Snapchatのポテンシャル力:ミラーワールドのインフラ作り
Snapの現状と実績、メッセージからのスーパーアプリ化、Bitmojiからのリーチ拡大とマネタイズオプションの増加、カメラからの新体験とミラーワールドの準備
はじめに
実はSnapchatはZ世代にとって欠かせないサービスで、TikTokやInstagram以上好かれているプラットフォーム(エンゲージメント時間だと2位)。今回は、日本ではあまり馴染みのないアプリ『Snapchat』がいかに面白いのか解説したいと思います。
日本ではSnapchat子会社のZenlyが使われているが、メインアプリのSnapchatの人気が中々上がらない。Snapchat CEOのエヴァン・スピーゲルもここ数年間日本に来日して調査をしている。そして、去年からSnapchatは日本展開をするために、カントリーマネジャーを探している。

そんなSnapchatが短期的にも長期的にも成長出来る戦略が徐々に明らかになっているので、Snapchatの可能性と何故個人的に期待しているスタートアップです。
今回の記事はOff TopicのYouTubeチャネルでSnapchatについて解説した動画の深堀記事となります。動画にご興味がある方は是非ご覧ください!
Snapの現状と実績
Snapの株価は最近上がってますが、数年前はサービスの人気度が落ちていると言われてました。IPO時から徐々に株価が落ちて、2018年末には株価が$4.99になった。その前の最高株価は2017年3月の$27.09だったので、そこから81%下がっている状況となっていた。

当時は広告収入の成長率が落ちていて、Instagramがストーリーズ機能をコピーしたタイミングだった。同時に、Snapchatは数名の経営メンバーが退任して、アプリのリデザインがかなり不評だった。株価が特に影響あったのは、セレブのカイリー・ジェンナーのツイート。
この一つのツイートで、Snapchatの時価総額が$1.3B下がった。
そんな低評価されてたSnapchatだが、多くの投資家が見てなかったのは、SnapchatのSNS業界でのポジショニングとどれだけ若手層に使われていたのか。
Snapchatのポジショニング
過去のnoteでも少し解説しましたが、Snap CEOのエヴァン・スピーゲル氏は面白い視点でSNSについて思っている。ミュンヘンで開催されたDigital Life Design 2020イベントでスピーゲル氏はSnap、Instagram、TikTokを一つのピラミッドでポジショニングの違いを説明した。
このピラミッドの下層、一番肝となるのは日々起きる友達同士の「コミュニケーション・自己表現」。スピーゲル氏はここにSnapが入っていると主張している。Snapは友達間での心地良いやりとりを可能としているプラットフォーム。
各レイヤーの違いについて知りたい方はこちらのnoteを、もしくはエヴァン氏の解説を聞いてください。
Snapchatとして重要なポイントは、この「コミュニケーションレイヤー」はTikTokやInstagramと比較して、一切バイラル要素が必要ないこと。TikTokは誰でも簡単にバイラルになれるプラットフォームとは対照的に、Snapchatのメイン機能(メッセンジャー)はバイラル化したくない。本当に親しい友達との間だけのコミュニケーションレイヤーとなりたがっている。
Snapchatが若手層から人気な理由は、圧倒的に信頼できる人たちとのプライベートなコミュニケーションができるプラットフォームとしてポジショニングしているから。今のZ世代は大体10歳ぐらいから自分のパーソナルブランドを気に出す。色んなSNSがある中、各プラットフォームに合わせた性格や見せ方を考えている。Instagramの見せ方、YouTubeの見せ方、TikTokの見せ方、Twitterの見せ方。それぞれのコミュニティに対してどう自分を表現するかをしっかり考えている。
上記図のように、Snapchatは一番気軽に投稿できるプラットフォーム。友達だけに見せるものだと、そんなに完璧な自分やかっこいい動画を撮らなくても良いと思う方が多い。過去のnoteで説明したZ世代が求める「domestic cozy」、いわゆる居心地の良さは、Snapchatが最も解決している(友達がいる安全なスペースを提供している)。
そういう理由もあって、アメリカではどのプラットフォームよりもSnapchatは圧倒的に若手層からの支持率が高い。
Snapchatの実績
2020年10月のSnapchatの投資家向けプレゼンを見ると、DAU(Daily Active User)数は2.49億人となり、アメリカでは13歳〜24歳層の90%はSnapchatを使っている状況。若干年齢レンジは違うが、Instagramだと13歳〜17歳層の72%しか使っていない。
気軽に使えるSnapは、どのプラットフォームよりもコンテンツ制作が多いかもしれない。毎日40億Snapが作られている。これはInstagramの投稿数の40倍の数字となる。
Snapchatはエンゲージメント、コンテンツ制作を増やすために色んな試作を考えている。コンテンツフォーマットだとストーリーズ、コンテンツのおもしろさを増すためにARレンズやステッカーなど、そして中毒性を作るためにSnap Streaks。
Snap StreaksとはSnapchat上で友達と3日間以上連続で、24時間以内にSnapを交換すると 🔥 マークとその横に連続でSnap交換日数が表示されるようになる。

上記例だと、1,401日間連続でSnapを交換していることとなる。この数字が上がると、皆さんSnapを送り続けなければいけないプレッシャーを感じるそうです。実際にアメリカの大学生などにヒアリングをすると、StreaksのおかげでSnapchatの利用時間と愛着が上がったと言う人もいた。
チャットやSnap以外にもゲームやMiniなどを使ってエンゲージメントを高めている結果、Snapchatユーザーは平均1日30回Snapchatアプリを起動させている。
それぞれのSnap投稿がバイラルにならないため、TikTok、Instagram、Twitter、YouTubeみたいにコンテンツがバズってみんながプラットフォームの威力を感じることがない。そして多くの投資家はSnapchatを使う層ではないため、どれだけ若手層の中では重要なインフラになっているかを理解していない。
そんな若手層向けのメッセージや友達とのやりとりのインフラとなったSnapchatは、それ以外のサービスを提供し出した。短期的な拡大と長期的な拡大で分けて後ほど説明しますが、その前に、Snapchatが成長するためにとっている戦略を紹介したいと思います。それはSnapchatのM&A戦略です。
買収から機能追加する戦略
各テック企業はそれぞれのM&A戦略がある中、Snapchatはかなりフォーカスした戦略に見える。2014年から2017年のタイムラインを見るだけでも、15社程買収しているのがわかる。
2017年だけでも$352.4MほどM&Aで使っている(2016年の5倍の金額)。その後も少なくとも5社ほど買収している。

SnapchatのM&A戦略は自社アプリをサポート、エンゲージメントを増やすための機能追加するための買収が多い。過去の買収履歴を見ても、それが明らか:
上記以外にも、過去の買収したPlacedやMetamarketsはSnapchatの広告事業の機能として活用されている。これはFacebookが急成長しているサービスを買収しいるサービスと違って、よりAppleっぽい買収戦略にも見える。エヴァン・スピーゲルがスティーブ・ジョブズを尊敬しているので、似たような戦略を活用してもおかしくない。ただ、大型買収をしていないのに(他社だと1,000億円以上の買収事例が多々ある)、Snapchatの買収案件は今では欠かせない機能やサービスになっている。
Snapchatの機能が徐々に増えているのは、この買収戦略が鍵となっている。
Snapchatは常に色んなサイズのスタートアップと買収検討するために会っている。そのためにアクセラレーターを作ったとも思われているが、ほとんどのケースは初期MTGから進まない。Business Insiderによると、Snapchatは過去にドローンメーカーのSkydioやZero Zero Roboticsと話たと報道している。
今現在だとZenly、Looksery、AIFactoryなどの買収がエンゲージメントを高めていて、将来的にはBitstripsやVergence Labsの買収が会社の方向性として重要なものとなると思われる。
そんなSnapchatが買収した会社や、それ以外の機能・サービスを使ってどう短期的に成長できるかを解説します。
短期的な拡大
多くのSNSと似ていて、Snapchatの主な収入源は広告からきている。後にソーシャルコマースやその他のマネタイズオプションについては話すが、短期的にはこの広告収入を増やすのが会社としての目的となる。過去5年間の売上と一人当たりの平均売上金額(ARPU):
2020年の9月末時点では$1.595Bの売上を達成しているので、2019年とはまた少なくとも30%ほど成長すると思われる。
Snapchatが今後売上をあげていくためには、DAUとARPUを伸ばさなければいけない。DAUとARPUを比較すると、FacebookやTwitterには全然届いていない分、まだ成長できるチャンスがあるとも読める。
DAUはアメリカのZ世代とミレニアル世代をキープしながら、次の世代(アルファ世代)にアピール出来れば、徐々に市場を勝ち取れる。短期的には海外展開が鍵となっている。Snapchatは特にインドに注力していて、DAUの成長率が100%と好調に伸びていると発表している。
ARPUを短期的に伸ばすには、Snapchatとしてはエンゲージメントを伸ばさなければいけない。エンゲージメントを伸ばすには、過去に買収したZenly、Looksery、AIFactoryなどが重要になってくる。Snapchatは2020年10月の投資家向けプレゼンでは5つの機能でエンゲージメントを伸ばすと語っている。
いくつか長期戦略にも含まれる要素があるので、このセクションではDiscover、Map、そして2020年11月にリリースしたSpotlightの可能性について説明します。
Snap DiscoverとOriginals
Snapchatはコミュニケーション機能以外に、かなりコンテンツ提供に注力している。実際に、多くのSnapchatユーザーはアプリ内でニュース、スポーツ、そしてSnapchatのオリジナルコンテンツを見ている。
ニュースではWashington Post、Reuters、Bloomberg、NBC News、NowThis、Buzzfeedなどと提携してショートフォーム動画、テキスト、画像などを使ってニュースを提供していて、スポーツだとESPNなどと提携してハイライトを見れるようにしている。Snapchatのニュースサービスは1.25億人が使ったと言われている。
そして、SnapchatはNetflixと似たようなオリジナルコンテンツを作っている。
毎月5,000万人ほどがSnapchatのオリジナルコンテンツを見ていて、Z世代では70%が見たと会社が発表している。
2020年6月のSnap Partner Summitでは4つの新しいドキュメンタリーシリーズを発表したが、Z世代を理解しているのをそこでも上手く表現した。黒人のカウボーイ、ストリートファイター、トランスジェンダーな美容師、そして二人のゲイで黒人の友達についてのシリーズを発表したが、トピックやバリューはZ世代にピッタリのもの。
過去には人気なSnapchatオリジナルはDead of Night(1,500万人の視聴者)、Nikita Unfiltered(2,200万人の視聴者)、そしてWill From Home(3,500万人の視聴者)となる。
Snap Map / Zenly
Snapは二つのマップ機能を持っている。一つは自社アプリ内にあるマップ機能のSnap Mapと、別アプリのZenly。機能自体は似ていて、Snap Mapの多くはZenlyの技術で作られている。Snap Mapは2億人の月次利用者がいて、最近ではマップ上で友達のリアルタイムの場所だけではなく、場所の情報、予約、注文などもできるようになっている。
最近Snapchatはイベント機能をアプリに入れるための特許を申請した。Snap Mapで集まる人たちのBitmojiアバターが出るようになるので、さらにソーシャルな体験やエンゲージメントを向上させる試作を考えている。
Snap Map以外に、SnapchatはZenlyも持っている。似たようなサービスを運用する理由としては、Zenlyだけのサービスを使うユーザーがSnapchatのリーチがまだ少ないところで人気になっているから。Snapchatとしては、Zenlyを活用して将来的にSnapchatへ移行させる戦略を考えているかもしれない。
Zenlyとしても、Snapchat配下にいるからこそマネタイズのことを考えなくても良く、ただ良いサービスをユーザーに提供することにフォーカスできる。
今はSnap MapとZenlyはどちらとも広告を表示していないが、将来的にその方向性にすすんでもおかしくないし、そこには大きなビジネスチャンスがある。Morgan StanleyのアナリストはGoogle Mapsからの広告売上が$4.86Bと予想していて、2023年までには$11Bの売上を突破すると語っている。今Snap Map利用者数はGoogle Mapsの5分の1なので、Snap Mapだけで$1B弱の売上を作れることとなる。2019年の売上が$1.7Bだったので、一気に50%以上売上が上がることとなる。
直近のWall Street Journal記事ではJefferiesのアナリストのブレント・チルが2023年までにはSnap Mapの広告収入は$1.5Bぐらいになると予想していた。
Zenlyは日本、台湾、ロシアなどで急成長している。日本だと高校生が使うのが多くなっていて、特にカップルがお互いの居場所を知るために使われていると言われている。そして、何よりアメリカ企業としてはほぼ必ずブロックされる中国にも展開できている。中国ではZenlyは150万ダウンロードを達成している。
友達同士であれば自分のリアルタイム情報の発信、友達と集まる場所の指定、そしてそこから広告やアフィリエイトでマネタイズする大きなビジネスチャンスがある。Snapchatとしてはさらにアメリカ以外の展開のためのツールとして活用できるので、短期的にフォーカスしているビジネスなはず。
Spotlight
2018年ぐらいから急成長し始めたTikTokだが、2020年にはZ世代以外の層も使い始めて、メインストリームのSNSとなった。ユーザー数が増えた一部の理由はTikTokが多大なる広告予算を持っていたからもある。2018年から2019年にかけて、1日$3Mをユーザー獲得とPRに使ったと言われている。2018年ではGoogle広告で$300M、インドだけで毎月$10M使っていた。2019年Q1ではFacebookのアンドロイド版アプリでは見られた13%の広告はTikTokだった。ピークは2018年9月で、Facebook配下のプラットフォームでアメリカで見られた広告の22%はTikTok関連だった。

Z世代が初期ターゲットだったTikTokはSnapにも広告を出していた。一時期TikTokのアメリカ広告予算の8割がSnapchatに寄せられていたとMarketing Diveが報道した。2019年ではSnapchatの広告売上の4.4%はTikTokからだった。
2019年時点ではエヴァン・スピーゲルはTikTokが競合サービスではなく、共存サービスになると感じてて、今も恐らく一部はそう思っているはず。ただ、彼もMark Zuckerburgも明らかにアテンションエコノミーがTikTokへシフトしているのを感じているからこそ、2020年にお互いTikTokの競合サービスをローンチした。2020年8月にはFacebookはInstagramを通してReelsをローンチ、Snapchatは2020年11月にSpotlightをローンチした。
サービス自体はTikTokと似ていて、フィードでショート動画が流れるようになっている。Instagramとは違ってSnapchatはフォロワーの概念があまりないため、よりTikTokらしいFYPアルゴリズムを作れそうだが、まだまだアルゴリズムが弱い。そしてまだバグも多いのと、どういうコンテンツがバズるかがあまり明確ではない。TikTokのアルゴリズム、歴史、そして何故これだけ人気になっているかを気にしている人は、こちらのnoteをご覧ください。
2020年の夏ぐらいからSnapchatの新機能のリリースは明らかにSpotlightの開発のためのものだった。一番印象的だったのが2020年10月に発表したSnapに音楽を追加できる機能。TikTokは音声ベースのSNSでもあるので、そこの技術を強化する必要がSnapchatとしてはあった。
そしてSnapchatはTikTokと似たように、お金を使ってユーザーを獲得しようとしている。ローンチ時に毎日$1M(約1億円)をトップクリエイターに渡すと発表したが、本当に実行している。それに色んなクリエイターが乗っかってかなり儲かっている人が出ている。中では19歳のTikTokクリエイターが4週間で$3Mほど儲かった実績もある。


TikTokもクリエイター向けに$2Bほど支払いをするTikTok Creator Fundを作ったり、Facebookもクリエイターを獲得するために資金を提供している。TikTok競合のTrillerも家やロールズ・ロイスなど高級車をリースしてプラットフォームへコンテンツ制作してもらうようにしている。中でも一番クリエイターに支払いをしているのはYouTubeで、The Vergeいわく毎年約$8.5Bほどのコンテンツ獲得コストを払っている。
SpotlightはTikTokから奪われる利用時間をSnapchatが守るため・伸ばすためにローンチした。多くのTikTokユーザーはTikTokを見始めると1時間があっという間に飛んでしまった体験をしているが、SnapchatはSpotlightで同じような体験を提供しようとしている。
多くのZ世代を抱えていて、コミュニケーションレイヤーやどういう番組を見ているのをわかっているSnapchatとしては、Z世代の興味グラフを作れるため、TikTokの競合に最もなり得るかもしれない。ただ、アルゴリズムがまだまだ弱いのと、まだSpotlight特有のコンテンツやクリエイティブツールが足りていないため、TikTokとは対等に戦えない状況。ただ、個人的にはアメリカ内では長期的にTikTokの最も手強い相手になれるのはSnapchatだと思っている。
Snapchatが作ろうとしている世界
短期的にはDiscover、Map、そしてSpotlightなどを通してDAUとARPUを向上させようとしているが、Snapchatの素晴らしいところはそれ以上の世界観と長期戦略を持っていること。今Snapchatが提供している機能は次の3年から10年後の未来の準備のためのものにもなっている。
そんな次のバージョンのSnapchatで特に気になる機能とビジョンは以下となる。
メッセージからのスーパーアプリ化
多くのZ世代を抱えるSnapchatはメッセージのインフラレイヤーとして信頼を得ているため、中国のWeChatと同じくアプリケーションをインフラの上に置けるようになる。去年の夏に発表したSnap MiniはまさにWeChatを意識した、Snapchatをスーパーアプリ化する展開を目指している。
BitmojiとSnap Kitからのリーチ拡大
SnapchatはBitmojiとSnap Kitを活用して、Facebookとは違う戦略を取ったのが成長のきっかけと感じている。他のアプリへSnapchatの一部を展開させることによって、Snapchatのリーチを拡大するとともに、次のデジタル社会へ繋がるアバター技術を発展させている。
カメラからのミラーワールド
SnapchatはSNS企業ではなく、カメラカンパニーと名乗っているのは、カメラから作られる世界を考えているから。AR技術を活用してソーシャルコマース化、新しい体験を試す場所、そして3Dデジタルマップを作るのが目的である。これがSnapchatのメタバースへ重要プレーヤーとなる鍵であり、Snapchatが描くミラーワールドとなる。
以下一つずつの戦略を解説します。
メッセージからのスーパーアプリ化
コミュニケーションレイヤーを取れているSnapchatは非常に強いポジションにいる。毎日さまざまなトピックについてSnapchat上で話すユーザーに対して色んなアップせるする機会がある。これはWeChatやLineを見ると分かりやすく、Snapchatは他のUSアプリと比べてスーパーアプリ化しやすい。
WeChatの事例と同じように、ベースとしてコミュニケーションがあって、そこから人と繋がる機能、サービス(ゲーム、旅行、教育、医療、エンタメなど)、組織化、そしてデバイスソリューションを提供できるようになる。
WeChatはスーパーアプリ化するために、自社アプリの開発だけではなく、第三者がWeChat上でアプリ開発できるMini Programを提供している。ここではWeChatのトラフィックにアクセスしてECサービス、ミニゲーム、ライフスタイル(ホテルやタクシー予約など)などを提供し始めている。

WalktheChatの調査によると、2019年6月時点のWeChatのMini Programの月間アクティブユーザー数は7.46億人を突破していて、2018年6月から50%以上成長している。2020年ではDAUが4億人を超えると言われた。そして一人当たり使うMini Program数も25%増えて、そこでの取引額も67%増えたと言われている。1億人がショッピングモールやデパート系のMini Program経由で何かを購入して、野菜やフルーツの買い物をMini Programで行ったユーザーは3億人以上いたと報道されている。

Snapchatはまず自社のアプリ(Snap Map、ARレンズなど)を作ってから、第三者にも開発できる流れを作ってスーパーアプリ化しようとしている。一つのプラットフォームで何もできるようになると、そこでの広告収益が増えると同時に、色んなマネタイズオプションが増える。アメリカではFacebookやUberがスーパーアプリ化をしようとしているが、Snapchatほど若手層、そしてインフラのレイヤーを持っている会社はアメリカにいないかもしれないため、Snapchatが発表したSnap Miniは非常に魅力的に見える。
上記動画でも見れるように、Snapchatは色んな会社・サービスと連携して、そのアプリをダウンロードしなくても、Snapchat上でサービス利用が可能になる。Headspaceでの連携を見ても、どれだけ簡単に使えるかがわかる。
まずはSnapchatのメッセージでMiniボタンを押して、HeadspaceのMiniを選ぶ。
そしてHeadspaceの場合だとアプリを開くと6つの瞑想エクササイズが出来る。しかも聴きながら友達とカメラかメッセージで共有出来る。
Snap Miniへの展開ときっかけになったのはSnapchat内で友達と遊べるゲーム。これはSnap Miniと同じく、ゲームのアプリインストールが必要なく、チャット内で友達と遊べるゲームをSnapと第三者が開発している。
2019年にローンチしたSnap Gamesは1年間で1億人以上のSnapchatユーザーが利用された。中でもSnap社が開発したBitmoji Partyでは、1ユーザーが毎日平均20分遊んでいる。友達同士で繋がっているからこそ、自然とSnapchatはソーシャルなゲームをオススメできる。
そんなSnap GamesやMiniの成長を加速させて、Snapchatで欠かせないインフラがアバターサービスのBitmoji。
Bitmojiからのリーチ拡大とマネタイズオプションの増加
BitmojiはSnapchatのデジタルアバター。別アプリとしても存在するが、主にSnapchatで使われるケースが多い。
上記動画のように、Bitmojiのアバターをカスタマイズすると、そのBitmojiキャラクターを自分特有のステッカーを作れたり、Snap Mapを活用するときに自分の写真ではなくBitmojiキャラクターで場所を表示することが可能になる。
SnapchatはこのBitmojiを活用して、二つの戦略を実行しようとしている。一つはFacebookへの対抗戦略、そして二つ目は次のインターネットと言われているメタバースのインフラ作り。
1) 他のプラットフォームへのリーチの拡大とデータ取得
2) デジタルアイデンティティーのインフラとなる
他のプラットフォームへのリーチの拡大とデータ取得
SnapchatはStories機能を出して最初は大ヒットしていたが、Instagramにコピーされて、成長に一時期伸び悩んだ。そしてその後にFacebookとWhatsAppにも真似されて、今ではStories含め、どのSNSでも同じ機能を提供している。

Facebookファミリー(Facebook、Instagram、Whatsapp)が圧倒的な強さを見せる中、他のプラットフォームと一緒に組むことで勝ち筋を作りに行っているのは他のプラットフォームには過去なかった戦略をエヴァン・スピーゲルがとった。その中心となったのがBitmoji、そして後にSnap Kit。

Bitmojiのアバターを他のアプリと連携することによって、ユーザーは毎回自分のプロフィールを作り直さなくてよかったり、Snapchat上での友達と情報共有を簡単にする。アプリ側としてはSnap Miniと似たようにSnapchatの大きいオーディエンスにアクセスできる。
Facebookがいいねボタンを色んなウェブブラウザーに置いて人気になったように、SnapchatもBitmojiを第三者に提供することによって、ネイティブアプリ市場へ入り込もうとしている。
このBitmojiの裏側にはSnap Kitと言う開発キットがある。色んなパートナーがSnapの様々な機能と連携して、お互いベネフィットできる仕組みを作っている。過去にはNetflix、GoFundMe、VSCO、AnchorなどがSnapのステッカーを使えるようにしたり、Washington Postの記事をSnap上で共有できるようにしたり、ZyngaやZeptoLabがチャット内でゲームをプレーできるようにもしている。さらにSnap Kitの中にはFacebookログインと同じLogin Kitが存在する。
さらにSnap Kitを使って急成長したYOLO、Hoop、LMKなども多くなっている。
Facebookがいいねボタンで数々のサイトの情報を取れたように、Snapchatとしては色んなところにBitmojiやSnap Kitが含まれることによって、自分たちのユーザーがどういう体験を望んでいるのか、どういうアプリと連携してSnap Miniにするべきなのか、そしてSnapchatが入れる新しい領域が何かをデータとしてもらえる。
デジタルアイデンティティーのインフラとなる
2020年で少しバズワードにもなった「メタバース」、次世代インターネットはどのテック企業も関わりたいと思っている。Snapchatもこのメタバースのインフラを作ろうとしていて、その一つのインフラはデジタルアイデンティティー・アカウントとなる。統一されたID・アカウントが必要なので、それをSnapchatはBitmojiなどを通して提供できている。色んなアプリや体験に対して統一されたIDを持つとそのエコシステムのインフラとなれて、今はSnapchatはスマホ・モバイル市場でそこのシェアを高めようとしている。同じようにメタバースでの数々立ち上がる体験で裏のアカウントIDをSnapchatがコントロールすると非常に魅力的な会社になる。
統一されたアカウントやアバターを持つと、よりパーソナライズされた体験が可能になり、ユーザーのエンゲージメントが上がるとともに、より体験に興味を持ってくれる。Fortniteでも似たようなことを行っていて、重要なポイントはマーベルのアイアンマンとFortniteが提携した場合、Fortniteユーザーはアイアンマンのスーツは着ることが出来ても、アイアンマン自身にはなれないこと。自分のキャラクターだからこそよりメタバースらしい体験が可能になる。これはディズニーランドでプリンセスのコスプレを出来てもプリンセス自身にはなれないと同じこと。
Snapchatもこのアバターの使い方に気づいていて、ゲーム体験にもBitmojiを組み込んでいる。
よって、SnapchatはBitmojiを使って自社アプリへのエンゲージメントを高めながら、第三者アプリへの拡大と次のインターネットとなるメタバースへの準備が同時に出来るということ。

メタバースに関してより深く知りたい方はこちらのnoteをご覧ください。
Bitmojiを持っているSnapchatはリーチを拡大して色んなデータ取得を出来るが、それ以上に魅力的なのがSnapchatのオリジナルコンセプトのカメラ機能と、そこから生まれるミラーワールドというコンセプト。
カメラからの新体験とミラーワールドの準備
Snapchatを起動すると、未だにフィードではなく、まずカメラ画面が表示される。これはSnapchatが根本的に自社を「カメラカンパニー」と読んでいるから。
カメラカンパニーとしてこだわるのは、Snapchatが描いているビジョン・会社方針にはこのカメラが最も重要なものになってくるから。その方針とはミラーワールドというコンセプト。
ミラーワールドとは
『Mirrorworld(ミラーワールド)』とはWIREDの創刊編集長であるケビン・ケリーの記事でうまく説明されている概念で、個人的には最もSnapchatが目指している世界と似ているものだと考えている。ケリー氏が説明するには、将来的に今のオフラインの世界がデジタル上で完全再現される時代が来ると言っている。そして、その世界では今までと同じように接することが可能になる。これはデジタルとオフラインの世界を融合させるため、VRよりARの技術の方が重要と話している。
今現在のAR技術だとポケモンGOや携帯やスマートグラスに何かデジタル情報がオーバーレイされる形でしかない。

今のAR技術だとまだシンプルな体験しか出来ない。VRやゲーム内だと、Travis ScottがFortnite上で行ったコンサートがあるが、それがAR上でも体験が可能になる時代がくる。これはどちらかというとMagic Leapが想像していた世界と近しいかもしれない。

このような体験を作るには、Bitmojiやアバター技術より、カメラ技術の方が重要。だからこそSnapchatはカメラファーストな会社でもある。Snapchatのカメラは以下のように進化している(下から上)。

Snapchatは明らかに、写真を撮ることやフィルターを入れられるところから、AR体験へシフトしているのが分かる。そのため、ミラーワールドのようなソーシャル上で体験が可能になるAR技術を作るにはピッタリな会社となる。実際にSnapchatでは1.7億人がSnapchatのAR体験と毎日接しているのと、自社だけではなく第三者にもARレンズの開発を開けているため、すごい勢いでスケールできている。
SnapchatでARレンズを作っている人たちは150万人以上いて、簡単にAR体験を作れるLens StudioもSnapchatは準備している。FortniteやRobloxなど3D体験に慣れているZ世代からすると、どんどん新しいARレンズを使って自己表現をしたがっている。一例として2020年に開発されたアニメレンズがローンチしてから1週間以内で30億回利用された。
そんなSnapchatがARレンズを活用して、今後のメタバースとミラーワールドで必要となってくるマネタイズ・経済、体験とマップ、そしてOSレイヤーを開発している。
ARを活用してマネタイズ・経済圏を作る
Snapchatは短期的にARでマネタイズが出来る。これはAR体験を広告として活用したり、EC展開することが可能となる。Snapchatは何社ともARを活用して新しいプロモーション体験を提供しようとしている。中でも有名だったのがGucciと提携して、Gucciの靴を誰でも試せるキャンペーン。約1,800万人のSnapchatユーザーがこのARレンズを試した。
Diorやコスメ企業とも「商品をARで試せる」企画を出した。

このARで試す体験やフィルターの広告だけでDeutsche Bankのロイド・ウォルムズリーはSnapchatは$4Bの売上機会があると話している。特にコロナ期間中は店舗が閉まっている中、バーチャルで試す需要が増える。
それ以外に商品をスキャンすると情報やオンラインで購入できるオプションを表示できるようにもなっている。

SnapchatのAR技術がどんどん発展する中、ついに全身のトラッキングまでできるようになった(昔は顔だけだった)。これで顔のフィルターやARレンズだけではなく、ダンスやそのほか全身を使った動くを表現できるようになった。

これが何故重要かというと、ARレンズをBitmojiと連携できるようになるからです。そうすると自分のデジタルアバターをリアルの世界に映し出すことが可能になるのと、新しいデジタルアセットの経済圏が生まれる。
SnapchatがRalph Laurenとコラボした時に、ほとんどの方はただ自分のBitmojiのアバターの服を変えられるだけと思ったが、今ではリアルの世界でもそれを見せることが可能となる。
そうなると、今後はSnapchatと提携した店舗で何かを購入すると、自動的に自分のBitmojiアバターのクローゼットに反映することが可能となる。実際にその特許をSnapchatが申請している。
そうするとショッピング中に自分のBitmojiアバターがその服を着るとどう見えるかも判断できるようになる。色んなアプリに反映されているBitmojiを考えると、自分のデジタル上でのアバターの見え方を気になる人は多いはず。これでもしかしたらアバターベースのショッピングモールが生まれるかもしれない。
そしてこれはオフラインで購入するものだけではなく、デジタルアセットの購入も連携が可能になる。今後SnapchatがRobloxやFortniteなどと提携した場合、各プラットフォームで購入したスキンやアイテムを自動的にBitmojiアバターにも反映させる時代が来るかもしれない。
最近だとデジタルファッション企業のTributeなどオンライン上だけでしか購入できない服が流行り始めている中、SnapchatがBitmojiとARレンズを通してより急成長させる可能性がある。しかもSnapchatは友達同士がいるソーシャルなプラットフォームでもあるので、毎日コミュニケーションしているBitmojiの服装が変わると友達が気になってその服を購入する可能性があるため、ソーシャルコマースとディスカバリープラットフォームにもなれる。
さらにもしミラーワールドのような体験が本当に出来た場合、オフラインとオンラインの情報やアセットが一致するのが重要になる。今後はリアルの世界で外で歩き回っても一緒にデジタルアバターが歩いて接することができる世の中を想定すると、全てのアセット・物がオフラインとオンラインで使えるようにするのが自然。
ARを活用して新しい体験と3Dマップを作る
Snapchatのミラーワールドへ本気に挑んでいると理解したのは、2020年6月のSnap Partner Summitのある動画がきっかけとなった。その動画はこちら:
上記動画を実現するにはオフライン世界をデジタルマッピングする必要がある。この技術自体は既に存在するSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)を活用していて、Snap以外にもGoogleなどが活用している。動画で説明された通り、Snapchat上で撮られた写真や第三者のデータを活用してこの3Dマップを作っている。Snapchatだけでも毎日40億Snapが撮られていて、さらにBitmojiやSnap Kitのおかげで他のアプリへ入り込んでいるSnapchatは各アプリの画像を後々活用してより精度の高い世界のデジタルマップを作っているかもしれない。結果として、Snapchat、Bitmoji、Snap Kitは次のインターネットのインフラを作るための最高のクラウドソーシングプラットフォームになるかもしれない。
動画でこのLocal Lensを紹介しているQi Panさんの話をよく聞くと、ミラーワールドを作っているのが分かる。
Snapchatユーザーはフィジカルの世界の上に常に存在するARの世界を作ることが出来る。友達と一緒にこのAR世界を作り、一緒に新しい体験を経験することが可能になる。
この言葉は過去のnoteでのメタバースの定義に似ている部分がある。
メタバースの定義
1. 終わらない
2. 常にライブで同期されている
3. 誰でも参加できるアクセス人数は無制限
4. 自社経済を持つこと
5. オフラインとオンラインやオープンとクローズドで体験を提供
6. データ、デジタルアセット、コンテンツなどで過去ないレベルの相互運用生が可能に
7. 様々な人々が作るコンテンツや体験があること
Snapchatが作っている世界は、全て当てはめられるような気がする。
今後は恐らくコンサートやイベントなどの体験を試すと思われる。1月20日のバイデンの大統領就任式もSnapchatがAR体験を提供した。




このAR体験に加えてBitmojiが加わると、本当にミラーワールド・メタバースの世界観が見え始める。
ARとSpectaclesを活用してメタバース・ミラーワールドのiOS・アンドロイドを作る
2016年にSnapchatが開発したカメラ付きメガネのSpectaclesはミニオンズっぽい自動販売機でローンチした時に一瞬だけバズった。
メガネが高額だったのと、使うユースケースもあまりなく、結果としてローンチした初年度はたったの0.08%のSnapchatユーザーがSpectaclesを購入した。オシャレでドロップ式で盛り上げたのに、実際に付けるとそこまで意味がないプロダクトと多くの人が気づいて、Spectaclesを失敗作と呼ぶ人が多かった。

ただ、不思議なことに、SnapchatはSpectaclesの開発を止めなかった。2018年4月にSpectacles 2をローンチして、2019年8月にSpectacles 3をローンチした。未だに大赤字の事業であるが、Snapchatがわざわざこの事業に投資しているのは、意味がある。
Snapchatは今現在アプリ・サービスレイヤーで戦っている。ただ、そこを持っていても、メタバース・ミラーワールドの世界では勝てない。逆に、新しいインフラが出来上がるとコミュニケーションレイヤーが変わるかもしれないので、Snapchatのメインサービスが使われなくなるかもしれない。だからこそSnapchatは3Dマップやアバターの開発を進めている。そしてSpectaclesの開発はOSレイヤーに入り込むため。OSのレイヤーはよりインフラに近づいていて、アプリ・サービスより遥かに強いポジションに立てる。SnapchatはFacebookとAppleを見てOSの重要性を気づいているはず。
FacebookもSnapchatと同じくアプリ・サービスレイヤーの会社だが、実はOSのレイヤーに前から入りたがっていた。Facebookは実は過去スマホとOSを開発していたが、成功しなかったため、まだアプリ・サービスレイヤーへ取り残されている。もちろんFacebook自体はアプリとしては大成功しているが、OSのレイヤーに入っていないのでリスクがある。そのリスクが明確になったのは、最近Appleが発表したiOS 14のアップデート。Appleの一つのポリシー変更によって、Facebookの重要な広告事業がかなり影響されることとなる。このリスクを次のインフラでは背負わないために、FacebookはOculusを買収した。Facebookの目的はOculusの力を使ってメタバースで次のAndroid/iOS/iPhoneを目指している。
SpectaclesはSnapchatのAndroidとiPhoneであり、Snapchatがそこに大赤字でも投資するのは、将来的にそのレイヤーを取れると圧倒的に権力を持つことが出来るから。
結論
Snapchatは色んな視点から今後も伸びる会社に見える。若手層から圧倒的に支持されているアプリなので、引き続き若手層に対して正しいブランディングとサービス展開が出来れば、徐々にFacebookやInstagramをリプレイスしていく可能性がある。
そして短期的なマネタイズを拡大プランが明確に見えてきている。プラットフォームのDAUを上げるためにはBitmojiやZenlyなどを活用して海外展開と他のアプリへリーチを広げると同時に、毎日40億回も送られている必要不可欠なコミュニケーションレイヤーに追加してマップ、予約、情報共有、エンタメ、ゲームなどサービス提供している。もしかしたらアメリカで初のスーパーアプリになるかもしれない。ユーザーの滞在時間を増やしてARPUを上げて、ソーシャルコマースやARレンズ展開などを通して新しいマネタイズオプションを検証出来る。
そして長期的にSnapchatは次のインターネット世代のインフラを作っている。ミラーワールド・メタバースの重要なアバター技術、AR技術、3Dマップ、そしてそれを全て繋げるハードウェアとソフトウェアの開発が進んでいる。
Snapchatは買収は機能開発を通して、ユーザー獲得やマネタイズだけではなく、未来のARプラットフォームを作っている。Snapchatの各サービスがお互い支え合って、このビジョンに近づける形になっているのは、本当にすごいことであって、中々Snapchatの数字やプロダクトアップデートだけを聞いていると気づかないこと。もしかしたら今後Snapchatは世界でかなり重要なポジションに立つ会社になるかもしれない。
Written by Tetsuro (@tmiyatake1) | Edited by Miki (@mikirepo)