Discord:何でも想像できる、隠れた世界
読む前に。。。
今回は1年以上ぶりの翻訳記事となります。2020年5月から愛読しているニュースレター「Not Boring」のPacky McCormickさんと2020年8月のスタートから読んでいるニュースレター「The Generalist」のMario Gabrieleさんが一緒に組んでDiscordについての記事「Discord: Imagine a Place」を書いたと聞いたときに、どうしても翻訳しなければいけないと思いました。仲良くさせてもらっているPackyさんにお願いしたところ、快く翻訳許可を頂きました!少し要約する部分もあるかもしれませんが、是非皆さんにもこの大作を共有したいと思いました。
まだNot BoringとThe Generalistを購読してない方は是非チェックして見てください。毎週これから来る企業やトレンドについて深堀している、Off Topicでもよく参考にしている情報源です。
Not Boring:
The Generalist:https://www.readthegeneralist.com/
はじめに
人中心のサイトを想像してください。
流行りのミームがハチミツのように流れる場所を想像してください。
人間とボットは平和に暮らせる場所を想像してください。
上記は全てDiscordの最新広告キャンペーンでフィーチャーされたものである。Discordはユーザーに今までプラットフォームを使ったことない人にDiscordをどう説明するかを聞いたところ、上記のような言葉が出てきた。ここまで面白いサービスの定義が出てくるのは幅広いユースケースとユーザーの愛があるから出てくる発言かもしれない。これはナルニア国をルーシーとエドマンドが説明すること、ハリー・ポッターがウィザードの世界を説明しなければいけなかったり、ネオがマトリックスから出た瞬間を説明するのと似たような文章になる↓
クローゼットを開けたら話せる動物の国があるのを想像してください。
自分の学校に行くために壁を駆け抜けないといけないことを想像してください。
飲むと世界が変わる薬を想像してください。
意外と上記の文章もDiscordに若干当たっているのはDiscordが本当はどのような会社なのかが分かる。Discordはコミュニケーションプラットフォームではなく、隠れた世界なのかもしれない。
Mark Zuckerbergは自分が最もメタバースを作れる立場にいると思うかもしれないが、既にメタバースネイティブなプラットフォームなのはDiscordかもしれない。メタバースのパイオニアたちと言われるゲーム業界向けのプラットフォームとしてまず開発されたDiscordは今では教育グループや投資コミュニティなど幅広いファンコミュニティがDiscordを活用している。そしてNFTなどWeb3世界を作っているデフォルトのプラットフォームにもなっている。
これだけ盛り上がっている会社で何百億円と売上を抱えながら直近で$15Bの時価総額で調達したのに、まだ成熟されたアイデンティティーを持ってなく、今までのSNSサービスとは違ってまだまだ進化する可能性を秘めている。Discordが次の進化をするにはピボットするのに慣れているCEOのJason Citronさんが新しい技術を受け入れたり、違う売上チャネルを検討したり、Web3の世界を取り込まないといけないかもしれない。Discordはメタバースのソーシャルインフラになり得る会社であるからこそ、この会社の可能性は無限大にあると思われる。
そんなDiscordの可能性を知るためには、創業物語、課題、今後の取り組むべきことについて今回の記事でまとめました。以下が話すトピックとなります:
・創業物語:Discordのストーリーは色んなピボットや変化のある中で始まったサービス。
・カオスなプロダクト:特にミレニアル世代にとって理解しづらいプロダクト。
・ユーザーの拡大:元々ゲーマーのツールとして始まったのが、今では幅広いユーザーに使われている。
・遅いマネタイズ:ユーザー数は急成長しているが、ユーザーからのマネタイズは大分遅れている。
・Web3のチャンス:今はWeb3企業のデフォルトプラットフォームになっているが、そのリードを広めるために何が必要なのか。いくつかアイデアがあります。
・オンラインゲームを勝つ:インターネットユーザーの居場所としてどう成立させるのか。
さぁ、サーバーを立ち上げて行こう。
#スタート地点
色んな会社がピボットして成功した中で、最もピボットが上手いのがJason Citronさんなのかもしれない。Jasonさんは実は2回起業して2回ともピボットして成功している。Discordに関してはたまたまPMFを見つけられた。
OpenFeint
始まりはAppleがアプリストアをリリースした2008年7月10日。ローンチと同時に500個のアプリを公開して、その中にパズルゲーム「Aurora Feint, the Beginning」が含まれていた。そのゲームを作ったのは当時23歳だったJason Citronさんと、彼が参加していたインキュベーターのYouWeb。YouWebは元Webvan CTOのPeter RelanさんがY Combinatorとほぼ同じタイミングで設立したインキュベーター。ただYCとは違って参加者を拡大しなく、15年間で30社ぐらいインキュベートした会社。
当時のYouWebのモデルは会社の50%の株を取得する代わりにアイデア、マーケティング、採用周りを支援する物だった。Jason Citronさんが参加したときにはゲーム領域で何かしたいとは思っていたものの、それ以上の考えがなかったので、YouWebはEIRのDanielle Cassleyさんと組ませてAuroraのローンチまで導いた。
結果としては成功した。World of Warcraft的な見た目とテトリスやPuzzle Leagueと似たゲームだったAuroraは初期アプリの中ではかなり人気だった。
アプリのレビューを見ても、「最も楽しかった初期iPhoneゲーム」と書かれていたが、それがマネタイズには繋がらなかった。新しいバージョンのゲームを出したり、値段を$8から$1に下げたりしたが、売上が中々上がらなかった。それにも関わらず、いくつかの機能は可能性があった。特にJasonさんが入れてたチャットルーム、プロフィール、リーダーボード、非同期型のマルチプレイヤーゲーム性などのソーシャル要素はかなり重しく、他の大企業が作ったゲームにはないコミュニティ性がAuroraには存在した。
そこでJasonさんが初のピボットをした。
Auroraの未来について会話をしている中でJasonさんが「誰もiPhone用のXbox Liveを作ってない。Auroraのチャット機能などをスピンオフさせてiPhone版Xbox Liveを作れないか考える時もある。。。とりあえずそれを出して人が欲しいか見ても良いかもしれない。」と言っていた。
Jasonさんは将来どのゲーム開発者もプロダクトにソーシャル要素を入れたがると予想出来ていた。それを全員ゼロから作るより、既に存在するツールにお金を払って開発したがると感じた。OpenFeintという会社名にピボットしてTechCrunchでフィーチャーされた際に多くのクライアント候補先から連絡が来て、この領域は必ず来るとJasonさんは確信した。調達も無事行い、ゲーム間でソーシャルインタラクションを管理できるアプリをリリースして、キャリアのAT&Tと提携して新しいスマホにプレインストールされることにもなった。
そこに興味を持ったのがGREEで、2011年に$104MでOpenFeintを買収し、Jasonさん、そしてYouWeb含めたOpenFeint株主が大金を得られた。
数ヶ月間GREEで働いてから、ある日JasonさんがYouWeb創業者のPeterさんにあるメールを送った。
「帰ってきたぞ。」
Discord
先ほどのOpenFeintの話を聞くと、Discordの話が同じような流れに聞こえる:
ある若手起業家がインキュベーターに参加する。ビジネスプランは特にないが、ゲーム領域で何かすることを目標にする。素晴らしいマルチプレイヤーゲームを作るが、大きなファンベースを抱えられず、PMFを探すためにインフラになる機能を見つけてそれが成功する。
OpenFeintの物語はDiscordと同じ物語。今回はより良い条件をJasonさんはYouWebのPeterさんと交渉して、Phoenix Guildというゲームを作ることを決める。すぐに名前をHammer & Chiselに変えるが、JasonさんのOpenFeintの成功もあったおかげで$1.1Mのシード調達と$8.2MのSeries A調達を無事行う。Series AラウンドはJasonさんの2013年のTechCrunch DisruptのDemo Dayのプレゼンに惹きつけられたBenchmarkのPartnerだったMitch Laskyさんがリードした。
Hammer & Chiselは2014年にタブレット向けのバトルアリーナゲーム「Fates Forever」をローンチしたが、思ったほど成功しなかった。OpenFeintでも行ったように、Jasonさんはゲーム内にコミュニケーション機能を組み込んでいた。
Jasonさん曰く、ゲーム前、ゲーム中、ゲーム後にプレイヤーが集まれるサービスにチャンスがあると思ってはいたが、上手くいくかどうかは正直分からなかった。
そこでJasonさんはまたピボットすることを決断する。
どうピボットするかを考えていた際にCTOのStan Vishnevskiyさんが「もうモバイルゲームは作りたくない。チャットサービスを作ることを社内でも言っていて、それについてアイデアがある。」と発言して、そこから数ヶ月間Hammer & Chiselチームはゲーマー向けのチャットサービスを開発した。アイデアとしては常にオンになっている電話会議、ゲームのプライベートカフェだった。
2015年にDiscordというプロダクト名でリリースしたが、全く反応がなかった。数十人が毎日活用していたが、特に成長する感じではなかった。当時はTeamspeakやSkypeなどゲームコミュニティが活用していたツールはあったが、競合の力というよりは初期ユーザーの信頼を勝ち取るまで認知されてなかったのが問題だと気づいた。
転換期はReddit経由で訪れた。DiscordチームがFinal Fantasyのsubredditメンバーと繋がっていて、そこでDiscordをメンションしてくれないかとお願いした。Jasonさん曰く、そのメンバーは「Discordという新しいボイスチャットアプリを知っているか?」と書いたらしい。
そこで数名のRedditユーザーが会話に入り込み、Discordを活用してDiscordの開発チームと試しに話した。そこで一人のユーザーが「あのチームの開発者とさっきDiscord上で話したけど、めちゃくちゃイケてた。これは要チェックなアプリだ。」とフィードバックした影響で、一気にユーザーが入り込み始めた。Jasonさん曰く、その日がDiscordの本当のローンチ日だった。
そこから今となっては急成長し続けたDiscordは1億人以上のユーザーがいて、$1B弱の合計資金調達額を達成。それ以上にゲームカルチャーを取り入れながら、エバンジャライズしたのが凄いかもしれない。
#プロダクト
Discordはゲーマーがゲーマー向けに開発したプロダクト。もちろんコロナ期間からゲーマー以外のユーザーを受け入れていたが、未だにゲーム色はかなり強いため、一見ゲーム関係者以外の人からすると難しいプロダクトに見える。自分もテクノロジーにある程度慣れている人と思っているが、Discordサーバーほど歳を感じさせるものは中々ない。時間を重ねてようやくDiscordという言語を学び始めたので、今回はDiscordのプロダクト解説・翻訳をさせていただきます。
QuartzはDiscordを既存のサービスの組み合わせたものとして比較した:「DiscordはSlack、AOLメッセンジャー、Zoom、ちょっと怪しいチャットルームを掛け合わせたもの。」
PCGamerはDiscordでユーザーが(無料)出来ることをリストアップして説明した:
Discordは無償で以下のことが可能:
・時間が無制限でほぼラグがない高クオリティの音声で何人の友達と話せる
・ラグがほぼなくツークリックでサーバー内でゲームのライブ配信ができる
・複数の配信を見ながら各配信のボリュームコントロールが可能
・何年分もデータも保存してくれる無制限のテキストチャットルーム
・友達と小さめのファイルを共有
・音楽を流すなどボットを入れ込む
・動画配信やスクリーンキャプチャ含めて全てスマホでできる
Discord本体としては既存のツールや機能などで説明するより自社のプロダクトをユーザーにどういう場所か想像するようにお願いした。
Discordは自社プロダクトを白紙のキャンバスとして見て欲しいからあのような初期ブランドマーケティングキャンペーンを行った。ユーザーはその白紙のキャンバスで思い描くデジタルスペースを作れる場所に出来るようにしていて、実際にそういう場所になっている。
コロナ期間中には様々なユーザーがDiscordに群がり、Discordのチャット機能、高クオリティの音声や動画チャット、プライバシー、直接繋がれる機能、そしてSlackと違って無償なサーバーに需要を感じた。
会社としてもちょうど良いタイミングでゲーマー以外の層にオープンになった。そしてどのコミュニティもコロナによってオンラインに移らないといけなくなった際に、二つの選択肢を迫られた:
・1ユーザーあたり毎月$6.67支払ってSlackを使う
・Discordサーバーを立ち上げて無償で誰でも招待できるようにする
オプションを見ると、当然ながら二つ目を選ぶコミュニティが多かった。Discordとしても想像しなかったユーザー層も集まり始めた。
2019年に記者のTaylor LorenzさんがThe Atlanticの記事でインフルエンサーがDiscordに群がり始めたことを書いた。FacebookやTwitterのアルゴリズムベースのフィードがミドルマンとして邪魔されるのではなく、直接ファンと話せるDiscordサーバーを立ち上げるインフルエンサーが増えてきたと記載した。ForbesによるとそのThe Atlanticの記事を読んだDiscord創業メンバーのJasonさんとStanislavさんはゲーマー以外の領域に広がり始めたことについて驚いてたとのこと。
ピボット経験者の二人は、この新しいユーザー行動を調査することにした。Discordがコミュニティに23問アンケートを送った際に、Discordユーザーの3割以上が主要目的はゲームではないことが判明した。そのユーザーたちはブッククラブ、友達のグループチャット、ファンコミュニティ、そして会社の社内コミュニケーションとしても使っていた。Discordはインターネットのサードプレイスになり始めていた。
これを理解したJasonさんとStanislavさんはすぐにこの情報を活用してよりユーザーにアットホーム感を与えるために会社のミッションを更新した。ゲーマー中心のコミュニティを作るミッションから、誰でも親密な関係性を作れる力を提供するミッションとなった。
さらにブランドとホームページも進化させた。
そこで会社初のブランドマーケティングキャンペーンの「Imagine a Place」を5月にローンチ。
少しペースが早くて分かりにくい動画に見えるが、Discordの雰囲気も上手く捉えたものでもある。
一見DiscordはSlackに見える。各コミュニティのスペースをサーバー毎に分けて、各サーバー内ではチャネルで分けられている。中にはボイスチャネルもあり、さらには25人まで動画通話も出来る。そのボイスチャネル自体は常にオンになっていて、ユーザーは自由に出入りできるスペースとなっている。
サイドバーには簡単にユーザーが参加しているサーバーを見れるようになっている。色んなサーバーに入っていると未読のメッセージの数字がPackyさんのように増えていくので、少し圧倒されるユーザーもいる。
Discordを始めるのは簡単。各サーバーはユニークなURLとなっている(discord.gg/サーバー名)、そしてそのURLをユーザーは自分のTwitterプロフィール、subreddit、チャットなどでシェアする。「Join the Discord」はYouTubeで言う「登録してください」と同じ。
ユーザーも簡単にジョインできる。Discordアカウントを作成すると、様々なサーバーにアクセスできる。Slackは一つのコミュニティ毎のスペースとして作られていて、新しいSlackワークプレイスに招待されるとメールを再入力して登録フローをやる必要があるが、Discordは違う。Discordユーザーはサーバーからサーバーへの移動が簡単で、さらに他のDiscordユーザーへのDMまで簡単。
これがSlackとのもう一つの違い。Slackでは一つのワークスペースコミュニティ内だとDMし合うことができるが、Discordだと相手のユーザー名さえ知っていればお互い同じサーバーに入ってなくてもDMが可能(DMを受け入れる設定にしていれば)。これは一見大きな違いに見えないが、実はすごいこと。Discordはこの機能によって組織内の活性化だけではなく、そのサーバーの上にもう一つソーシャルレイヤーを加えている。ユーザーとしては自分のコミュニティの中でコミュニティらしい話をしながら、全く別の場所で直接友達と違う会話が可能になる。
そしてDiscordはこのソーシャルレイヤーを加えながら他のSNSっぽい機能を捨てている。フォロワーやフィードの概念がないので、アルゴリズムも存在しない。ユーザーは課金していればサーバー毎に違うアバターを表示できるが、それ以上ソーシャルキャピタルを得られる手法はあまりない。
さらにDiscordのチャット機能とソーシャル要素の構成以外に面白いところがボットのエコシステム。2020年のDiscordブログによると300万以上のボットが作られていて、複数のボットは数百万以上のサーバーで使われている。比較するとSlackのアプリエコシステムでは2,400個のアプリを抱えている。もちろん多くのボットはかなり特定のユースケースだったり一時的な物だったかもしれないが、これだけのボリュームの差があるのは気になる。
ボットの種類は多種多様で、Memeを送るものもあれば、YouTubeやSoundcloudの音楽を流すものもあれば、モデレーション用のボットもある。
MEE6は特にモデレーションボットとして人気。1,400万以上のサーバーで活用されていて、カスタムウェルカムメッセージを作れたり、悪質なユーザーを取り除いたり、コミュニティの役割をユーザーに割り振ったり、より参加するユーザーにXP(経験値)を提供するボット。
よりクリエイティブなボットも存在する。IdleRPGはサーバーに組み込まれるとコミュニティメンバーがチャットのコマンドでRPGゲームを遊べる。さらにDiscordのボットエコシステムはクリプト領域にも拡大している。例えばCollab.LandではNFTや特定のトークンを持つとプライベートチャネルにアクセス出来るボットなどではクリプト業界にとって欠かせないもの。それ以外にクリプト投げ銭を可能にするTipやクリプトリワード付きのRPGのPiggyなどが面白い事例。
もちろんユーザー目線からすると面白みや機能面の拡張としてDiscordのボットエコシステムは重要だが、会社としてはボットは優位性作りのために存在する。Discord APIの上で多くの開発者にアプリ開発させることによって、色んなコミュニティに対応してロックインさせることができる。例えば今からDAOを始めたとすると、Collab.Land、MEE6、Tipなどのボットが含まれるDiscordを選ぶ確率が高い。他のコミュニティツールでは存在しないツールがあるからこそ、Discordは人気になる。
Discordはここにより投資をしなければいけない。2020年によりボット戦略にフォーカスすると発表したが、ボットのディスカバリー、マネタイズ、そして利用率を上げる施策を打たなければいけない。それを実現するためには、Discordはボットストアを作る必要がある。
今だとボットを探すにはとりあえずGoogle検索するか、ゲームのハイライト動画などを配信するMedalが抱えるDiscordディレクトリーのTop.ggに行くのがベスト。別のスタートアップがこのサービスを提供するほどディスカバリーが需要があることを証明している。ボットストアを作ればDiscord内でボットディスカバリーが始まり、ボット開発者にも自分たちのボットの見せ場も出来上がる。他のアプリストアのオーナーと同じように、Discordは今後期待のボットをよりフィーチャーすることもできるようになる。
そしてデータが集まるとレコメンドを通してボットディスカバリーを強化できる。クリプト系のサーバーを立ち上げた人に対してCollab.Landや類似ツールをオススメできる。
開発者がDiscordでボットの販売なども可能になると、より開発者・クリエイターを招くことが可能になり、それによって新しいグロースサイクルが出来上がる。Discordは人気・注目しているボットをフィーチャーして、そのボットを見たユーザーが使い始めて、ボットクリエイターはお金儲けして、その成功を見て新しいボットクリエイターが参加して、Discordのプラットフォームを強化して、強化されたプラットフォームがより多くのユーザーを引き寄せて、そのユーザーたちはより多くのボットを求める。
ボット戦略によってDiscordは本来ビジョンに掲げていたゲームストアみたいなプラットフォームになるかもしれない。今ではDiscord内だけではなく、Discordの上に新しいプロダクトが作られている。例えばStirの新プロダクト「Newsroom」ではDiscordのカオスになりがちなサーバーを綺麗なUIで表示している。
Discordをリプレイスするのではなく、改善してDiscordに慣れてないユーザーに対して新しい形でDiscordの強みを紹介してくれている。起業家が競合サービスではなくそのツールに連携したり相補するツールを開発するのは、最もDiscordがプラットフォーム化している証拠かもしれない。このトレンドはさらに続きそう。今ではDAOのオンボーデイングツールを開発する起業家も増えている。
Discordとしてはこのようなツールとの連携をシームレスにして、ボットストアを拡張してDiscordアプリケーションのエコシステムを広げるとリプレイスしづらくなる。Discordチームとしてはもちろんコアプロダクト自体は強化するのも重要だが、周りの開発者エコシステムを活用するとどんなユーザーの需要にも応えられる、変幻自在なサービスになれる。
#ユーザー
Discordは全体で3億人のユーザーがいると言われていて、そのうち1.5億人が月次でアクティブなユーザー。さらに週次でアクティブなサーバー数だと1,900万を超えている。会社の創業物語からの影響でDiscordのユーザーの多くはゲーマー。新しいサーバーを見つけられる「Explore」タブを見ても、フィーチャーされている10個のサーバーのうち9つはゲーム関係のサーバー。
唯一の例外は「Anime Soul Discord」という50万人のアニメコミュニティだが、このコミュニティは人気ゲームGenshin Impactの情報発信も行なっている。実際にアニメとゲーマーの組み合わせ自体は不思議ではなく、逆にDiscordが徐々にゲーム領域を起点に扱うトピックを拡大し始めている証拠でもある。ゲームという大きなニッチからアニメなど他のサブカルへ展開するのがDiscordの成長戦略の一つでもある。
アニメ以外だとDiscordで盛り上がっているサーバーのカテゴリーは教育、投資、そしてクリプトとWeb3。各グループで共通しているのはインターネットネイティブであること。そもそもアメリカのゲーマーの2割は18歳以下で、学生である。遊び場所・ツールと同じところで勉強すると考えると、Discordの教育カテゴリーがなぜ伸びているのかがわかる。もちろん全ての教育サーバーが高校生以下が所属している場所ではなく、英語や韓国語の勉強をするサーバーや、ゲームを上手くなるための教育サーバーも存在する。学生向けのサーバーだと宿題をお互い助け合い、教え合う、28万人以上いる「Study Together」コミュニティが存在する。実際にサーバー内では多くの人たちがテキスト・音声・動画などを活用して勉強の支援を行なっている。
Discordもこのユースケースを推薦している。新しいサーバーを作るとサーバーのアイデアとしてよくオススメされるのが教育関連の「スクールクラブ」や「勉強グループ」。
Discordの新しい機能として「Student Hubs」(学生ハブ)というものがあり、ここのサーバーでは高校か大学に所属している人たちのみが参加できる。このグループにアクセスするには正しいメールアドレス(.edu)で認証できる。
若者層へのリーチに苦しんでいるFacebookやInstagramを考えると、Discordが上手くこの層を取り組むチャンスがあると理解して動いているのかもしれない。
Discordの人気な投資関連のグループはゲームコミュニティにある擁護を上手く描き合わせたものとなる。これはトップ投資家が集まってアイデアを語り合うValue Investors Clubみたいなコミュニティではなく、かなりカオスな会話になりがちな場所。そういうことを考えると、RedditのWallstreetBets(WSB)がコミュニティのリアルタイム会話をDiscordに選んだのは正解かもしれない。57万人が集まり、本当に理解不可能なリアルタイムカオスがサーバー内で起きている。
WSBのDiscord活用方法はDiscordをソーシャルな場所としてのポジショニングを表している。Reddit以外にもTwitterなど非同期型な配信プラットフォームで存在するコミュニティがディスカッションの場を儲けたいときにDiscordサーバーを作る傾向がある。実際にDiscordの「Explore」機能を見ると「Subreddit」系のサーバーが399個ある。
Discordの最後の人気カテゴリーはWeb3で、NFT、DAO、クリプト投資グループ、クリプトスタートアップとしては最も選ばれる連携プラットフォームになっている。これだけのスピードでDiscordを使うのが普通になったのはかなり驚きだった。今NFTプロジェクトを初めてSlackグループを作ると批判の声が大きい。これはHotmailのメールアドレスを使ってたり、デフォルトの検索エンジンをBingにしていると同じ扱いを受ける。
Web3での人気Discordコミュニティは80万人いるAxie Infinity、15万人いるSushi、8.6万人いるSolana、8.3万人いるLoot、7.2万人いるUniswap、6.9万人いるBored Ape Yacht Clubなど。
それ以外のカテゴリーだと職場向けとしては安全ではないNSFW(not safe for work)も人気になり始めている。Discordの人気チャネルの一つは「Sinful 18+」。
コミュニティ名にも書いているが、これはアダルト系のコンテンツが含まれるコミュニティ。出会い系やアダルトコンテンツはSinful以外にもDating Lounge、Playroom、Paradiseなど複数存在する。
これもDiscordがどれだけ幅広く使われているかを証明している。サーバーのカテゴライズと利用率をモニタリングしているDiscordMeがDiscordのカテゴリー訳をした結果、ゲーム領域が未だに強いことと、人気領域のクリプトでさえまだサーバー数だけ見ると小さい。
サーバー数よりメンバー数の方が適切な指標かもしれないが、この情報だけ見るとゲーム以外にもアート、フィットネス、ミームなどどんなカルチャーの中でも使われ始めているのが分かる。
#経営メンバー
Discordは読みにくい会社。この記事を書くために会社の経営メンバー、従業員、株主などに連絡したが、あまり良い回答は返って来なかった。あまり表に出ない会社なので、我々の分析も外部からの情報をベースにしなければいけない。The Orgによると以下がDiscordの主要メンバー。
前章にも書いたが、Jason Citronさんは平均Discordユーザーと近しい存在。OpenFeintの開発を見ても、Discordを見ても、話している内容などを見てもゲーマーであり、業界を本当に好きな方。Discordの成功は彼のミッションへの親近感を感じるユーザーが多いのが一部あるかもしれない。初期Discordユーザーで現Commsor CEOのMac Reddinさんと話すと、他社と比較してDiscordが成長した理由はゲーマー文化を理解していたから。Macさんによると「ゲーマー向けのプロダクトが少なかった。あったとしても微妙だった」。Discordは何千億円の時価総額の会社として思わないのが重要と語る。
Discordはゲーマーの言語を話せるのが重要で、それが可能なのはJason Citronさんが創業者だったから。
共同創業者のStanislav Vishnevskiyは似た経歴を持っている。彼はJasonさんとOpenFeintを買収したGREEで出会い、Jasonさんが会社を立ち上げたときにCTOとして誘った。GREEとDiscord(当時はHammer & Chisel)の仕事の合間にStanislavさんはMMORPG向けのSNS「Guildwork」を立ち上げた。Final Fantasy、World of Warcraft、Aionなどのゲームを対応するほどのプロジェクトだった。
元OpenFeintメンバーのSteve Linさん以外のDiscord経営メンバーは実はあまりゲーム経験がないが、その分Discordを成長させる経歴を持っている。3月にジョインしたCFOのTomasz MarcinkowskiさんはPinterestで働いていて、今後のDiscordのM&A戦略と上場に向けて担当すると思われている。DiscordのChief People OfficerのHeather Sullivanさんはユニコーン企業であるUdacityで同じ役割を果たしていた。
一つ抜けているバックグラウンドはクリプトかもしれない。経営メンバーでWeb3経験者はいないが、それは当然の話かもしれない。ちょうど大手クリプト企業が出始めたタイミングでもあり、今現在はCoinbase経営メンバーよりGoogle経営メンバーの方が引き抜きやすい。
Discord自体もWeb3業界がここまでDiscordを受け入れることを予想していなかったはず。2021年前だとクリプトにフォーカスしても一般社員の採用に影響しなかったが、今後はそこは変わるはず。DiscordはWeb3領域に参入したければ、そのコミットを見せるためWeb3関連の経営メンバーを採用しなければいけないかもしれない。
ただ、Discordの経営メンバーを見ると最もユニークな特徴はマネタイズを嫌う傾向かもしれない。
#急成長しながら遅いマネタイズ
8月に$15Bの時価総額でDiscordは資金調達すると噂になった時にPackyさんは可能であれば出来るだけ出資したいとツイートした。
未だにその想いは変わらない。コロナ、そしてゲーム領域とWeb3の成長によってDiscordは急成長しているプロダクトで世界的に重要なコミュニティを抱え始めている。Discordがより幅広い層にアピールするタイミングもピッタリだった。去年は670万の週次アクティブサーバーがあったのが1年で3倍成長して今は1,900万を達成。
毎分のように新しいNFTプロジェクト、DAO、DeFiプロトコルが立ち上がっている中、年内に週次アクティブサーバー数が2,000万を超えてもおかしくない。サーバー数が増えているのはユーザー数が増えていると同等。2017年ではDiscordのMAUは1,000万人を突破したが、4年後の2021年では1.5億人を達成。4年で15倍成長とはとんでもない成長率。
比較するとMeta(Facebook)は合計30億MAUを抱えている(InstagramやWhatsAppを含む)。Snapchatは3.47億人、Redditは4.3億人のMAU。Twitterは2019年にMAUを共有しなくなったが、課金可能なDAU(mDAU)は2.11億人で、2019年時点でのMAUは3.96億人。それを考えると、Discordの2015年のローンチから6年でMeta以外に既に今現在のトップアプリが視野に入り始めたことになり、明らかに他社アプリより早く伸びている。
Discordの売上成長率はユーザー成長率を超えている。2016年では$5Mの売上だったのが2020年では$130Mまで成長。
これだけ成長しているが、まだマネタイズ出来るはず。プロダクトのマネタイズ度を見ると、Discord CEOのJasonさんはMetaのMark ZuckerbergよりTwitterのJack Dorseyさんに近しいかもしれない。2020年のDiscordのARPU(1ユーザーあたりの平均売上)はたったの$1.30だった。上場しているSNS企業と比較すると、どれだけ差があるかが分かる。
今のDiscordを見ると、唯一推しているマネタイズ要素がプレミアム課金「Nitro」なのでこの結果に至っていること自体はあまり不思議ではない。今はユーザーがDiscordプロダクトや参加しているコミュニティを応援する気持ちで課金してくれている。Jasonさんの今までのフォーカスは広告や売上ではなく、プロダクトとコミュニティの強化。その結果、かなりロイヤリティが高いユーザーを引き寄せられた。しかもこのユーザー層はかなり価値がある人たちでもある。ゲームのARPUは大体$20〜$60で、クリプトトレーダーたちは高いガスコストに慣れているので、Discordが本気でマネタイズに集中した時にはキャッシュが流れてくるはず。
株主側もマネタイズ問題よりもDiscordの偉大なる可能性に賭けているように見えるので、まだDiscordは時間の余裕はある。Discordほど重要なSNSプラットフォームに投資する機会は中々ないので、投資家側もかなり期待を高めているはず。
#株主
初期投資家はよく会社の立ち上げ時ではアイデアより起業家・人の方が大事だと言う。アイデアは変わるかもしれないが、良い起業家は成功の道を見つける。Discordはこの理論に当てはまる会社。
2012年7月に当初の名前「Phoenix Guild」はYouWeb、Accel、General Catalystなどから$1.1Mのシードラウンドを実行。当時は「ポストPC時代のBlizzardを作る」と言う名目で調達していた。翌年に社名変更して「Hammer & Chisel」としてBenchmarkがリードで$8.7MのSeries A調達を発表。そこでは「タブレット向けのMOBAゲームFates Foreverを開発する」と語った。
2015年にHammer & ChiselはBenchmarkとTencentから$4.5MのSeries B調達を行い、時価総額は$45Mとなった。当時のVentureBeat記事ではゲーム会社へのファーストステップを歩んでいるとJasonさんが発言していた。ただ、Jasonさんは恐らくその時からFates Foreverが正しい道のりではないことを理解していたかもしれない。調達を発表した3ヶ月後の2015年5月13日にDiscordはローンチする。
Fates Foreverはコアユーザーがいたにも関わらずマネタイズが出来なかったが、初期投資家としてはDiscordにピボットして報われた。PitchbookによるとBenchmarkやSeries Aに参加した投資家は$1.95の株価で出資した。2020年12月のDiscordの$7Bの時価総額のSeries Hラウンドでの株価は$280.25まで上がったので、Series A投資家は143倍のリターンを出している(未実現だが)。直近の$15Bの時価総額を考えると、今では存在しないゲームに投資したのにSeries A投資家は約300倍のリターンを出している。
2016年1月にDiscordとして初めて資金調達を行なった。$100Mの時価総額でGreylockとSpark Capitalが$20M出資を行い、そこから成長は止まらなかった。
そこから3年以内にDiscordはIndexとIVPから$50MのSeries D調達、$1.65Bの時価総額で既存投資家から$50MのSeries E調達、そして$2Bの時価総額でGreenoaksがリードで$150MのSeries F調達を行なった。そのあとはJasonさんからすると珍しく18ヶ月間の期間を空けて2020年6月にIndexから$100MのSeries G調達、そして2020年12月にGreenoaksから$7Bの時価総額で$100MのSeries H調達を発表。
そして今年の3月にはMicrosoftが$10〜$12BでDiscordを買収しようとしたが、4月に交渉が途切れたと報道があった。MicrosoftとしてはXBox、Minecraft、直近で買収したZeniMaxなどのゲームポートフォリオに上手く入り込めたはずで、Microsoft Teamsとの連携も考えれらた。さらに他社の大手テック企業とのメタバースへの戦いの中では重要アセットになったはずだが、$12Bのオファーは断られた。
結果として2021年9月に$15Bの時価総額でDragoneerが$500M調達をリードした。クロスオーバー投資家のBaillie Gifford、Coatue、Fidelity、Franklin Templetonも参加したので上場が遠くないことを匂わせた。
2020年の売上を見ると、Discordの$15Bの時価総額は115倍の売上マルチプルとなる。これは一見高く見えるが、Discordは売上を伸ばせるチャンスはいくらでもある。今世界で最も価値があるものはアテンションで、Discordはそれを十分取れている。アテンションをコントロールするものは世界をコントロールする。
DiscordのMAUが50%以上の成長を保ちながらPinterest級のARPUに行くとこの$15Bは安く見える。そしてもう一つ大きなチャンスがWeb3への参入。
#Web3の機会
多くの大手テック企業を見ると、メタバース戦略はコアビジネスの上で何かしらのメタバース事業を立ち上げられるオプションを持っている。Metaは広告事業の上にメタバース事業を乗せられて、Tencentは中国で最も利用されるアプリとDiscord含む世界トップレベルの投資実績を持った上にメタバース事業を乗せられる。
Discordは急成長しているユーザー数と売上のSNSでWeb3のバリューチェーンでは欠かせない立ち位置のプロダクトになっている。疑問としてはこのWeb3の良さを理解してそれに合わせてWeb3戦略を思い切って進めるか?会社としてもWeb3戦略をわざと曖昧にしているが、8月に複数のDiscordユーザーはあるアンケートを受けるように求められた。
2019年にアンケート結果によってDiscordはユーザー層を広げることを決意したので、アンケートはDiscordの未来を揺らぐ重要なもの。今年の8月に出たアンケートの質問をHsakaTradesさんがTwitterで投稿したが、そこでDiscordの次の動きをヒントしていたかもしれない。
漠然としたアンケートだったが、唯一のプロダクトに対しての質問はDiscordネイティブのクリプトウォレットについてだった。これはDiscordがWeb3コミュニティの利用率が上がっていることを理解した証拠でもあり、その領域に入るべきか検討しているのを示した。
それ以外の情報がないため、ここからは我々の想像で、どうWeb3にDiscordが参入するべきかを考えた。
Discordウォレット
8月のアンケートでは唯一のプロダクト関連の質問はDiscordのネイティブクリプトウォレットについてだった。Web3に参入するのであれば当然な展開になる。アイデアとしては全てのDiscordアカウントに対してクリプトウォレットを提供すること。ウォレット自体はMetamaskやRainbowみたいにイーサリアムエコシステムをサポートしたり、Phantomみたいにソラナのエコシステムをサポートするウォレットかもしれない。中立的な立ち位置のDiscordとしてはどのクリプトエコシステムも対応するすること、そしてDiscordプラットフォームではクリプトユーザーがまだ少ないため、クリプトウォレットっぽくない形で提供するのが大事かもしれない。これを実行するには技術的にもUI的にも難しい。
ただ、どの会社よりもユーザーのディストリビューションと信頼を得ているのはDiscordなので、Discordがこのような展開をすると多くの方々がWeb3に参入できる。そしてウォレット連携をすることによってDiscordのプロダクトが拡張される。
・ユーザー同士でメッセージだけではなく、トークンや仮想通貨の送金できるようになる
・Collab.landなどサードパーティボットに頼らずにDiscord内でトークンがないとアクセス出来ないサーバーやチャネルの機能を提供できる
・簡単にコミュニティがメンバーにトークンをairdrop出来るようになる
そしてウォレットを自社で開発するのはDiscordにもメリットがある。
・取引、スワップ、ステーキング、レンディングなどをマネタイズできる
・Discordがインターネット全体のパスポートになる
・ユーザーのウォレットに入っている物に関する体験作りができる
ウォレットはWeb3条ではアイデンティティとアカウントの役割を果たすので、ユーザーがオンライン上で常に持ち歩くものになる。そこにアクセス出来るのは非常に重要なポジション。もちろん、これを実行するにはいくつものハードルがある。そもそもDiscordはクリプト経験者がチームにいない。ただ、ウォレット企業を買収することも可能なので、Discordが本気でWeb3領域へ参入したければウォレットが鍵となりそう。
DAO_OS
数週間前にMarioさんが面白いミームをツイートした:
この「DAOスターターパック」でDiscordが一番最初に出てくるのは偶然ではない。多くのDAOが連携・コミュニケーションするためにDiscordがコアなツールとなった、いわゆるDAO文化に根付いたプロダクト。
以前TwitterやRedditで立ち上がった非同期型のコミュニティがDiscordへ流れ込む話をしたが、Web3の場合はDiscordがより初期段階で利用されている。
DAOをどう始めるかというと、まずTwitterやTelegramで数名の友達に直接連絡して、アイデアや興味度合いを把握する。ある程度の興味があると分かったタイミングでDiscordサーバーを立ち上げてそこで会話を続けて初期オーディエンスを作るのが一般的な流れ。この後にマルチシグネチャウォレットを立ち上げて調達をしたり、Snapshotなどのプラットフォームでガバナンスを決め始める。NFTコミュニティ、ソーシャルDAO、様々なWeb3ユースケースでプロジェクトのスタートは大体Discordから始まる。
これを考えるとDiscordがDAOのOS的なレイヤーを取りに行くチャンスがあるかもしれない。例えば財務管理プラットフォームやガバナンス管理を提供する会社との連携を行うことによってDiscordを出ずにコミュニティマネージャーが一括管理できる場所を用意する。
DAOのスタート時点として使われるほどのDiscordだが、同時に一部のユーザーから嫌われているのも事実。以下ユーザーは大型コミュニティの管理やDAOの連携としては適したツールではないが、今は仕方なく使っていると語る。
今現在はDAOを立ち上げる際にはDiscordサーバーが最も使われるツールになっているが、まだ完全に適したツールではないことは確か。その関係性を深めるためにはDiscord側が連携などを通して機能性を高めなければいけないかもしれない。
取引手数料のビジネスモデル
Discordのビジネスモデルは後から付け加えたもの。Jasonさん曰く、元々の予定はSteamと同じようにゲームストアを立ち上げてマネタイズする予定だった。ストアをリリースする前は売上を作らなかったDiscordは一部のユーザーを心配させた。Discordが顧客データの販売や広告モデルにいずれかシフトすると思ったユーザーを補うために課金型サブスク「Nitro」をローンチした。毎月支払うことによってユーザーは複数のアバター、カスタム絵文字、より良い動画の解像度など特典をもらえるプレミアム課金モデルだった。
ユーザーの心配を抑える一時的なモデルだったが、非常に効果的だった。劇的に体験を変えなくても課金するユーザーがいるのはDiscordへの満足度・愛情があるから。Nitroはユーザーにとって会社を応援・支援するメンバーシッププラットフォーム。このようなマネタイズモデルを抱えている大手テック企業は存在しない。
売上チャネルを増やすアイデアとしてDiscordはプラットフォーム内に売買・投資体験を検討するべき。Discordで会話をしている中でユーザーが他のユーザーに音楽・写真・フリーランスの仕事などを売れるようになったり、それ専用のDiscordマーケットプレイスを用意しても良いかもしれない。クリプト業界でも似たような立ち位置を抱えられる。Bored Ape所有者は会話しているチャネルで売買することが出来たり、Bankless DAOメンバーはディスカッションしながらトークンを購入できるのは非常に価値がありそう。
そしてもちろん、全ての購入はDiscordウォレット上で所有することになる。
今だとプラットフォーム内で購入・投資意欲を抱えた人はDiscordを離れないといけない。Discordは購入意欲がスタートするような場所と考えると、その行動を支援する機能を付け加えるのは相性が良さそう。結果としてはOpenSeaやFTXなどと似たような機能になるかもしれないが、スタートがコミュニティの会話からとなる。
分散型への進化
$1B以上の株式投資を受けているDiscordからすると最後のアイデアが起きる可能性は低いかもしれないが、トークンを活用してDiscordが分散型プラットフォームになるのは面白いかもしれない。
そもそもDiscordとWeb3は相性が良い要素もあるが、悪い要素も存在する。Discordのサーバーはカオスで、多くのクリプト詐欺師がDMに変なオファーを出したりしている。さらにDiscordは分散型ではなく、集中型の会社である。このようなプラットフォームが分散型のプラットフォームへ進化するのは難しいので、ゼロからWeb3版のDiscordを誰かが作るべきと語る方も多い。
David PhelpsさんはWeb3版Discordの要素を記載した:
・トークンでのアクセス権限、リワード、投票機能を組み込む
・ステーキングとイールドファーミングを可能に
・アプリ内賞金やリワードでマネタイズ
・参加者/利用者がプラットフォームのオーナーになる
DavidさんはWeb3版Discordは出てこないと予想しているが、部分的にDiscordがアンバンドル化されて、特定のWeb3ツールが出ると考えている。
Discord自体が分散化した場合、どうなるか?上場するのではなく、$DISCORDみたいなトークンを発行することができるかもしれない。
これは誰も見たことがないピボットかもしれないし、法的に可能かも分からない。ただ唯一出来そうなユニコーンはDiscordかもしれない。そもそもJasonさんとStanislavさんはピボット慣れしている。そして既にDiscordは分散型のプロトコルっぽいサービス。インターネット上でスケールされたUGCコミュニティであり、ユーザーのクリエイティビティに頼り、ユーザーから必要以上にお金を取らないプロダクト。広告を出さないのを証明するためにNitroを出したDiscordとしてはガバナンストークンを発行するのはさらにそれを証明するアクションになる。
分散型プラットフォームへの進化は良いディフェンス戦略でもあり、オフェンス戦略でもある。
ディフェンスとしてはトークン発行はDiscordの課題解決に繋げられるツールかもしれない。コンテンツモデレーションに関わるメンバーを$DISCORDトークンを与えて、スパムを減らすために知らない人へのDMをする際はユーザーが少額の$DISCORDトークンを払わせるのはコミュニティ活性化に繋がる。
オフェンス戦略としてはDiscordのアップサイド、オーナーシップをユーザーに与えるとより多くのコミュニティがDiscordを活用するのと、リテンションを上げる施策になる。アプリ内経済のインセンティブ作りになり、コミュニティが自社でもトークン発行させるインフラにも繋がるかもしれない。
それをウォレットなどと組み合わせると$DISCORDトークンをDiscord MAUの1.5億人にairdropすると一気にDiscordが世界最大級のWeb3プラットフォームとなり、Web3へ何千万人も紹介できるチャンス。Coinbaseでも6,800万人のユーザーしかいないので、DiscordがWeb3に賛同するとインパクトが圧倒的に違う。
もちろん、ここまでの話はただの想像にしか過ぎないが、Discordがユーザーに想像するように命じたのでこのような記事を書いた。現実的に見ると、99.999%の確率でDiscordは分散化してトークン発行はしない。
ただ、急成長しているWeb3ユーザーセグメントを見てDiscordもこの領域に投資するべき。Discordはゲーマーのコミュニケーションインフラを開発したから成功したが、これからはインターネットと言うゲームのツール開発に関わることが出来る。
#インターネットと言うオンラインゲーム
より多くの時間をインターネットで過ごして少しずつPackyさんが書いたオンラインゲーム的な世界になる中で、ゲーマーがゲーマー向けに作ったチャットアプリで多くの人が集まるのは自然な流れかもしれない。Twitterがインターネットのタウンホール(市民が集まる公共の場)であれば、Discordは居心地の良いラウンジや隠されたネットワークになるかもしれない。そこで会社やDAOが作られ、関係性が築かれ、アイデアが生まれ、作戦が練られて、情報がリークされる。今までリアルの世界でも大きなスタジアムより学校のクラスルーム、混雑したレストラン、友達のリビングで人生を過ごして密な会話をすることが多い。
インターネットがWeb 2.0からWeb3、インターネットからメタバースへと進化するにあたり、次の世代のサービスの多くはDiscordの構成を参考にするはず。Metaはメタバースをコントロールしない。メタバースは共通の興味などを立ち上げたコミュニティやスペースを跨げる場所になる。その新しい世界は分かりにくく、最初はカオスのように見える。集中型の利点はみんなが行き場所を指定してくれるので、分かりやすい。分散型のインターネットは地図や出会う場所などが必要になるが、その世界に最も適したプロダクトを作っているのはDiscord。
今はオンライン慣れしている人たちのファネルが存在する。TwitterからDiscordから最終目的地みたいな流れとなる。Discordはそのファネルのどのピースにいてどこを取りに行くのかによって重要な会社、かなり重要な会社、世界的インパクトの会社になり得る。Twitterと合併してインターネットのアテンションを支配するべきか?それともファネルのダウンストリームに行ってWeb3プロダクトと連携するべきか?最近の買収実績を見ると、AR領域へ展開している。Discordサーバーが世界に進化するのを想像しているのかもしれない。
Discordが既にインターネット上で重要なパーツ・ツールになっているため、まだローンチしてから6年しか経ってないことを忘れてしまう。まだDiscord自体もどんな会社になりたいかを理解していないかもしれない。それも会社の強みかもしれない。カオスだがまとめっていて、安定していて柔軟でもある。それを考えると、競合と比べても分散化された世界に最も対応力があるかもしれない。ユーザーの意思を受け継いでそのインフラを作ることが出来る組織。
マネタイズはどこかのタイミングで解決するはず。次の5年で売上を数千億円に成長させるかもしれないが、それが会社の面白みを表していない。Discordはインターネットと言うオンラインゲームの参加者の居場所を作っていて、ゲームは始まったばかり。
Translated by Tetsuro Miyatake (@tmiyatake1) | Edited by Koichiro Miyatake (@komiyatake)