マインクラフトからストーリーが生まれる Dream SMPとブランドアフィニティの作り方
マインクラフトのDream SMPから学ぶIP作りとブランドアフィニティについてまとめました。ストーリーテリングの進化、アフィニティ作りの重要性と事例など
はじめに
今回の記事を書き始めたきっかけはタイトルにもある「Dream SMP」というIP・ストーリーについて知り合いから聞かされたからだった。そこで検索などもしたが、あまり多くDream SMPについて語る記事はなく、テック業界でも話す人はほぼいなかった。特定のゲーム業界のインフルエンサーなどが数名記事を書いていたが、ほとんどの人はこれは単純に人気なMinecraftサーバーとして扱っていた。ただこのDream SMPを調べる際に、これは次のIP作りで重要なヒントがあると思い、記事を書くことに決めた。(ポッドキャストでも紹介しているので、音声で読みたいはここから聴いてみてください)
ほとんどの方は「IP」という言葉を聞くと、人気な映画やテレビ番組のキャラクターを思い浮かぶが、IPはどの会社でも存在する。IPとはブランドそのものでもある。そうするとブランドとは何か?大学生の時にブランドマーケティングの授業を受けた時に一番最初の授業でブランドの定義を行ったが、そこで知ったのは「ブランド = 信頼」だった。良いブランドとは思った期待にちゃんと応えてくれる会社・サービス・体験・メディアを示している。今までOff Topicでもテーマとして書いていた「アテンションと信頼」の重要性はブランディングに繋がっている。
それではどういう風にこのアテンションと信頼を作るべきなのか?日本では「ナラティブ」や「ストーリーテリング」という言葉が人気になっているが、面白いクリエイティブやストーリーを言うだけでは足りない。良いフックになるかもしれないが、ユーザーをファンにさせるためにはストーリーと共にブランドの愛情作りが必要。これをこの記事ではアフィニティ作りと呼びます。アフィニティとはブランドに対しての信頼、親近感、愛情を示していて、アフィニティをより深く作れるほどマネタイズも可能になる。
今回の記事ではストーリーテリングの進化、アフィニティ作りの重要性と事例、どう進化しているのか、そして何故Dream SMPがアフィニティ作りの素晴らしい事例であり、次世代マーベルと言われているのかを解説したいと思います。
ストーリーテリングの進化
アフィニティ作りの話をする前に、まずはストーリーテリングの進化を見なければいけない。昔では最もストーリーテリングが上手い会社は本や映画などを通して伝えていた。本や映画は主に目で楽しむものなので、その次に現れたのがよりイマーシブなストーリーテリング。この最も良い事例はディズニー。ディズニーは見た目だけではなく、音、エフェクト、アニメーション技術などを活用して新しい体験を提供できた。ディズニーランドでは良い思い出作りのために匂いを出す機械(Smellitizer)を開発した。メインストリートではクッキーを作っている匂い、カリブの海賊ライドでは海水の塩っけ、プーさんの冒険ではハチミツの匂いを出している。さらに馬により大きな音を立てるために特別な蹄鉄を付けていたり、様々な手法で優れたディズニー体験を届けている。
ディズニーのようなテーマパークの次にCGIなどが流行った。ここでスターウォーズやマトリックスなど、今まであり得なかった世界やストーリーを作ることが可能になった。
スターウォーズはCGIやSF・ファンタジー映画のトレンドだけではなく、一つの大きなストーリーのシリーズ化するトレンドを作った。一つのシリーズを毎年や2年に1回リリースするのが主流となる。実際にハリーポッターの映画シリーズが始まった2001年からほぼ毎年新しい映画が公開された。ロード・オブ・ザ・リングやスパイダー・マンなども毎年のように続編を出すのを期待された。
そして次の大きなストーリーテリングの進化はマーベルとIPのユニバース化。これは複数の続編を毎年出して、それが一つ大きな世界の中で繋がるようにした。2008年にMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)が映画「アイアンマン」で始まったが、マーベルは複数のキャラクターのストーリーを映画で伝え、エンドクレジットのシーンで実は同じ世界に存在していることを見せた。5本の映画を作り終えてから最初の「アベンジャーズ」がリリースされるが、そこで爆発的に人気なる。マーベルはその後にキャラクターを増やして、さらに大きなユニバースを作り始めた。マーベルは全体のストーリー・ユニバースを複数のフェーズに分けていて、今現在は第4フェーズに入っている。
このフェーズを見て分かるのは、映画をリリースするスピードが上がっていること。フェーズ1の時は平均1.2本の映画を毎年出していたのが、フェーズ3に入ってから毎年2.75本の映画を出している。
マーベルの凄さは色んなキャラクターが一つの世界に共存している新しいストーリーテリングの仕方だけではなく、プラットフォーム化出来たこと。MCUのキャラクターにはファンベースが存在していて、そのアベンジャーズやMCUを通してキャラクターを出していくので、そのキャラクターのファンはMCU全体、そして他のMCU上のキャラクターを知る機会にもなる。これによってマーベル全体を好きになってくれる。さらにマーベルはこの人気MCUプラットフォームを活用して、今まで認知されてなかったキャラクターIPも出せるようになった。そもそもマーベルは過去の事業トラブルなどで多くの著名IPを無くしたり、権限を売却していたので、マーベルコミックでのキャラクターを全員使えなかった。実はアイアンマンは2008年にリリースされた時はそこまで人気ではなく、どちらかというとより人気なキャラクターはハルクだった。ただ、MCUというプラットフォームを作ったおかげで、ほぼ誰も知らなかった「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のIPを大ヒットさせることに成功した。実はこのガーディアンズ・オブ・ギャラクシーが出た年、人気IPのハンガー・ゲームズやトランスフォーマーズの続編より人気だった。このIPがヒットしたのはオーディエンスは既存のIPではなく、一つの大きなユニバースの中にいたいことを証明した。
この影響でどの映画フランチャイズもユニバース化を始めた。ハリーポッターもスピンオフを出したり、スターウォーズも色んなスピンオフなどを出すようになった。ただ、どこもマーベルを超えそうなところはいない。マーベルは個々の映画でも非常に評価が高い。実際に映画の評価をするCinemaScoreを見ると、ほとんどがA評価となっている。
CinemaScoreは2020年までにたったの88本の映画にしか最高評価のA+を付けていないが、そのうち3本がマーベル映画。これだけ頻繁に映画を出しながら良い評価を得られる映画フランチャイズはほぼ存在しない。
そして今新しいストーリーテリングのフェーズに入り始めている。それが「トランスメディア」のフェーズ。これは一つのストーリーを複数のチャネルで伝えること。スターウォーズは数年前から本格的にこの取り組みを行い始めた。元々映画メインでストーリーテリングをしていたのを、最近では「マンダロリアン」などをテレビ番組などを通して伝えている。ナイキも今までコマーシャルなどを通してストーリーテリングしか出来なかったを、変えようとしているかもしれない。直近人気NBA選手レブロン・ジェームズのメディア・エンタメ企業を買収することを検討していたことが判明した。レブロン・ジェームズは映画やテレビ番組などを制作している。ナイキはそういう会社を買収することによって、新しい手法でアスリートのストーリーテリングを狙っているのかもしれない。去年アメリカで大ヒットしたシカゴ・ブルズとマイケル・ジョーダンのドキュメンタリーシリーズ「The Last Dance」や最近大阪なおみのNetflixドキュメンタリーシリーズも出たが、似たようなことをナイキが考えていてもおかしくない。
そしてこのトランスメディアで最近人気なのがゲームを起点としたIP作り。その一例となるのが「The Witcher」。元々1992年に本としてリリースされたが、それが2007年にゲームとしてローンチしてからIPが人気になった。ゲームの第3弾目で本の方がNew York Timesのベストセラーとなり、その後Netflixのテレビドラマにもなった。そしてNetflixで配信してからビデオゲーム上のプレイヤー数が3〜4倍上がったとも言われている。
人気ゲームLeague of Legendsもゲームから始まったが、色んな形でIPを広げている。League of Legendsでは音楽が非常に人気だったが、ゲーム内の4人のキャラクターをバーチャルKpopバンド「K/DA」として音楽デビューさせた。デビュー曲の「Pop/Stars」は4.5億再生回数を超えている。
そしてLeague of Legendsの大会のオープニングでも出演した。
最近ではNetflixでのアニメシリーズの発表されたり、映画制作を検討しているという報道もある。
今後はもしかしたら映画やテレビドラマを見て、その後にすぐにそのキャラクターと一緒にゲームを遊べるようになる時代になるかもしれない。アイアンマンが出演しているドラマを見た後に声優がコントロールするアイアンマンと一緒にそのドラマの続きをFortniteや別のゲームプラットフォームで遊べて、リアルタイムで自分がそのストーリーに影響できる時代が来るかもしれない。
徐々に明らかなのは今まではブランドやメディア企業は一方的にファンにストーリーを語っていたのが変わっていること。ファンが色んなチャネルを通して体験するとともに、SNS上で自らストーリーをシェアしたり、ファンフィクションを作ったり、場合によってはファンのアクションがストーリーを影響させるようになるかもしれない。今ではストーリーテリングを上手く行うには、何かしらの形でファンを巻き込むのが重要になり始めている。そこで出てくるのが「アフィニティ作り」。
良いIPを作るためにはアフィニティ作りが必要
良いストーリーを作るためにはアテンションを取るネタだけではなく、その後の愛情づくりの方が重要。愛情作り、アフィニティ作りに成功したブランドやIPはマネタイズも出来るようになる。ユーザーが色んな形でストーリーを好きになれるきっかけ作りを行うIPが多い。ディズニーみたいに聴覚や嗅覚を活用するのは記憶に残す試作でもある。音楽だとジェームズ・ボンド、スターウォーズ、ポケモンなどが強い。スターウォーズのIPを知らなくても、誰でも聞いたことはある。そして音楽は映画などとは違って何回も聞く人がいるので、よりブランドへの愛情作りに繋がる。
アフィニティ作りで最も強い会社は恐らくディズニーである。ディズニーは最強のIP(ディズニー、PIxar、スターウォーズ、マーベルなど)を抱えているが、実は映画や動画配信サービスより儲かっている部門はテーマパーク事業。ディズニーのテーマパークはディズニーのスタジオ部門よりも売上も利益も出している。過去のnote記事でも説明したが、ディズニーからすると映画やDisney+の役割はユーザーのデータとコンテンツを好きになってくれるきっかけ作りでしかなく、そこからディズニーはテーマパークや他の手法を使ってアフィニティ作りを行い、マネタイズ出来ている。例えばスターウォーズファンである自分は$200以上かけて自分のカスタムライトセーバーを作った。
このライトセーバーを作るのもただパーツを選んで勝手に作るのではなく、ちゃんとしたワークショップになっている。スターウォーズファンからすると、ライトセーバーの意味合いを知っているため、自分だけのカスタムライトセーバーを作る儀式に参加することだけでも本当にスターウォーズの世界に入り込んだ気持ちになる。ディズニーもその重要性を理解しているため、ワークショップ型にしている。
ここでも台本に合わせて音楽やエフェクト、灯りの調整を行なっている。実際にライトセーバーが出来上がって、全員一緒にライトセーバーを起動させた時の鳥肌は未だに覚えている。
さらにディズニーはフィジカルでキャラクターを再現するため、子供たちがキャラクターと触れ合える場所になっている。今までずっとテレビやNetflixで見ていた好きなキャラクターを年に1回だけ家族旅行でディズニーランドに行く子供にとって、ミッキーとのハグすることだけでとんでもないブランドアフィニティが作られる。しかもミッキーとのハグした瞬間の写真や家族写真をほぼ必ず撮るので、10年後、20年後、30年後もその楽しかった思い出が残る。そしてその同じハッピーな感情を自分の子供にも体験してもらいたいからこそ、自分の子供にもディズニーを見せたり、ディズニーランドへ連れて行く。ディズニーのテーマパークは世代を超えたブランドアフィニティ作りをする場所になっている。
そしてディズニーはテーマパーク以外のブランドアフィニティ作りを行なっている。ディズニーはグッズ販売を行なっているが、ほとんどのグッズ販売は自社で行なっていなく、ライセンスしている。しかもこのライセンス事業は実はそこまでディズニーにとって大きな利益を出すポイントになっていない。実際に全体の事業の10%の利益しかグッズ・ライセンス事業からしかきていない。普通に考えるとIPが強ければ強いほど、自社のグッズや商品を作ってEC販売などで大きくマネタイズしても良いが、ディズニーはこのグッズ・ライセンス事業を短期マネタイズするチャネルではなく、長期のブランドアフィニティ作りのチャネルとして見ている。ディズニーがもし自社商品にフォーカスした場合、限られた商品しか作れないが、ファンは色んな形で好きなIPと接したいと思っている。子供だとおもちゃ、ベッド、パジャマや服、ペン、鞄など色んなディズニー商品が欲しいかもしれないし、大人もディズニーのIPが好きな人も多いので、椅子、カーペット、Bearbrickなど数え切れないほどの形でディズニー愛を表現したいはず。
ディズニーがここまで幅広いグッズを作るのにはかなりのコストがかかり、全ての需要に対して商品開発は出来ない。ディズニーとして大事なのは世界中の人たちが様々な形でディズニーIPの愛情表現が出来ることなので、ディズニーはライセンス事業に専念し、第三者に商品開発をしてもらって、そのパートナーに売上のほとんどを渡すことを決めた。ディズニーとして重要なのはおもちゃのライトセーバーから出てくる$10の売上よりも、子供にそのライトセーバーを使ってもらって何時間も自分がスターウォーズの世界に入ってジェダイだと想像させること。
もちろんほとんどの会社はディズニーと同じようにテーマパークを作ったりすることが出来ないので、これからは他社事例でどういう風にブランドアフィニティを作ったのかを話します。ここで大事なのは多くのブランドアフィニティ作りの事例は何かしらのファンとのインタラクションが必要なこと。最近のIPやブランドたちはブランドアフィニティ作りのためにIPのコントロールを一部ファンに預けるようにしている。今回の記事ではリミックス、インタラクティブコンテンツ、MILE、UGCプラットフォームなどから実例を解説します。
リミックス文化を受け入れるアフィニティ作り
今のインターネットではリミックス文化が当たり前になっている。過去のnoteで話したZ世代に人気なMeme文化もこのリミックスの事例の一つだが、リミックスは親しみのあるコンテンツに新たな面白みやクリエイティビティを加えたものなので、アテンションと信頼の経済では非常に伸びやすいコンテンツフォーマット。動画配信プラットフォームのQuibiが失敗した理由はいくつかあるが、その一つが初期にQuibi上の番組のシーンをスクショしてSNSでアップできなかったこと。シェアしにくいからこそ文化に根付かない可能性が高くなる。逆に2020年に人気になったFall GuysやAmong UsはSNS上でコンテンツをシェアしたからこそ人気になった。
TikTokも人気な理由はこのリミックス文化を一般化しているから。TikTokではデュエット機能で簡単にアーティストコラボやQ&Aなどが可能になる。以下スレッドを見ると、アーティストのCharlie Puthさんの曲をTikTok上で作り、デュエットするようにお願いしている。
それを見た他のRyan Mackさんがボーカルを追加して、曲を「完成」させている。以下Twitterスレッドをすると、このデュエットをさらにデュエットする人がいたり、別の形でデュエットする人がいるのも分かる。
YouTube上では大体10人に1人がクリエイター(動画配信をする)と言われていて、TikTokでは55%のユーザーが少なくとも1回は動画投稿している。TikTokのUIを見ても、動画を見ている際にその動画が使っている曲・音声やエフェクトもすぐに分かり、それをタップするとそこから同じエフェクトや音声で簡単に動画制作が出来るように作られている。
TikTokは動画コンテンツをオープンソース化していて、リミックス文化を加速させている。そんなリミックス文化は色んなIPが昔から活用している、アフィニティ作りの一例。
スターウォーズ
スターウォーズは色んな意味で奇跡的なIPでもある。元々スターウォーズのアイデアをジョージ・ルーカスさんが12枚のメモでまとめた時に、ほぼ全部の映画会社から断られた。唯一受け入れてくれたのは20th Century Foxだったが、ジョージ・ルーカスが要求した$18Mの予算に対してFoxは$7.5Mしかオファーしなかった。そして成功すると思ってなかった20th Century Foxはある大きな間違いをしてしまう。コストカットのためにある契約をジョージ・ルーカスと提携する。直近の映画で成功したジョージ・ルーカスは$500Kほどの給料をもらえたが、彼は$150Kに下げる代わりに商品化権と続編の権利をもらえる交渉を行なった。今では圧倒的にFoxにとって不利な条件に見えるが、当時はスターウォーズが成功すると誰も思ってなかった。
公開してから大ヒットしたスターウォーズだったが、その中ですごかったのはファンのIPに対しての愛情だった。これまで見てこなかった世界観やキャラクターに対して、多くのファンはファンフィクションを作り始めた。ユーザーが自らそのIPに対してコンテンツを作ってくれるのはアフィニティ作りの大きな一歩だが、ジョージ・ルーカスは初期は好まなかった。ただ、どこかのタイミングで受け入れなければいけないと気づいたジョージ・ルーカスは気持ちを切り替えて、そこからスターウォーズは全面的にファン愛を受け入れ始めた。自社のコンテンツIPの著作権をよりリベラルに取り扱うことで、ファンも一緒にスターウォーズの世界を作れる環境を作った。2002年には正式にスターウォーズのファンフィルム賞を開催した。多くのファンが作った動画はスターウォーズのパロディやコアファンしか分からないインサイダージョークや情報でいっぱいだった。以下はファンが作った動画の事例。
2007年により簡単にスターウォーズコンテンツをリミックスしやすくするためにツールなどを提供した。オフィシャルな映像、音楽やライトセーバーの音をオフィシャルに公開することによって、ファンが自分なりのスターウォーズコンテンツを作りやすくした。ツールをリリースした時にスターウォーズを開発しているLucasfilm担当者が「これはスターウォーズの愛情を保つためにやっている。次の30年後のことを考えてこのようなことをやっている」と語った。
直近のスターウォーズの取り組みを見ても、どれだけファンフィクションやファンが作るスターウォーズユニバースが重要かが分かる。今年の7月に発表された「Star Wars: Visions」ではスターウォーズのIPを7社の日本アニメ制作会社に渡して、それぞれのアニメ制作会社が自由に自分なりのスターウォーズ系のストーリーを作れるようにした。全く別キャラクターや設定を作ることを許された。
これは色んな意味でスターウォーズにとって重要。まずはアニメ業界やクリエイター業界ではスターウォーズのインパクトがデカイので、それだけのIPを自由に扱って良いという認証をもらえたのはクリエイターにとってプライドになるし、そのスターウォーズの愛情が自分たちのファンにも繋がる。そして同時にディズニーからするとマーベルやスターウォーズのIPは日本では思ったほど高くないので、新しい形でアフィニティ作りをする必要があると考えた。日本は漫画やアニメ文化なため、日本のクリエイターが日本で人気なコンテンツフォーマットでリミックスしたIPを作れば、もしかしたら日本のユーザーがスターウォーズを知ってもらったり、好きになってもらうきっかけ作りになるかもしれない。それを考えると、この取り組みはディズニーからすると低予算なアフィニティ作りのテストになる。
NBA対NFL
スポーツ業界でもリミックス文化を受け入れるか受け入れないかで人気度合いが変わった。昔はアメリカのスポーツ業界では独占配信をしていたテレビ業界を恐れてアメフトやバスケリーグの映像はSNSでアップロードするのが難しかった。それを変えたのがプロバスケリーグのNBA。彼らは積極的にファンがハイライト動画などをアップロードすることを許したおかげで若者層にバスケが人気になった。House of Highlightsなどスポーツのハイライト動画を特化したメディアやYouTubeチャネルは若者層からすると、全試合見るより楽。House of Highlightsは一時期毎月7億再生回数を突破していた。
BTS
ファンのエンゲージメントとリミックスコンテンツでいうとBTSは必ず出てくる事例。コンテンツの編集、翻訳、追加コンテンツのリサーチなどを積極的に行い、アフィニティ作りしている。
Glossier
D2C業界ではリミックス文化を取り入れているのはGlossier。CEOのEmily WeissさんはそもそもGlossierをスタートした一つのきっかけは「ビューティーブランドのパーカーを誰も保有したいと誰も思わないので、そう思うようなブランドを作りたい」気持ちから来た。そんなEmilyさんはGlossierを作る際に思ったのは、コスメ・スキンケア領域では誰もがインフルエンサーであり、今までのビューティーブランドのように会社から一方的にプロダクトを押し付けるのではなく、ユーザーと一緒に作りたいと思った。実際にコアユーザーから課題やインサイトを受けてプロダクト開発しているGlossierはマーケティングでもユーザーのコンテンツを活用している。ユーザーから許可をもらって彼らのInstagram投稿をGlossierのオフィシャルアカウントに出したり、ユーザーの投稿や思いをまとめてそのまま広告として出すこともある。
Instagramで「Glossier」を検索しても公式アカウントも出るが、同時にユーザーが勝手にキュレーションしたアカウントも存在する。
Salesforce
B2Bではリミックス・ファンエンゲージメントはケーススタディや顧客を巻き込むカンファレンスやイベントなどあるが、その中でも最もカルト的なのはSalesforceが毎年開催するDreamforce。最後にリアルで実施した2019年では13.5万人がサンフランシスコに集まって参加した。その数日間でサンフランシスコの人口が15%増えて、どのホテルもAirbnbも埋まる状態となる。人が集まりすぎてSalesforceはクルーズ船を借りてそこに人を泊まらせていた。
このようなファンエンゲージメントは大事。ファンが勝手にブランドIPを広げてくれると同時に、愛情表現をすることによってよりブランドの一員として感じて、ブランドのアンバサダー化するようになる。Sonyが最近Discordに投資してPlaystationと連携させるのも、今後自社ゲームやIPをPlaystationで遊んだ後に、そのままそのゲームの話を他のプラットフォームでもしてもらったり、ゲームのハイライト動画を自分のコミュニティに共有しやすい環境を作ることによってブランドアフィニティを作れると感じているかもしれない。色んなタッチポイントやエンゲージメントする機会を与えるブランドが増えている中、そもそもIPやストーリーテリングの一環でファンのエンゲージメントやインタラクションを必要とするメディアや新しいIPが存在する。
インタラクティブコンテンツの可能性
ファンがストーリーをコントロール出来ると、よりストーリーの重要人物だと感じてIPとの関係性が強まる可能性がある。昔からこのような取り組みがあるが、以下はインタラクティブコンテンツを事例。
グースバンプス
大体どのアメリカの子供が読んだことがあるホラー小説シリーズの「Goosebumps」だが、いくつかGoosebumpsの特別バージョンで「Choose your own adventure」(君ならどうする?)のコンセプトを取り入れた本が存在する。ストーリーを読んでいる最中に、読者に二択や三択のストーリーの進め方を選べるオプションが表示される。例えば、ストーリーの中で何か外で物事を聞こえた主人公が「外へ出て調べる」オプションと「無視して家の中でテレビを見続ける」オプションを選べる。各オプションは別のページに飛ばされ、オプションの選択肢によってストーリーが変わるようになっている。
良い結果になるように、子供たちは何回も本を読み返して色んなオプションを試してみて、その結果ストーリーにより引き込まれていく。
Netflix
このGoosebumps事例の映像版をNetflixが実行した。映画「Black Mirror: Bandersnatch」ではGoosebumpsと同じように、映画の途中で2択でユーザーが映画の進め方を決めることが出来る。
Netflixは特に子供向けのコンテンツでインタラクティブフォーマットを活用している。
子供の中で一番人気なNetflixインタラクティブコンテンツはドラマや映画ではなく、ゲームをベースにしたストーリー。NetflixはTelltale Gamesと提携して「Minecraft: Story Mode」を開発。他のNetflixインタラクティブコンテンツは大体30分ぐらいのコンテンツなのと比較して、Minecraft: Story Modeは終わりまで5時間以上かかる。ただ他のコンテンツよりもゲームっぽく、よりインタラクティブ性が高い。
Netflixが最近採用したMike Verduさんは元Atari、Electronic Arts、Zynga(Facebook)のゲーム業界のベテラン。彼を採用した一つの理由はNetflixは今後ゲーム開発を行い、そのゲームを今の動画配信のサブスクと一緒にパッケージとして提供することを考えている。Netflix co-CEOのReed Hastingsさんは過去Netflixの一番の競合をFortniteと宣言したが、今回の採用ではNetflixのブランドアフィニティを本気で作るためにゲーム領域へ踏み込むと思う。
ゲームのブランドアフィニティの可能性
ゲームは他のコンテンツフォーマットよりも上手くいけばブランドアフィニティを作れるものとなる。ほとんどの人は好きなポッドキャスト、映画、ドラマは多くても数回しか見ないが、好きなゲームは何百回、何千回と遊ぶ。Assassins’ CreedやRed Dead Redemptionのようなゲームでは明確な目標やミッションがあるが、多くのプレイヤーはそれ以外のミニミッションや大きなストーリーとは関係のないコンテンツにも取り組む。一人でRed Dead Redemption 2を遊んで重要なミッションしかやらないと大体47時間ぐらいかかる。これは既にテレビドラマの十何時間のコンテンツを上回っているが、Red Dead Redemption 2だとサイドミッションなどを含めるとクリアするまでに76〜161時間かかると言われている。それだけ一つのIPに時間の投資をすると、好きになる可能性は高くなる。
そしてゲームは非常にソーシャルな体験でもある。RobloxやMinecraftが人気なのは、友達と遊びながら自分たちなりのストーリーや取り組みを行えること。いくらディズニーやスターウォーズほどのIPがあっても、子供たちは何百時間かけてIPに投資することは少ないが、何故かゲームだとそれが可能になる。ゲームのエンゲージメント時間とストーリーテリングの可能性、そしてソーシャルな体験作りなどを考えると、ゲームはアフィニティ作りに最も適したフォーマットかもしれない(上手く出来れば)。
そんなゲーム x ファンインタラクションをコンセプトとした新しいコンテンツフォーマットのMILEについて解説します。
MILEの可能性
MILEとは「Massive Interactive Live Event」。日本語に訳すと大規模インタラクティブイベントのこと。実は2014年あたりから出始めたフォーマットだが、最近より人気になり始めている。ファンのエンゲージメントをベースにコンテンツが進めていくもので、ライブで行われているため、GoosebumpsやNetflixと違って何回も挑戦できないのと、一人で遊ぶのではなく、大人数で投票などを通してコンテンツの進め方を決めていく。
初期MILE事例
一番最初のMILEはあるTwitch配信から始まった。Twitch上でゲームのライブ実況をする方が多いが、2014年では「Twitch Plays Pokemon」という実況が人気になった時期があった。ある匿名のTwitch配信者がゲームボーイのエミュレーターを活用して1996年にリリースされた「ポケットモンスター 赤」をIRCボットと繋げた。そうするとTwitchのチャット上で全てのアクションを視聴者が決められるようになった。下記GIFではチャット上でコマンドを色んなユーザーが指示しているのが分かる。
もちろん、こうなるとシンプルなタスクすら大変な作業となる。実際にゲームをコンプリートは出来たが、390時間かかった。
カオスだったが、かなり人気なコンテンツだったのも事実。最高の同時アクセスした「プレイヤー」数は12万人で、2,950万人がコンテンツを見た。ただ、個人的に面白いと思ったのはゲームの裏で行われたユーザーの行動。チャット上でランダムな人たちがいたので、キャラクターが意味無く動き回ったり、間違ったアクションをよくしていた。それを避けるために裏で多くのユーザーが集まって、どうゲームをクリアするか話し合い始めた。あるRedditグループが生まれ、Google Docsコミュニティまで生まれた。そこではゲームをクリアするための戦略会議、具体的なアクションなどのディスカッションが行われた。カオスだったものがコミュニティとソーシャルな場所を作り、そのコミュニティに参加しているメンバーのコミット度合いが非常に高かった。
この「Twitch Plays」フォーマットは他のゲームでも真似されたが、どれもコミュニティ作りとそのコンテンツへの愛情・コミット度合いを向上させた。
Reddit Place
次の面白いMILE事例は2017年にRedditがエイプリルフールのジョークとして作ったサイト「Reddit Place」。Reddit Placeは1,000ピクセル x 1,000ピクセルの白紙サイトとしてスタートして、そこに訪れたユーザーに対してシンプルなインストラクションが用意された。ユーザーは一つのピクセルを16色の中から一つ色を選んで、そのピクセルの色を変えられるようになっている。ただ、ユーザーが次に色を変えたいピクセルがあれば、5分から20分待たないといけない仕組みとなっていた。
スタートした72時間後にReddit Placeは終わったが、その間に100万人以上がこの取り組みに参加して、合計1,600万個のピクセルの色を変えた。終わった時には9万人がアクティブにピクセルの色を変えていた。ここで面白かったのは、一人で楽しむものからスタートしたのに、Twitch Plays Pokemonと同じように色んなグループが作られ、チームやコミュニティで絵を描いたり、他のチームから陣地を取る戦争になった。結果として以下がその72時間で行われた行動。
これだけの短期間で色んな人が集まって計画、戦略、そしてコミュニティを作ったのがすごい。
Fan Controlled Football (FCF)
このようなインタラクティブな体験を提供すると、熱いコミュニティが作られる。それをスポーツ業界でも検証され始めている。Fan Controlled Football(FCF)は新しいアメフトリーグで、名前の通り、ファンがコントロールするゲーム。こちらは元NFL(プロアメフトリーグ)の有名選手などがチームのオーナーとなり、実際に行われる7対7のアメフトリーグ。
こちら普通のアメフトの試合に見えるかもしれないが、実は裏ではかなり変わったことが行われている。アメフトは1プレイ毎に止まり、各チームが戦略を練ることが出来る。大体NFLとかではコーチが毎回指示を出して、選手はそれを聞いてポジションやアクションをとる。そのため、各アメフトチームは何百もプレイを覚えないといけない。以下はプレイのサンプル。
これをもしコーチではなくて、チームのファンが投票で決められたら、どうなるのか?それがFCF。以下動画で見るように、各プレイをファンが選べるようになっている。
Twitch上、もしくは専用アプリでプレイを選ぶことが出来る。実は同じようなことをアメフトのビデオゲームでもやっているので、このフォーマット自体は多くのアメリカ人は慣れている(ただビデオゲームの場合は投票ではなく、一人でプレイを決める)。
ちなみに各チームにはコーチもいて、コーチは練習メニューだけではなく、ゲーム中にどうしてもプレイを選びたい際にはファンの判断を覆す権利を持っている(回数は制限されている)。
そんなコーチの採用も、どの選手をドラフトするのか、チームカラーなどもファンが選ぶようになっている。これは本当にファンがコントロールするアメフトリーグとなっている。しかもファンがゲーム中に良い判断(例:点に繋がったプレイを選ぶ)をする度に「FanIQ」というポイントを稼げるようになる。FanIQを持っているファンほど次のプレイを判断する投票数・影響力を持つようになる。この制度のおかげでふざけているファンや悪意のあるファンの影響力を削減して、チームに貢献したいファンを作ることが出来る。
2021年2月に最初のシーズンが始まったが、210万人以上が試合を見て、リーグ自体にVCのLightspeed Venture Partnersなどが投資した。今現在4チーム(Beasts、Glacier Boyz、Zappers、Wild Aces)しかいないが、今後チームを増やす予定。
ちなみに個人的にFCFチーム「Beasts」の株主(オーナー)でもあるので、Beastsには頑張ってもらいたいw。今NFLが若者からの支持率が下がっている中、FCFみたいなフォーマットでより強いファンベースを作り、若者層が好きになるスポーツフランチャイズが生まれるかもしれない。今最も高く評価されているNFLチームのDallas Cowboysは$5.7Bの時価総額なので、FCFチームでも何かユニコーンになるかもしれない。
Rival Peak
最後のMILE事例はファンが人間の動きをコントロールするのではなく、AIをコントロールするストーリー型シミュレーションの「Rival Peak」。個人的に2019年あたりから気になっていたスタートアップGenvid TechnologiesがPipeworks Studioesと提携して作り、FacebookなどとパートナーしてFacebook上で配信した、恐らく今現在一番高度なMILE体験。Rival PeakとはAIベースのリアリティ番組。12人のAIキャラクターが一つの島に配置され、全員生き延びるため様々なアクションを取りながら、毎週1人を取り除く、サバイバルゲームの一種。AIのアクションの一部を視聴者が投票などで決めたり、ゲーム環境(天気など)も投票で変化できる。
全てのキャラクター、そしてゲーム全体を追う13個のライブ配信は3ヶ月間の間、24時間ライブだった。各キャラクターは別々のFacebokページも用意されて、そこで性格や今の状況を知るようになっている。
技術を提供したのは最近$113M調達したGenvid Technologies。このコンテンツフォーマットに必要なAI技術やインタラクション技術などを担当して、Pipeworks Studioesは一人一人のキャラクターやゲームストーリーを担当した。Facebookで視聴できるようになっていて、常に状況を追うのが大変なため、毎週まとめ動画も出している。
結果、ライブ配信で1億分以上の視聴時間があり、毎週のまとめ動画は合計1.55億再生回数を突破した。Rival Peakは著名IPを活用しなくても、これだけの実績を出せた、良い実験になった。AIキャラクターを活用することによって、Rival Peakはスケールがしやすく、アクションを取りたいファンとただ視聴したいファンをどちらとも楽しませられることを証明出来た。もちろんMILEがまだ人気なコンテンツフォーマットになるかは分からないが、インタラクティブコンテンツは色んな形で出てくるのは間違いない。
UGCプラットフォーム
MILEやインタラクティブコンテンツが増えている中、やはり今最もエンゲージさせるプラットフォームはMinecraftやRobloxなどのUGCプラットフォーム。ここでは世界をユーザーが作り、体験できるため、今まで以上にイマーシブな感覚を提供できる。自由に動き回れるUGCプラットフォームはブランドアフィニティを作る最適な場所でもある。実際に人気IPの世界をMinecraftなどで再現する人が多い。以下はGame of Thronesの世界を忠実にMinecraft上で再現されたもの。
Game of Thrones以外にWorld of Warcraft、Final Fantasy、Zelda、ポケモンなどのゲーム世界を再現する人もいる。
バーチャル世界の凄さは世界を見るだけではなく、自分で世界の中を探検できること。しかもその世界を自分のアバターとして体験できるので、本当に好きな世界にお邪魔している感覚になる。ブランドとしてはその体験を提供させるためにデジタルスキン、そして最近ではバーチャル世界を開発している。
そんな中、2020年7月からUGCプラットフォームから生まれたIPが出てきた。それがDream SMP。
Dreamは誰?
ここまでで既に1.5万字の記事になっていて、ようやくDream SMPの話をすると思いきや、その前にまずDreamとは誰かを紹介しなければいけないです(いつも長くてすみませんw)。Dreamは顔を出したことがない、名前を知られていないYouTuber。彼はMinecraft業界ではトッププレイヤーとして知られていて、YouTuberとしても人気。2020年は100万人のYouTube登録者から1,500万人まで急成長させた。今では個人YouTuberの世界トップ50位に入るほどのクリエイターとなった。
そんなDreamがどういう風に人気になったのか?実は2014年にYouTubeを始めたが、動画投稿は2019年から本格的に配信し始めた。それまではDreamは色んな本やクリエイターの動画を見て、YouTubeのアルゴリズムを研究していた。YouTubeのアルゴリズム、Minecraftでのコーディング、そしてどう人気YouTuberになるかと分かったのが2019年で、そこから動画を出し始めた。
Dreamは2019年7月に久しぶりに動画をアップロードしたが、いきなりバズった。
あえて間違ったアクションや行動をとり、既存のMinecraftプレイヤーをイラつかせるコンテンツだった。似たような動画シリーズを出して、色んなくだらない出来事を配信して、動画をバズらせることが出来た。
そして次の動画シリーズがDreamの最初に爆発させた。Dreamは「trend-jacking」(トレンドジャック)を通して人気になった。トレンドジャックとは今のYouTubeのトレンドしているコンテンツや人物に乗って自分も関連の動画を作ること。去年はDream以外にAirrackはトレンドジャック戦略を通して0から100万登録者を達成できた。
2019年7月にYouTubeの史上トップ個人クリエイターのPewDiePieが数年ぶりにMinecraft動画シリーズを出し始めた。7月以降、PewDiePieはひたすらMinecraft動画を出して、多くの人たちがMinecraftに再度ハマり始めた。色んなMinecraft世界を冒険している最中に、PewDiePieのファンは同じ場所に行きたくて、Minecraft のワールド(世界)を生成する際の基礎として重要な「シード値」を要求し始めた。Minecraftでは全ての世界がユニークに作られている。実際に1,844京(18,446,744,073,709,551,616)の世界がMinecraft上で存在すると言われているが、全てはユニークな「シード値」(ID番号)が存在する。そのため、PewDiePieと同じ世界を体験したい人は、彼がシード値を共有しなければ、基本的に無理だった。
このタイミングでDreamが次の動画シリーズを作り始めた。PewDiePieの配信をベースに彼が冒険していた世界の建物やすべてのものの位置を知ろうとした。DreamはMinecraftエキスパートを数名集めて、PewDiePieの動画配信を見て建物の位置情報を見つけ、それをベースにシード値をコーディングなどを通してフィルタリングして、最後はマニュアルで確認して同じシード値なのかを見つける取り組みを行なった。5日後に本当にPewDiePieのシード値を見つけられた。これは本来あり得ない出来事だった。
この出来事でDreamはMinecraft業界から注目された。あり得ない出来事を成し遂げたと同時に、大人気のYoutuberのコンテンツに絡むことで、一般層からも認知され始めた。この動画シリーズだけで4万人のYouTube登録者を達成した。
そこからMinecraftでの未解決ミステリーを検証・分析・解説する動画シリーズを出したが、これもかなり人気だった。このシリーズの動画はすべて数百万再生回数を突破していて、Dreamのリサーチ能力と解説のクオリティのおかげで業界からは信頼されるMinecraftプレイヤーとして知られる様になった。
未解決ミステリーの動画シリーズとほぼ同じタイミングでMinecraftコーディング動画シリーズをローンチした。Minecraftは色んなカスタマイズが出来る。例えば、Dreamは爆発の衝撃の大きさを通常の1,000倍の力にした。
次にDreamが作った動画シリーズは重要で、友達を巻き込んだ動画だった。Minecraft上で円を作り、Dreamの知り合いや友達を読んで、最後まで円の中に残ったプレイヤーが$1,000もらえるチャレンジ動画だった。
これは過去のnote記事でも書いたように、人気YouTuberのMrBeastと同じ手法の動画。MrBeastと同じように、Dreamは「ジェンガ方式」の動画を作った。
ジェンガ方式とはあるストーリーテリングの方法で、ゲームの「ジェンガ」と似ているためこの名前を付けられている。ジェンガは結果(タワーがバランスを崩して倒れる)が分かっているのに、プレーし始めるとだんだん緊張感が高まるゲーム。パーツを一つずつ抜き取ると、タワーのバランスが弱くなり、「いつ崩れる」のが見たくなる。ジェンガ方式の動画も同じく、結果が知っていても、最後まで見たくなるコンテンツ。
さらに友達を巻き込むことによって、Dream以外のキャラクターや関係性が見え始めるので、よりDreamを好きになるファンが増える。さらに友達の動画にDreamが出演するので、認知にも繋がるチャンスでもあった。これは後にDreamの超人気シリーズとDream SMPにとって重要な要因になる。Dreamとしてはこの動画シリーズが他の動画と同じ、場合によっては他の動画シリーズ以上の人気を得たことに安心していた。この動画をきっかけに次の動画シリーズが確定した。
次には過去の二つの動画を統合したコンセプト、コーディングチャレンジ動画シリーズを作った。ここでは何か難しいハンデなどを持ちながらゲームをクリア(ボスのエンダードラゴンを倒す)する動画シリーズを作った。ここではDreamの友達と一緒に行なった。もちろん、これもまた大ヒットしたコンテンツだった。
次に友達をより巻き込む、プレイヤー対プレイヤーのチャレンジ動画シリーズを作った。ここではMinecraft上での鬼ごっこなど、色んなミニゲームを友達と一緒に遊んだが、これもまた成功した。
過去の動画シリーズを統合してDreamを世界的に有名にさせたのは次の二つの「Speedrunner」動画シリーズ。「Speedrun」とはゲームを出来るだけ早くクリアすること。当時はIlluminaHDというMinecraftプレイヤーが32分37秒の世界最速記録を持っていた。これを超えるのを目標としてDreamは2週間ほどトレーニングを行い、2020年3月に世界記録を更新した。その動画が成功したおかげでMinecraftのspeedruninngカテゴリーが生まれた。
1週間後にはIlluminaHDはDreamの記録を更新して、そこから何回もDreamや他のプレイヤーが更新し続けられた。幾つかのDreamの動画でイカサマした疑いもあり、Dreamも一部それを認めているが、ここでDreamはMinecraftの能力が爆発的に成長した。これが次の「Speedrunner」動画シリーズをさらに人気にさせるようになる。
Dreamの二つ目の「speedrunner」動画シリーズは「speedrunner vs」という、友達を巻き込んだチャレンジ動画だった。過去のSpeedrunner動画と同じく、Dreamはゲームを出来るだけ早くクリアするのが目的だったが、それを友達が妨害・止めようとする動画シリーズだった。初期は1対1で始まったが、徐々にエスカレートして、最近ではDream一人に対して彼を止めようとする友達が5人集まる、1対5の動画だった。
そもそも2対1でも、3対1でも普通に戦っても勝てない状況なのに、5対1の状況でDreamが勝てたのは、色んなトラップや戦略を練ったから。このおかげで、DreamはMinecraft上で最も強いプレイヤーなのではないかと言う人が多くなった。ちなみに5対1の動画は二つあって、1回目の動画は5,200万再生回数、2回目は3,100万再生回数ある、超人気コンテンツ。
そんな人気コンテンツを作り続けたDreamは実はもう一つ大きなヒット作品を作り、これは彼以上にプラットフォーム・IPに進化した、次世代マーベルの始まりだった。それがDream SMP。
Dream SMPの正体
今まで色んな動画シリーズを作っていたDreamからすると、もう少し気晴らし出来る動画も作りたかった。同時にMinecraftの新バージョンを試すことが出来なかったので、2020年4月24日にDreamとDreamの知り合いはMinecraftサーバー「Dream SMP」を立ち上げた。これはただゲームを冒険する、カジュアルな場所で、友達と一緒にビルを作ったり、新しいMinecraftを楽しむサーバーのはずだった。実際に以下が紹介のライブ配信の映像。
色んな建物を作ると同時に、友達や知り合いを数名サーバーへ招待し始めた。数ヶ月経って、2020年7月にDream SMPの今の姿を作らせるきっかけとなる二人を招待した。
Dream SMPの始まり
まず7月4日にジョインしたTommyinitさん(通称:Tommy)。TommyはMinecraft業界ではまだ超人気プレイヤーではなかったが、急上昇中の人だった。彼は色んなところでカオスを作るのが上手く、Dream SMPにジョインしてからもそれは変わらなかった。今までのDream SMPは割と平和な環境で、プレイヤーを殺したり、建物を壊すのは基本的に禁じられていた。Tommshefは初日からルールを全て無視して、物を盗んだり、プレイヤーを殺したりした。1日目から刑務所に入れらたw。
Tommyさんはカオスを作ったおかげで、新しいストーリーが作られた。TommyさんはDream SMPの他のメンバーを採用して軍隊を作り、戦争を起こした。ジョインしてから1週間も経たないうちに今まででは誰も経験したことのないドラマを作った。
Tommyさんがジョインした1週間後に、Wilburと言うメンバーがDream SMPに招待された。彼が入った時に、Tommyさんの行動などを見て、Dreamに一つの提案をした。それは、このDream SMPをドラマ化して、一部のストーリーを台本化しないかと提案した。重要なポイントは事前に考え、そのためのセット制作などはDiscordグループにて管理されるようになった。元々はDreamとWilburだけで行なっていたのは、今では数名Dream SMPのライターとなっている。これからが本当のDream SMPの始まりとなる。
Dream SMPの構成
Dream SMPは30人以上のキャラクター・Minecraftプレイヤーが存在する世界。各プレイヤーは自分なりの考えやビジョンを持っていて、各プレイヤーの行動によってストーリーが作られる。TommyはWilburとTommyの友人と組んでDream SMP内で国を作り、独立宣言をして、その独立宣言に反対する人たちと戦争を行なったり、独立に成功したときに選挙を行なったり、後にTommyさんが自分の国から追い出せられたりする、友情、裏切り、政治、戦争などGames of Thrones的な要素たっぷりのストーリーが一つのMinecraftサーバーで行われている。しかも各プレイヤーが自らライブ配信などを通して自分の視点や考え方を話しながら進めるので、自分たちのファンをより大きな世界(Dream SMP)に巻き込み、個人を超えたプラットフォームを作っていた。
全員同じタイミングでライブ配信はしてなく、参加したいタイミングで配信するようになっている。Tommyさんは一時期ほぼ毎日配信していた。どのタイミングで誰がログインするか分からないので、秘密の会議をしている間に違う人がサーバーにログインすることもあるので、ゲームの機能を上手く活かせている。ゲームでしかあり得ない音声の使い方もしている。例えば同じ部屋にTommyさん、Wilburさん、Dreamさんがいても、TommyさんとWilburさんだけの音声チャネルを開いて会話が出来て、必要な時だけDreamさんを入れることができる。
そもそもDream SMPは非常に大きな世界でもあるので、色んな隠れ場所を作ることが簡単。全員に居場所も把握しにくい中、いつ配信・ログインするか分からない、そして音声のプライベートチャネルも作れるとなると、簡単に秘密会議やクーデターなどの戦略会議が可能になる。
上記マップの赤く囲まれている「L’Manburg」がTommyさんやWilburさんなどが独立された国で、独立させた後にWilburさんが自分がL’Manburgの大統領として自分を任命したが、それだと本当にL’Manburgの市民から支持されないと感じて、選挙を行うことを発表した。その選挙で4つの党が現れて、L’Manburgの市民及び視聴者が投票権を持っていた。
この選挙などの大きなストーリーのターニングポイントは事前に台本に書かれていたが、Dream SMPの面白さは台本通りにいつもストーリーが進まないこと。台本はあるものの、台本を知っている人が限られていて、大きなイベントしか計画していない。場合よっては数ヶ月前から計画しているものもあるかもしれないが、その間の各プレイヤーのアクション、思い、発言は全てアドリブで行われている。実際にL’Manburgの選挙も元々3つの党での選挙を予定していたが、途中に一つの党の副大統領候補者が寝坊でログインしなかったため、色々喧嘩になり、4つ目の党が急遽作られ、その党が選挙に勝った。予定通り行かないからこそ、常にDream SMPではオーディエンスを引き寄せるドラマを作れる。
さらにDream SMPはより緊張感をもたらすために、ユーザーに3つのライフを与える。Minecraftでは他のプレイヤーを殺したり、高いところから落ちて死んだり、色んな形で命をなくすことが出来る。ただ、ゲームなのでもちろん何もなかったように生き返られる。それだとストーリーを変にハックするプレイヤーが出てくると思い、Dream SMPではストーリーの中でもしライフを3回落とした場合、生き返ってこれないルールを作った。実際にそれでWilburは「死んで」、サーバーにWilburとして戻ってこれないようになっている。Wilburは逆に数ヶ月前から幽霊として出演しているが、幽霊なので特に物を動かしたりすることが出来ない。今ではDreamもライフが一つしか残ってないので、何かが起きた場合に二度と戻ってこれないかもしれない。
そしてDream SMPでさらに面白いのはDream自身の役割。1年以上前にDream SMPストーリーがスタートして、どちらかというとTommyさんが主役っぽいキャラクターになっている。逆に圧倒的なMinecraftスキルと権力を持っているDreamは悪役っぽいキャラクターとして見られている。Dream SMPを作ったキャラクターでもあるので、彼がDream SMPをコントロールするのを嫌がって反乱する人も多い。実際に以下関係図を見ると、Dreamは敵が多いのが分かる。
Dreamはわざとこの役割を演じていると思われる。実際にTommyさんが自分が作った国のL’Manburgから追い出された際に、Dreamが監視役になり、Tommyさんが閉じ込められていた場所で作った建物や私物を撮り続けた。そしてTommyさんが友達と会いたくてパーティーを開催したいと言って時に、Dreamは賛同すると言いながら、招待状をTommyさんの友達に渡さなかった。Tommyさんはその影響で悲しくなり、絶望的な状況に陥った。
特に今年の初めにDream SMPの「arc」の終わりにDreamが自分の悪役の招待を見せた時は、凄かった。
自分のサーバーなのに、自分が悪役のポジションを受け入れるのはDream SMPのストーリーとして非常に重要だった。明確な悪役があるからこそ、よりストーリーにプレイヤーやファンがコミット出来る。
Dream SMPの実績
今ではTwitterトレンドになるほど人気なDream SMPは大体複数人のライブ配信で合計100万人の視聴者が現れる。そのほとんど(60万人ぐらい)がTommyさんの配信を見ている。そして2020年5月以降、「Dream SMP」が含まれる動画は合計20億再生回数を達成している。ただ、Dream SMPは数字だけではなく、色んな観点で面白い、参考にするべきコンテンツ・IPでもある。
ストーリーのスピード感
アニメやマンガは全体のストーリーの中に複数のミニストーリー・章があり、それをアメリカでは「arc」と呼ぶ。例えばDream SMPではL’Manburgの独立が一つのarcになっている。今では5つのarcが完了して、6つ目のarcが進行している。以下はDream SMPのarcのタイムライン。
ここで重要なのは、これだけの短期間(1年ちょっと)でとんでもないほどのコンテンツ・出来事が行われたこと。マンガやアニメは週毎に配信するのと違って、Dream SMPは一時期毎日コンテンツを配信していた。そうするとストーリーのペースが圧倒的に早く進む。Dream SMPの1年で5〜6個のarcのペースと人気マンガのナルトを比較すると違いが分かる。ナルトは合計30〜40個ぐらいのarcがあると言われているが、それを全て出すのに15年かかっている。そうすると1年間で平均2〜3個のarcしか見せられないので、Dream SMPはマンガやアニメの倍のスピードでストーリーテリングを行なっている。
ストーリーのペースが高いほど、ファンはライブで見なければいけないプレッシャーを感じる。配信を見なかった場合、配信した後や次の日に友達と会話・ゴシップが出来なくなってしまう。大体Game of Thronesや人気ドラマが配信されたその次の日には色んな人がそのドラマについて話し合うのが普通(日本だと半沢直樹とかで似たような現象が起きた)。それが週毎ではなく、毎日のように行われた場合、Dream SMPを話すのが普通になり、そうするとDream SMPが文化の一部になる。頻繁に配信するおかげで、Dream SMPは若者層の文化に入り込むことが出来た。
Dream SMPのファンフィクションとコミュニティ
Dream SMPの凄さはプレイヤーが配信した後に行われる現象。一部はゴシップや友達間での会話だが、それ以上にDream SMPはとんでもなく大きなUGCファンコミュニティを作ることが出来た。Dream SMPは色んなプレイヤーが自分の視点から配信するため、全体のストーリーの把握が難しい。そのため、多くのファンは自ら全体を把握しやすいようにまとめコンテンツや解説コンテンツを作る。万が一配信を見逃した人たちがキャッチアップ出来る様にしたり、全くDream SMPを知らない人向けにストーリーを解説する人もいる。実際に今回の記事を書く時に非常に参考になったのはこちらの動画。
このEvanMcGamingさんは忠実にDream SMPのストーリーのナレーションをしてくれる。何ヶ月間もかけて、今ではDream SMPの動画を7つ出している。しかもストーリーを作るために、ただTommyさん、Dreamさん、他のキャラクターのライブ配信動画を使うのではなく、かなり凄いことを行なった。知り合いのMinecraft YouTuberのLordKanterさんがDream SMPの世界(建物など)を完全再現したので、それを使える許可をもらった。実際に以下動画でLordKanterさんがDream SMPの再現方法を教えるチュートリアル動画(パート1)。
再現したDream SMPを活用してストーリーのシーンを別の角度から見せたり、よりナレーションに合うカットを作ることが出来た。ちなみにEvanMcGamingさんはまだ16歳。彼こそ次世代クリエイターでもある。
Dream SMPのストーリーのまとめや世界を再現するだけではなく、色んな形でファンたちは愛情表現を行なっている。ファンアートは非常に人気で、Dream SMPキャラクターの感情を表現したり、関係性を表すアートを描く人も多い。
ファンフィクション(テキスト)も非常に人気。ファンフィクションサイトのWattpad上で「Dream SMP」関連のストーリーは3.4万作品ある。そのほかに歴史やファクトを集めるwikiページもかなり細かく作られている。
Dream SMPのストーリーは人気すぎて、あるファンがミュージカルにした。
しかもファンのコンテンツ制作に対して、Dream SMPメンバーはちゃんとコメントやリアクション動画を作っている。例えば以下はDream SMPのアニマティックを勝手に作ったファンに対して、Dream SMPメンバーがリアクションしているまとめ動画。ちなみに、この動画のDreamの表現の仕方が面白すぎるw。
こちらがDream SMPメンバーのリアクション動画。
まず、このファンが作った動画にめちゃくちゃ凄い。細かいストーリーのニュアンスやアニメーションの仕方が本当に凄い(ちなみに音声は実際のライブ配信していた時のキャラクターの声やセリフからとっている)。そしてこの動画をDream SMPメンバーがリアクションしてくれるのは、動画制作者にとって感動的な瞬間。そして同時にリアクション動画を見た他のDream SMPファンは、自分もこのファンコミュニティに貢献するともしかしたらDream SMPメンバーたちに評価されるかもしれないと思い、よりコミットするようになる。こうやってDream SMPがライブ配信からストーリー・IP化、ファンコミュニティ化、そして最終的には一つのマーベル的なユニバースになる。
ゲスト出演
ドラマや映画が人気になると、セレブたちが出たがるようになる。ジェームズ・ボンドを演じるあのダニエル・クレイグさんもスターウォーズの出演依頼をお願いして、顔を出さないストームトルーパーとして出演した。
それだけ有名な作品の場合、誰もが出演してたと言いたくなる。マーベル映画はコミック発行責任者で多くのキャラクターを作ったスタン・リーがどこかのシーンで現れるので有名。
マーベルではイーロン・マスクやマイリー・サイラス、Game of Thronesでは元大統領のジョージ・W・ブッシュやエド・シーラン、そしてLord of the Ringsではスティーヴン・コルベアなどが出演している。
このような現象がDream SMPでも起きている。人気FortniteプレイヤーのNinja、Twitch配信者のPokimaneやCorpse Husband、人気YouTuberのKSIやMrBeast、そしてLil Nas Xまでゲスト出演している。
以下はNinjaのDream SMP出演。
そしてこちらがLil Nas Xの出演。
ほとんどのゲスト出演ではDream SMPのメンバーがツアーをしてくれて、人によっては一緒に何かしらのプロジェクトやイベントを実施する。NinjaはDream SMPメンバーと結婚式を行なったり、Corpse Husbandは歌のコンペを開催したり、Lil Nas Xはツリーハウスを作った。そしてMrBeastはMrBeastらしく、Dream SMP内に$100K分のギフトカードを隠して、それをDream SMPメンバーが探しに行く宝探しを実施した。
Dream SMPの素晴らしさはストーリーでもありながらゲームプラットフォームなので、スターウォーズやマーベルみたいに無理やりストーリーの中に組み込む必要はなく、MrBeastとの取組みたいにストーリーとは関係ないイベントなどで出演させるのが可能。これによってよりフレキシビリティを持ってゲスト出演を受け入れられる。
Dream SMP = 次世代マーベル
Dream SMPは色んな形でマーベルと似ている。まず、マーベルと同じように、各キャラクターには自分自身のストーリーがある。マーベルではそのキャラクターが主人公となる映画やテレビドラマでキャラクターを見せているが、Dream SMPでは各メンバーのDream SMP以外の配信がある。Dreamだとspeedrun動画などを通して自分の性格やストーリーを作っていて、Tommyさんも他のMinecraft動画を配信している。マーベルでは色んなキャラクターを同じ世界・ユニバースの中に存在していて、そこから生まれたのがアベンジャーズ。Dream SMPの場合は色んなメンバーがDream SMPというMinecraftサーバーに集まって、更なるストーリーを作っている。そしてマーベルが無名IPのガーディアンズ・オブ・ギャラクシーを人気にさせたように、Dream SMPも新しいクリエイターを爆発させるプラットフォームになっている。Minecraftで急上昇し始めたHannah Roseさんは2021年1月にDream SMPに誘われたが、当時はまだ9.5万人のYouTube登録者しかいなかった。2021年1月に最初のDream SMP関連の動画をアップした際に、その動画が100万再生回数をすぐに突破した(今では300万再生回数を超えている)。
Hannahさんからすると、初の100万再生回数を超えた動画だった。そしてYouTube登録者は3ヶ月で30万人増えて、半年後では50万人以上増えて、今となって60万人以上のYouTube登録者を抱えている。TikTokでも170万人フォロワーが増えて、Twitchでは63万人増えた。
ただ、Dream SMPはマーベルの進化版だと思う理由は、女優や俳優などハリウッドスターではなくクリエイターを活用していることが大きい。クリエイターはハリウッドスターよりも若者層にとってセレブでありながら親近感もある、かなり特殊な人たち。しかもマーベルと違って台本通りにほぼ全てセリフが用意されてなく、クリエイターのクリエイティビティを信じてアドリブでストーリーが作られる。これはクリエイターのスキルセットへの賭けでもあるが、考えるとIP・コンテンツのスケールする一つのあり方でもある。映画だと限られた人たちの(映画監督、脚本家)のクリエイティブビジョンで成り立つが、クリエイター自身は自分のコンテンツを成り立たせるために自分で監督、脚本、主演を演じている。それを複数人のクリエイターが協力して一つの大きな世界を作ることに合意させたのがDream SMPの凄さである。これはクリエイターとしても、個人からプラットフォームへとスケールする方法でもある。
不思議とエンタメ業界はDreamを知っていても、Dream SMPの凄さを語る人が少ない気がする。今後どんどんDream SMPのIPがメインストリーム化すると変わるかもしれない。
ビデオゲームを通してストーリーテリング
今後の人気IPやストーリーテリングはゲームやファンと一緒に作れるフォーマットから生まれるのかもしれない。Minecraft上でIPを作るのは時間はかかるが、コスト的に考えるとメジャーな映画やテレビシリーズを作るより遥かに低予算で作れる。しかも世界を作るのもコンテンツとして配信できる。そしてファンとのインタラクションから生まれるコミュニティやコンテンツも重要となる。最近マーベルもファンフィクション的なコンテンツを正式にリリースすることを発表した。マーベルはアニメシリーズを作り、そのコンセプトは「What if?」、もしも今までのマーベルストーリーが少し違かったら、世界はどう変わっているかを見せるシリーズ。これはファンフィクションが考える発想と似ているのと同時に、マーベルの複数のユニバースや時間軸があるマルチバースコンセプトにフィットしている。
さらに毎日配信するため、よりキャラクターの性格がわかり、親近感を作りやすいため、友達のように一緒に過ごしたくなる。Dreamの場合は自分の顔をそもそも出さないので、ゲームキャラクターにより親近感を持つ人がいる。ゲーム配信しているクリエイターの方がハリウッドスターよりもファンとの関係性作りがうまい。去年のコロナ期間でも多くのハリウッドスターがYouTubeチャネルを始めたが、ほとんどが上手くいかなかった。それと比べて自分の気持ちをリアルに語りながらゲームなどを通してエンタメを提供しているクリエイターからすると、Minecraftやゲームがネイティブチャネルである。
さらに多くのクリエイターはマルチチャネルで自己表現を行っている。Dream SMPを配信しているのは主にTwitchかもしれないが、そのまとめ・ハイライト動画をYouTube、愚痴を話す場所をTwitter、自慢する場所をInstagramなどと色んなチャネルを通して自分の性格を自然と出している。
Dream SMPはリアリティ番組と似ているが、ゲームだからこそ今までのリアリティ番組ではあり得なかったことが出来る。ゲームのキャラクターだからこそ相手に暴力を振ったり、殺したり、ゲームだからこそ戦争の宣言をすることが出来る。バーチャルな空間だからこそ、クリエイティブの制限が削減され、色んなストーリーを作ることが可能になる。これは映画業界でCGIが導入されたと似ている状況かもしれない。
ファンインタラクションのソフトウェア化
このように複数人のクリエイター集まり、それぞれの個性やクリエイティビティを活かしながら大きなストーリーを伝えて、同時にファンとのエンゲージメントを作れるプラットフォームが重要になってきている。そんな中でファンとのインタラクションをソフトウェア化した会社がいる。
有名なeスポーツチームのTeam Liquidは世界トップクラスのeスポーツ選手を集めている。各eスポーツ選手には大きなファンベースがいるものの、それがTeam Liquidのチームとしての人気に必ずしも繋がらない。それを解決するためにTeam Liquidは自社のファンインタラクションソフトウェア「Liquid+」を開発した。まずはポイントシステムを導入して、ファンがTeam Liquidの選手やチームについてSNSで投稿したり、Team Liquidの投稿にコメントすればポイントがもらえるようにした。そのポイントを活用して、ファンはTeam Liquidが特別に提携したゲームパソコンのAlienwareやゲーミングチェアを作るSecretlabsからディスカウントで商品を購入できたりポイントを使ってTeam Liquidの開発チームに対してピザを奢れる制度などを作った。
これによって、ユーザーがLiquid+に参加する理由を三つ与えた。まずはポイントを活用して自分のために商品を安く買えること。そして次に上記写真のように、いつからファンだったのかを見せられるので、ファンコミュニティ内でのステータスを見せられる。特に初期ファンにとっては、自分が初期ファンであることを正式に認めてくれるのは非常にプライドを持てることでもある。そして最後に、Team Liquidを支えるチームをファンがピザなどを購入してサポートできること。これはファンとしてはTeam Liquidの成長に自分たちも貢献していると感じられるようになるので、よりTeam Liquidを応援したくなる、コミットするアクション。将来的にはファンの名前をTeam Liquidの選手のユニフォームに付け加えるなど、よりファンが選手やチームと関係性を作れる制度を試す予定。
そしてLiquid+では試合やコンテンツをリリースするスケジュールや、好きなプレイヤーのパフォーマンスをトラッキングできる機能が含まれる。Team Liquid曰く、ポイント制度などインセンティブが含まれるコンテンツの視聴者数は通常のコンテンツよりも少なくとも20%上がった。
そして4万人もLiquid+にいるファンからすると、自分の好きな選手以外の選手やチームを知るきっかけとなっている。実際にTeam Liquidのアンケート調査によると、Liquid+のユーザーの8割はプラットフォームを通してよりチーム全体のファンになったと言う。DreamやTommyさんがDream SMPを持っているように、Team LiquidはLiquid+と言うプラットフォームを活用して、全体のブランドを大きくしている。それによって選手に依存しない、持続可能なブランドを作れるようになる。
ちなみにTeam LiquidはLiquid+をホワイトレーベル化して販売するらしい。
コミュニティ・マフィアの活用事例
これをB2Bの文脈で見た場合に、どう考えれば良いのか?過去のnote記事でも書いたことがあるが、C向けのトレンドは大体どこかのタイミングでB向けのトレンドになる。それを考えると、クリエイター社会や複数人のクリエイターが集まってプラットフォーム化する需要が現れるかもしれない。
B2Bだと既に顧客のコアファンを見せる会社は多い。Airbnbだとスーパーホストを本社で表彰したり、大きなポスターを貼っていた時期もある。Slackも顧客の声を集めた「Slack love」のTwitter専用アカウントを作っている。Customer.ioはクライアント先に会社に投資できるクラウドエクイティファンディングの機会を提供。
そして今のアメリカB2B業界では1〜2年前のC向け(D2Cなど)業界と同じように、コンテンツ・コミュニティが重要になっている。著名VCのGreylockのPartnerであるSarah Guoさんが言うには、最近のB2B SaaSスタートアップは営業の採用をする前にコミュニティ・コンテンツ担当者とオペレーション・グロース担当者を採用している。
B2B業界でも競合が増えている中、技術的な優位性が作りにくくなっている。そうすると、どれだけブランド・IPを作れるかの勝負になるので、そのためにB2B企業もストーリーテリングやブランドアフィニティにフォーカスしなければいけなくなる。
そうすると、B2B企業の「クリエイター」とは誰か?もちろん創業者はクリエイターの一人ではあるが、それ以外にはスタートアップの従業員をクリエイターとして見なければいけない時代になってきている。去年あたりからアメリカのマーケティング業界では「ブランドの裏の人間」がキーワードとして飛び交っているが、それがB2B業界でも来るようになると思われる。もしかしたらB2B業界でもPayPalマフィアみたいなメンバーが生まれ、各自でコンテンツを作りながら、一つの大きなプラットフォーム(SaaS)として集まっていて、そのプロダクトやチームの成長がストーリー化され、そこに対してのファンコミュニティにコンテンツ制作やインタラクティブな制度を作ることによってSaaS企業もブランドアフィニティを作れるかもしれない。
Dream SMPはクリエイターのスケール方法
2020年からクリエイターエコノミーは爆発的に伸び始めたが、同時にいつも個人的には個人クリエイターがどうスケールするのかが疑問だった。そんな中、2020年にFaZe Clan、100 Thieves、Dude Perfectなどを見て、なんとなく回答が見え始めた気がするが、このDream SMPでその答えが明確になった。クリエイターは個人からプラットフォーム化することは可能で、それによってコンテンツ制作をしなくなる日が来てもマネタイズが可能になる仕組みを作れる。
ブランドは既にこの仕組みを活用しているところが多い。Pelotonはインストラクターがクリエイターで、トレーニング動画・ライブ配信がコンテンツ。Pelotonを見ると、各インストラクターは違うパーソナリティを抱えながら、PelotonのInstagramでは全員仲良しの写真をアップしたり、「Peloton Family」であることを強調している。それによって個人ではなく、ブランド全体をファンが認知してくれるようにして、ブランド側はクリエイター依存から脱出できる。
Adidasも過去のプロモーションでプロバスケ選手を目指している高校生などを集めて、AdidasがスポンサーしているNBA選手を複数人活用してバスケについて教育する動画を作った。そこでは各NBA選手の性格が出ていたものの、共通の話などがあるためAdidasのスローガン「Brotherhood」がより目立つ。
クリエイターのスケール方法はまたどこかのポッドキャストや記事で描くかもしれないが、このDream SMPが一つ大きなヒントになるのは間違いない。そしてブランドからすると、ブランドアフィニティが今後優位性になる時代が来る。
結論
Dream SMPは次世代ブランドの作り方のヒントになる、非常に面白い事例。B2B企業、C向け企業、エンタメ企業、どんな会社でもストーリーテリングで作られている。ストーリーテリングを上手くするには良いストーリー(プロダクト体験)、良いストーリーテラー(創業者、従業員、ファン)、そしてどうそのストーリーを広げるか(マーケティング)が重要。そんな中でキーワードとして出てくるのは「ブランドアフィニティ」。Z世代は友達になれないブランドからは購入しないと言っているが、それが本当であればブランドが親近感を作らなければいけない時代になったと言うこと。Dream SMPは複数人のクリエイターが非常に面白いストーリーを語りながら、クリエイターだからこそファンと信頼・親近感を作れた、次世代版のマーベルである。そしてDream SMPは良いストーリーを作っただけではなく、そのストーリーがプラットフォーム化して、新たなクリエイターやストーリーを生み出すことが可能な場所にもなった。そしてDream SMPのクリエイター、ストーリー、プラットフォームにコミットしたファンたちはプラットフォームを拡大させるコンテンツを作ることによって、Dream SMPが世の中の文化に根付くことが出来る。皆さんも是非ブランドアフィニティ作りに挑戦していただければと思います!
Written by Tetsuro Miyatake (@tmiyatake1) | Edited by Miki Kusano (@mikikusano)