用して既存のDispoアプリにソーシャル機能を追加した結果、今回の「Dispo Beta」が誕生した。
そのため、今Appleのアプリストアを見ますと、「Dispo」と言うアプリは存在しますが、こちらはソーシャル機能が含まれていない、過去のカメラアプリとなります。今回シリコンバレーや日本で話題になったのはベータ版を簡単にユーザーに試してもらえる招待制の「Dispo Beta」と言うアプリとなります。
Dispo Betaの使い方
アプリを開くと元バージョンと同じくカメラ機能の画面に辿り着く。Dispo Betaではアプリ外で撮った写真以外をアップロードすることは出来なく、Dispo Betaカメラのみの写真がプラットフォーム内使うことができる。
写真を撮ると、Dispoのオリジナルアプリと同じく、次の日の朝9時まで待たなければいけない。
ユーザーのプロフィールに行くと、以下のような画面となる。ここで重要なのは、写真を単体ではなく、Roll(アルバム)で表示していること。Dispoのダニエルさんとデイビッドさんいわく、何かしらのテーマやイベントをRollとしてグルーピングして、そのテーマやイベントに参加している仲間たちを特定のRollに入れて、お互いRollに写真を追加する、共同アルバム機能がRollとなる。
実はこのRoll機能は他のメジャーなアメリカのSNSではなく、これがDispo Betaの最も象徴的な機能。Rollsを作った人がRollのモデレーターとなり、アルバムに参加している人や写真を取り除くことが可能。Public(公開)Rollの場合は参加しているメンバーは誰でも他の人にそのRollに参加する招待を送ることができる。Private Rollの場合はRollを作った本人のみがそれをできる。
RollはデイビッドさんがLAのパーティーや『ハングオーバー!』のエンディングをアプリで再現しようとしている機能。友達同士が一つのイベントに対して色んな角度や思い出を投稿し、それをみんな次の日の朝9時まで待って、同時に全ての写真を見ることが出来る。離れていても一緒の時間帯で写真を見るのは今までにない強い体験でもあり、当事者全員を同じ時間軸とタイムラインに合わせる役割を果たしている。全員で一斉に開くからこそ、ダニエルさんとデイビッドさんはこの瞬間を「クリスマスプレゼントを開ける時」と似ていると発言している。
Roll内にはさらにソーシャル機能が含まれている。それが「Scoreboard(スコアボード)」。スコアボードでは各Rollのスコアボードでは誰が最も写真をそのRoll内で撮ったのかが分かる。
そのほかのRollについての質問や招待枠についてのご質問はこちらのスレッドをご覧ください。
イースターエッグが隠されてる、楽しいUI/UX
このように、Dispoは「今、この瞬間を生きる」思いと「楽しく、良い人であること」を抱えながら「ある程度のスピードを持って開発する」のが三つの会社のモットーとなっている。
特に最初の二つは棒線が引いてある「Don’t be evil」と「Move fast and break things」はGoogleとFacebookのモットーであり、Dispoは今までの「硬い、魂の無い」大手企業とは真逆の楽しいUI/UXの設計を考えている。実際にDispoのアプリを見ると、色んな小さな評価されるUIやイースターエッグが隠されている。
まずはDispo Betaアプリを立ち上げた時のこのアニメーション。
さらに便利な機能は自分のプロフィール概要欄に「Twitter」や「Instagram」の後にユーザー名を入れるだけでDispo Betaが自動的にアカウントへリンクしてくれる。
さらに、まだ知られていない機能もある。上記写真の「🔥」はSnapchat内で連続で特定の友達とSnapを送り合う機能と似ているとダニエルさんは話すが、どう計算されているかは教えてくれなかった。全てのアイコンや機能が分からないのがアプリの面白さでもあると言う。
Off Topicとして一番気に入ったイースターエッグはアプリの設定画面に行くと、「Baby Animals」と言うタブがあり、それをタップすると癒される、かわいい動物の写真が待ち構えている。
ダニエルさんが言うには、まだ見つけられていない機能やイースターエッグは隠している。それを見つける楽しみも含めて、Dispo Betaは今までとは違う、若手層とあったポジティブなメッセージやサプライズを組み込んだアプリ設計をしている。
日本市場への思いとリスペクト
ダニエルさんとデイビッドさんに聞くと、アプリのデザインへのこだわりは日本を参考にしていると話す。デイビッドさんは元々富士フィルムのカメラを愛用しているのもあって、昔から日本が好きだという。オンボーディングで評判の高かったアニメーション自体も日本のものやデザインからインスピレーションを受けたとダニエルさんが語る。
日本に対してのリスペクトがあったものの、今回の日本からの需要はかなりびっくりしたと二人とも話していた。LA時間の朝1時から2時の間に大量の日本ユーザーが入ってきてビックリしたと語っている。ただ、それは非常に嬉しく、今後も日本のユーザーがどうアプリを使うか気にしている。日本は文化、デザイン、そしてSNSの力が強いと二人が認識しているため、日本ユーザーへの期待値は高いとのこと。
Off Topicからの感想
ダニエルさんは他社との比較はしたくないと語っていたが、個人的にはDispo Betaは今のZ世代とミレニアル世代にピッタリなサービスに見える。Instagram美学が求める理想的な世界からバーンアウトしているミレニアル世代に対して少し昔を思い浮かばせるような使い捨てカメラを提供することによって、より自分らしい表現の仕方、友達とのプライベートな時間(世の中からの評価を受けなくて良い)、そしてノスタルジアが組み込んだアプリとなる。逆にZ世代からすると「完璧な世界」を壊す動きがこれまでTikTokやYouTubeで行われている。TikTokだと変わった自分を表現してバズれるプラットフォームであり、YouTubeではスッピンでリアルな自分を見せるエマ・チェンバレンさんが流行っているのは、このトレンドを証明している。だからこそ、Off TopicではDispo Betaみたいなサービスは次世代版Instagramと呼んでも良いのかと感じる。
フェイク、ありえない映え、フォロワー集めではなく、友達や知り合いと一緒に何か一つの体験やイベントに没頭しながら、あとで一緒に思い出を振り返るアプリこそ今流のSNS。上手くプライベートとパブリックを組み合わせて、リアルな自分をポジティブな面で見せられる。Dispo Betaはまだ新しいアプリだからこそ色んなユースケースが生まれる。元々予想していた何かのイベントや家族ディナーでの写真をまとめたRollもあれば、学生同士が学校のプロジェクトのメモを集めるユースケースもある。ダニエルさんいわく、インターンの採用もDispo Betaで決まったらしい。
Dispo Betaはまだ課題はたくさんあり、これからどうスケールするか、どう進化するかは定かではない。ソーシャルグラフやディスカバリー機能もまだ改善できるポイントではあるし、同じフィルターがどこまで流行るのかは疑問点としてある。ただ、コロナ後でも十分伸びることができる、ミレニアル世代とZ世代にフィットするアプリなのは間違いない。大量のコンテンツをSNS上で見かける中、今この瞬間を楽しむことをプッシュするDispo Betaは特にZ世代の思いに響くはず。そして、何よりVine、YouTube、TikTok、Twitchなど数々のSNSプラットフォームを理解してZ世代のデビッド・ドブリック流のアプリである。過去2〜3年ぐらいZ世代の中で好きなオンラインのパーソナリティーの調査をすると、必ず1位になる人でもある。
Off Topicは、今後もどのようにDispo Betaが使われて、どう成長するかをウォッチしていきたいと思います。
最後に
ダニエルさん、デイビッドさん、本当にインタビューさせていただき、ありがとうございます。サービスが進化するのを楽しみにしています!
Fortune favors the brave.
Written by Tetsuro (@tmiyatake1) | Edited by Miki (@mikikusano)